22 あいむ・うぃず・ゆー
「さて、突入前の最後の休憩です。ゼェハァ」
ステイシーが率先して、山肌の途中にあるちょうど良い高さの石に座った。少し上には、『ウォーカー』の数少ない構成員が言っていた小屋らしきものが月に照らされて見える。
山と言っても本格的な登頂ではなく、せいぜい500メートルといったところ。しかし彼女は頻繁に休憩した。その理由は、山を登る彼女を見て気付いた。体力が段違いに多いのだ。多い、という形容すら足りないかもしれない。
山を登るときの歩く早さが、平坦な土地を歩くときの早さと全く変わらない。恐らく持久力という概念すらないのだろう。不眠不休で七ヶ月歩いたというのはきっと、冗談でもなんでもない。
だからこそ、持久力が存在する人間に合わせてこまめに休憩を取っているのだ。ゼェハァと言って疲れたフリをしているのも気遣いだろう。俺としてもいざというときのために体力は温存したいので、ありがたかった。
「ところで気づきましたか、この夜空に」
「ああ。月しかないんだろう。……ん?」
言われて見上げた空に、煌々と輝く月が見える。
それは、数日前と全く変わっていない姿だった。
「今、ゆーも気付きましたね。この世界の空には星がなく、常に満月です」
「そう、だな……?」
「月の満ち欠けは月が地球を約30日かけて公転し、その間に地球がクルクルと30回も自転するから起こることです。太陽や月が上って下るなら、少なくとも地球は自転しています。このことから、月が公転していないと言えます」
「確かにそうだが、それだと地球に落下するはずだ」
「ええ。それが奇妙ぽいんとその一です。地球に落下しない以上は、遠心力に準ずる力によって月が支えられていることになります。キラーン」
彼女は人差し指をピンと立てた。
確かにその通りだ。とはいえ、それを知ってどうすることもできないのだが。せいぜい、新月の暗さを利用することができないというくらいだろう。
「他にもあるのです奇妙ぽいんと。昔あったという星隠れ、星が無くなった理由について、一つの考察があるのです。メガネクイー」
「それは?」
「この世界の人たちは、星が隠れた日を基準に暦を作りました。しかし星というのは無数にあって、明るさもまちまちです。それを考えると“段々と星が消えた”とはどうしても思いづらいです。どの日が星の消えた日だと決めかねます」
「目に見えないだけで、星があるかもしれないしな」
「そうなのです。そこから思い付くのは“一斉に星が消えた”ということ。これならば世界中の誰しもが、納得して使える暦になります」
「だが……そんなことがあり得るのか? 要するに太陽系以外が一気に消えたということだろう」
「無理でもありません。この地球――とりあえず惑星であると仮定しますが――から遠い順番に恒星が消えていったと考えればいいのです。光には速度があるので、地球から見える姿は何万、何億年以上も前の姿となります。それを恒星ごとに調べ、たいみんぐを合わせて順に消していけばパッと消えたように見せるヤツを達成できます。段々と消えていった星が、地球からは一気に消えたように見えるのです」
「ずいぶんとスケールの大きなことを言っているが、無理なことに代わりはない」
「はい無理です。それが奇妙ぽいんとその二。キラキラーン」
彼女は親指を立てた。中指ではないのか……。
「奇妙と言えばもう一つ気になるのは、暦と歴史の関係です」
「陰星歴、今は8000年かそこらだったな。これだけの情報だと、8000年前に星が隠れたということになるだろう」
「中世よーろっぱ的雰囲気ですのでそれを加味すると、弓矢とかができ始めた時代ですかね。じぇむ世界だと」
「じぇむ世界……?」
「じぇーむず・ぼんど。ニコ」
「…………単純に現世でいいだろう」
「では現世と言います。現世にしてみれば、最古の文明と呼ばれるめそぽたみあより古い時点から暦が始まったことになります」
「ほう。そう考えるとずいぶんと長い歴史だな」
「はい。長すぎです。現世を基準に考えれば、今この陰星歴は現世に比べて千年単位で文明が遅れていることになります。なんだか奇妙に感じませんか。ソワソワ」
ソワソワとし始めたらしい。なにか発見でもしたのだろうか。
「それで?」
「ちょっと横道にそれますが、この国の話をします。ろーずまりー王国は交易の中心地であり、他の国からは全ての船が止まる場所ということで“大海原の港”とも呼ばれています。中立国として、他の国とは自衛以外の戦争を行わない上、外国人受け入れや大市場の解放など、古いお国としては珍しく民族主義的な色合いが薄くて交流を大事にしています」
「確かに、珍しいな」
その珍しさに助けられているからあまり意識はしていなかったものの、改めて考えると奇妙な国だ。
「これは言わば、『いんたーねっと』としての機能があるということです。キラキラキラーン」
「あらゆる情報が行き来するから、か」
品種改良というものが積極的に始まっているくらいだから、確かに情報社会としての一面も持ち合わせているかもしれない。
「……つまり、それだけの土台があるのだから現世よりも、文明はもっと発達しているはずだと?」
「勘が鋭いですねわとそん君。その通りです。この世界はまるで、産業革命を無くした現世のようじゃないですか。もーたーがあってばってりーがない世界。技術や文明を誰かが意図的に消していると思えませんか。はい奇妙ぽいんと三」
彼女は薬指も立てた。なぜ中指を飛ばすのだろう。
そう思っていたら、中指と小指だけ折った手を、俺の目の前に出してきた。
「グワシ」
「……」
「……」
「…………そう……」
「…………そうです。気付きましたね」
話題を強行突破された。
「この三つの奇妙ぽいんと。これを解決できる解答はひとつです」
「あるのか。解答が」
「はい。“この世界では神が実在する”のです。あの蒼空の『さのばごっど』が。ババーン」
このスケールの大きな話の結論には、それくらいのスケールの大きい結論が必要になるのだろう。納得はあった。だがそれだけだ。
「神が居るとして、どうしろと?」
「ゆー、浅慮ですね。プークス――わー。待ってください。ガタガタ」
思わず振りかぶった手に、彼女は腰が引けた。
「冗談です。みーが言いたかったのは、なぜ神が太陽系以外を消滅させたのかです。アセアセ」
「現世では人間が勝手に物事を解釈していただけで、神からの答えなどありはしなかった。神のみぞ知るというものだろう。なぜかなど、知ったことではない」
「その通りですね。ですから勝手に解釈しましょう。ズバリ、『人類に神という存在を気付かせるため』ではありませんか。ズバーリ」
感情表現が適当になってきてるな……。
「気付かせるため、か。確かに、信仰文化は根強いものだが……」
「はい。国の各所には教会があって、日曜日には国民大集合、です。ここまで言うとキリスト教のようですが、神話も信仰の対象も別です。しかしキリスト教の神しかり、放置していても神話になったものをわざわざ干渉してきています」
「……つまり、構ってちゃんというやつか」
「ですね。しかもこの世界の『さのば神』は、世界に干渉する系神ということが分かります。それもメチャ物理的に。そう考えると、ゆーとみーが出会ったのは偶然では無いかもしれませんよ。ドキドキソワソワ」
「運命の相手なら他に見つけろ」
「がっでむ。まあ運命は置いておいて、顔の良い女に限ってエロい格好をし、都合よくゆーだけに発情するという奇妙奇天烈奇っ怪状況は神のせいかもしれませんね。ソワソワ。真相に近付くとソワソワしますねソワ」
思わず、ため息が漏れた。確かに彼女の言う通りだった。
「もしも本当にそうなら、俺も言おう。God is son of a God」
「やたら発音が良いですねソワ。中二病ですかソワ」
「その語尾はなんだ」
「ソワソワが止まりませんソワカ。みーはお散歩してますね。ソワソワソワカ」
彼女は立ち上がるなり、早歩きでうろうろと徘徊し始めた。
よほど人とコミュニケーションが取れなかったのだろうか、くだらない会話でさえ、嬉しそうだった。
……どうして嬉しそうだと分かったのだろうか、俺は。妙なこともあるものだな。
ステイシーが、立ち止まる。
ある場所で、山肌のある一点を見つめていた。
「どうした」
返事はない。
「ステイシー?」
立ち上がると、彼女はゆっくりと振り返った。
「なんでもありません。行きましょう」
「そうか」
共に小屋へと向かった。
内部は質素なもので、木の板を立てた壁に申し訳の屋根を乗せ、内部もゴミが数個の棚と酒瓶の乗った机、椅子。それくらいしかなかった。
「秘密の入り口とやらを探すから、少し待て」
「はい」
小屋の入り口に立ち、中を見た。暗いなりに観察してみるが、ただの寂れた小屋ということ以上の情報はない。
入って家具を見る。埃臭いだけで、どこにも変わった特徴はない。それどころか、酒瓶にすら埃が積もっているようだ。
「……人が出入りした痕跡がないな」
「ならば中では無いのでしょう」
ステイシーが小屋の周囲を回った。
「地下へ続く隠し扉などはありませんね」
「なら、“誰が使うか”を考えれば良い。あの男の言葉から、恐らくウォーカーは高齢化が深刻であり、山を上る際には背負われてか馬車のようなもので来るのだろう。背負ったまま通れなかったり、膝の曲げ伸ばしが必須になる構造にはしないはずだ」
小屋の裏へ回り、山肌を眺める。ひとつの大きな岩があるので、その裏を覗いた。
奥へと続く洞窟があった。
「なるほど。老いぼれには相応しい緩やか坂ですね」
「……?」
妙に彼女のボキャブラリーが刺々しい。気に障ることでもしただろうか。
「行きましょう。戦闘では頼りますので、盾は任せてください」
「あ、ああ……」
盾はありがたいのだが、彼女はいったいどうしたのだろう。
壁を伝って洞窟を少し進むと、魔術の物と想われる明かりがポツンとあった。それは松明の、炎の部分だけを消して明るさを残したような、不思議なものだった。少し手をかざすが、熱くはない。
そして明かりの奥、洞窟には不似合いな木製の壁と扉があった。
「ここですね。必要ならまたみーの首を切り落として武器にしていてください」
「分かった。ところで、どうしてそんなに怒っているんだ」
「……。怒ってませんよ。感情を言い忘れていただけです。表情がないのも困ったものですね。ニコ」
魔術の明かりに照らされた綺麗な顔は、眉ひとつ動かさない。
「……そうか」
嘘かどうかは分からないが、要するに解決すればいいのだろう。
「先導します。罠ちぇっく係はお任せください。ニコ」
彼女が扉を開け放つ。罠はなく、中は木の板が貼られていて、それなりに広い家の一室のような様相だった。
散らかっているわけではないが、とにかく物が多く、整理されているものの散らかったように見えた。本、巻物、魔術道具、植物、結晶、動物の臓器まである。
そして中年がひとりと、初老がふたり。三人とも机に向かって作業していた。白いローブや白い白衣を着ている。
「お帰り、成果はあったかね……クククク……」
「あの娘さえ手に入れば不老不死はこちらのもの……グハハハ……」
「永遠……。終わりなき命……ヌヘヘヘヘ……」
……本当に絵に描いたような悪役だな……。
「いますね、ここにひとり」
ステイシーが帽子を脱ぎながら言うと、三人とも物凄い勢いで振り返った。
「お……おぉ……!」
「なんと……なんとついに我々の悲願が……! おぉ……!」
「よくやったぞぉ……ふたりとも……!」
ステイシーしか見えておらず、白い服でもない俺が赤の他人だと気付いていない。
絵に描いたようなバカだな……。
「さぁさぁ……おいで……」
「ん~……完成された命に相応しい美しい生娘ではないか……」
「愛いのう、愛いのう……。少しばかり身体も見せてごらん……グハハハ」
「クククク……」
「ヌヘヘヘヘヘ……」
ステイシーが振り返らず、ただ静かに呟いた。
「……ひとり始末して頂けますか、アランさん」
「分かった」
手近にいたヌヘヘ初老の首の横へナイフを突き立てた。疑問の顔が驚きの顔に代わるころ、背後に回って肉を切りつつナイフを引き抜いた。
血が拭きだし、即座に絶命する。
「ひ……ひぃいいっ!? な、なんだお前……!」
「ち、血が……血がぁ……!?」
混乱と恐怖と悲しみの混じる叫び。しかしステイシーは微動だにしない。
「……アランさん。ナイフを貸していただけますか」
「ああ……」
言われるまま、彼女にナイフを差し出した。
二人は壁まで後退して、お互いを前に出して盾にしようとしていた。
「ま、待ってくれ……死にたくないだけなんだ……どうしてだ」
「も、もうその娘は諦めるっ! こいつの命だけでお許し願う!」
「ま、マスター!?」
彼女は黙って、自分の左手の指を三本切り落とした。その指を、投げて寄越す。
「…………え?」
「研究したければ、どうぞ使ってください」
「…………い、いいんか。本当に?」
「どうぞ。要らないなら返して頂きます」
「いや! いい。使わせてくれ」
「よ、良かったのう良かったのう。グハハハ……」
二人が死体をそっちのけで、彼女の指を持って机に向かった。中年が三本とも持って、始まった老眼相応の距離で観察し始めた。
「いいのか?」
「ええ。ぬか喜びさせたかっただけなので」
ステイシーが指の足りない左手を前に出した。
そして――中年の背中が破裂した。
いや違う。指だ。指が男を貫通し、あるべき所へ戻ったのだ。
さっき彼女の首を戻したとき、強烈な力で手を引かれたのを思い出す。傷を治すときに引力が発生するとは思っていたが、こんなにとんでもない威力だったのか。
「お――げ……えぇ……?」
何が起こったか分からないまま、中年が倒れた。
「ひ……ひぃいいっ!? なん……なんじゃどうした……なん……」
「すていしー秘密ウラワザ真拳。指みさいる、です」
また感情を言い忘れている。彼女はどんな心の表情をして言ったのだろうか。
「ずいぶん強力だな」
「みーのますたーが、アホみたいに強くしたので。以前、これでうっかり惑星衝突を起こしたことがあります」
「…………強力にも限度がある」
「ますたーは頭が良いクセに、頭が悪かったので。それより、そこの腐れ外道ジジイ」
ステイシーが、腰を抜かしたグハハ初老の前に立つ。
「そもそもこの不死性は、この世界で生まれたものではありません。みーの存在した世界の法則でこそ成立する術を、この世界で成立させるのはほとんど無理です」
「だ、だが……お前はこの世界でも……不死を成り立たせているではないか」
「世界人類に蓄積された科学のぷろせすに決定的な違いがある以上、同じところを目指しても異なる結論にたどり着きます。まあ例え再現が不可能と知っていても、どこの人類も不死に憧れています。実際に見るとなおさら焦がれますね。実際に『うぉーかー』がそうでしょう」
ステイシーは微動だにせず、まるで人形のように静止したまま語りを続ける。
「その焦がれは、世界に不要な探求をもたらします。不要な探求は科学のあり方を歪めかねません。みーにそこまでの責任は取れませんよ」
「そ、そんなことにはせん。絶対に秘密にして、我々だけの……今や私だけだが、私だけの秘術にしようではないか!」
「例えゆーが本当にそうするほど誠実で、実際にバレないよう生きられたとしても、今ここで始末します」
「な……なぜだ……」
「あ。感情的になりすぎて大事なことを言っていませんでした。みーは顔や声の表情が作れないのです。ですから代わりに、そのときの感情を口で言います。ですから、改めて言いますね」
ステイシーはグハハ初老の目の前でしゃがみ、いわゆる不良座りをした。美少女とは思えない姿勢だ。
「みーは、今までに無いほどブチキレ散らかしています。表に、ワンちゃんネコちゃんの死体が積み上がっていました。あれはなんですか。ピキピキ」
「…………あ……あれはだな……その……」
「待ちますよ。言えるまで」
老人が口をモゴモゴとさせた。
ステイシーも、口をモゴモゴとさせた。
……あ。
「そ、そうだ。秘術が完成したら犬や猫も不老不死に――」
「ぺっ」
初老の顔に、彼女の唾がかかった。かなり多めに。
思わぬ一撃に、男は顔をクシャクシャにした。
「や、止めたまえ……。ん……?」
シワの深い顔を、ポリポリと掻く。
「か……ゆい……。痒い……! い……イタタ……!」
掻く強さが一気に強くなっていく。
「ひ……ぎ……ぁがぁあああっ!?」
見れば肌が真っ赤に染まり上がり、凄まじい量の水ぶくれが出来ては指で[自主規制]し、腐敗していく皮膚の領域が一気に身体中へ広まっていった。そして顔は皮膚が[自主規制]でベロンと[自主規制]て骨[自主規制]。
「たす……だずげでぇええッ!!」
[自主規制][自主規制][自主規制]。
そして、見るも無惨な腐乱死体になった。
ステイシーが俺へ向き、謎構えをした。
「すていしー☆みらくる☆きる、です。ズギャーン」
そしてキレのある謎ポーズ。しかし惨状とまるで合致していない。
今まで生きてきて、これが一番怖かったかもしれない。アリアンナのセクハラより怖いものがあるとは。
「……む、無理がある。これは奇跡ではなくて生物災害だ」
「そうですか。では……」
ステイシーは直立に戻ってから、同じ謎ポーズを取った。
「すていしー☆美少女☆はざーど、です。ドギャーン」
「そういうことじゃないだが」
「そうですか。はー。スッキリしました。ニコニコ」
「…………」
俺にその資格はないと分かっているが、このゾンビの言動がヤバすぎて思わずドン引きしてしまう。
「引かないでください。温厚で怖いものの無いみーだって、こうした理由でブチキレることはあります。嫌いなヤツはぶっ殺すに限るというのは、長い間生きて得た知見です。ニコ」
「そ、そうか」
彼女はかなり身も蓋もない言い方をするが、それは俺が殺し屋になった動機と同じだ。
「ところでこいつら、パッと見カネ持ちっぽいですよね」
「……まあ、見ようによってはそうかもな」
「とりま強盗しましょう。ニコ」
「コンビニか?」
ステイシーが死体を漁った。
「さすがは金持ちです。『ぽけっとまねー』で金貨が7枚もありやしたぜ。ゲスゲス」
「ポケットマネーだけでそんなに?」
「実に好都合です。では、金貨5枚を支払います。これで依頼成立ですね。ドキドキ」
差し出された金貨を、ためらいながら取った。
正直、殺せる気がしない。
「あ。やべぇ。カネを返せください。『くーりんぐおふ』です。アセアセ」
「あ、ああ……」
彼女が差し出した手に、内心ほっとしながら金貨を戻した。
「すみません。異世界転移の気配です。これでは殺害が間に合わないので、生きてお別れですね。シュン」
「そうなのか」
変化がないようだが、彼女がそう言うのだからそうなのだろう。
「ゆーはツンデレのツンで、顔の良い女を誑かして喜ぶキモで、優男臭の割にポンポンと人を殺す腐れ外道でしたが、なんだかんだでみーに良くしてやっていました。よって好感度最終結果はギリ『ぷらす』です。良かったですね、ツンキモ外道太郎。フウ」
「本当にギリギリらしいな。マイナスの時よりひどいあだ名だ」
「愛情表現ということで。実はちょっと恋してましたが、ムラムラ空間のせいなのでノーカンです。では――」
ステイシーはバッと構えた。
「――――すていしー☆ぐっb」
出会ったときのポーズになる途中で、ふっと消えた。
「えぇ……」
ずいぶんと……半端だな。『ぐっばい』すら言えないとは。
……。
…………。
………………帰るか……。
主を無くした秘密の場所から、とぼとぼと歩いて出ていった。




