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針が刺さっている。
針には細い管が繋がっていて、その管は何やら液体の入った袋に繋がっている。
しかも、その液体は管を通り針の先から私の体に入ってきている。
分からないけれどそんな気がする。
液体は何だ。まさか毒?
「……………!」
管を握り潰すように掴み、引っ張る。
針から管がとれた。管からは液体が数滴滴り落ちた。
後は念のため針も丁寧に抜いておく。
突然のことで少し焦ったが、害が消えたので落ち着いた。
しかし私が起きるまでにどれだけ体に入ったのかは分からない。
誰がこんなことを………まさか彼が?
と、考察していると女性が部屋の中に飛び込んできた。
随分と急いでいたようだけど、何かあったのだろうか。
「悲鳴のようなものが聞こえたのですが、どうかしましたか?……あ!取れちゃってる」
ゼイゼイと息を切らしながらベッドに手を掛けつつ訊いてきた。
そして、取れている針気付くと私に近づき、抜いた針と管をくっ付け、再度私の腕に刺してきた。
「…………。!?」
あまりにも自然すぎて、流れるような動作だったので刺されたことを気にも止めなかった。
が、気付くとあっという間に悟れた。
こいつは見た目によらずこういうことに手慣れている、と。
私は無言でもう一度、今度は針も一緒に引き抜く。
「ああ。何で取るんですか。ダメじゃないですか!」
あろうことか怒るように言い返してきた。
言いながらまたしても腕に針を刺そうとしてくる。
そうはさせまいと必死に腕を抱き寄せキッと女性を睨み付ける。
殺そうとしてくるな、と念を込めながら。
こいつは彼と同じような人格、思想をしているのか?
「仕方ない。ちょっと待っててね」
そう言って彼女は部屋を急ぎ足で、いや駆け足で、これも違う。えっと、そう、走って出ていった。
彼女も諦めたのだろう。
なんとか逃げ切れたようだ。
少ししてから、女性の声が大音量で、
「312病室の高橋右さんのお連れの方。312病室までお越しください」
と、言った。
少ししてから飛び出して行った女性が戻ってきた。
諦めたわけではなかったのか。
だけど、彼女は戻ってきただけでなにもしなかった。
さらに少ししてからあの男性がすっ飛んできた。
何ですっ飛んできたかは分からないけれど。
かなり切羽詰まったようだった。
「高橋、どうしたんだ!」
「あ、お連れの方ですか。右さんが点滴をさせてくれないんですよ。いかがしましょう」
女性が男性に気付くと、告げ口しやがった。
「……高橋?どういうことだ?」
それはこっちが聞きたい。
「………あなたは誰ですか?私は誰で、ここは何処ですか?」
率直に堂々と興味無さそうに訊いてやった。
まあ、はっきり言って本当に興味ないんだけれど。
「……高橋はどうしたんですか?」
「わ、分かりません。記憶喪失の一種だと思われますが。私ではなんとも言えませんので担当の先生をお呼びしますので少しお待ちください」
そう言って飛び出していった。
男性は私を哀れるような目で見ていた。
そして何を思ったかこぼすようにつらつらと話始めた。
「………俺は藤堂崇だ。そしてお前は高橋右。俺の教え子だ。お前は高校生で俺は教師。お前がダンジョンでオーガに襲われ、パーティーに一人で置いて行かれたんだ」
何も分からなかった。
私が高橋右だということも教え子についても、そもそも教師って何?
けど、そのパーティーとやらが女の子を一人で置いて行くような奴等だとは感じ取れた。
次は少し間があった。
「お前は、今、笑えるか?」