閑話 後編+6.5
間が空きました。
どうにかするとは言ってしまったが、何からすべきか。
いや時間もあれだし、ここで考えていても仕方がない。
もう帰るか。
帰ってからゆっくり考えるとしよう。
そうと決まれば病院を出るのは速かった。
なんせ白衣を脱いで掛けて置くだけだからな。
車に乗って15分ほどで家に着いた。
車を停め、家に入る。
「ただいま」
「お帰りなさい。あら?だいぶ疲れているようだけど」
「厄介な患者ができてな。飯は後ででいいか?」
「え、ええ」
美枝が迎えてくれた。
美枝とは連れ会って40年位になる。
息子が一人いたが、それは北海道の大学に行ったきり帰ってきていない。
生き倒れになったのか、はたまた有名な会社に勤めてでもいるのか。
部屋に向かいながらそんなことを考える。
いやいや、そんなことはどうでもいい。
今はあの子の事について考えよう。
受け取った資料に目を通す。
救急搬送されてきたときには出欠多量で死にかけだったと。
記憶喪失は脳に酸素が回らなかったことによる脳の損傷か。
だとしたら運動機能とかも………いや、あの芸当は出来ないな。
しかし、感情の喪失など聞いたことがない。
いくら強いトラウマを植え付けられたとしても。
これは彼女自身が取り戻すしかないか。
そうだとするなら、やらなければいけないことは誘導かな。
早々と退院するそうだし、そうだな。
楽しいとかか。
そうだな。そうしよう。
決まったし飯にしよう。
次の日、ノックをして病室に入った。
「失礼するよ。傷の具合はどうだ?」
「大丈夫です」
「そうか。実は今日ここに来たのは君の感情を少しでももとに戻そうと思ったからなんだよ」
実際には頼まれたのだけれど。
「感情が無くては生きづらいだろうからな」
「……はあ」
「君は楽しいが分かるかい?」
質問から入る。
こうやって段階を踏めば記憶にも定着していくだろう。
「はい。分かります」
「は?」
ちょっと待て。
感情が無いのにどうして分かるのだ?
もしや感情が元に戻った?
いやそれはあり得ない。
戻ったと言うならば………。
いや、一旦落ち着こう。
「で、ではどの様なものかね」
「分かりません」
「……それは、楽しいが分かって楽しいがどの様なものか分からない、ということ?」
「はい」
なんだ、存在は知っていて、感覚は分からないのか。
まあそれはそれでよしとして、いやよしとしたら駄目だが、説明することができるからな。
いつもより丁寧に行こう。
*****
いつもより少しだけ忙しい二日が過ぎた。
お昼を食べてさて行くか、と思ったとき今日は退院の日だと気が付いた。
流石に最後の日までやることもないか。
そう思い、また業務へ戻った。
二時間ほど経ったとき、部屋のドアが突然開いた。
「先生!高橋は何処です?」
息を巻いて入ってきたのはあの教師だった。
「ああ、もう退院されたと聞きましたが」
「そんなはずはない。私が迎えに行くはずだったんですよ!」
言うのを忘れていましたが、精神科や先生などは全て妄想であるはずですので、そこは気を付けてください。
あと今回は閑話と本編がちょっとの構成となっております。