3
遅くなりました。
覚めた。
スルッと何かに入り地に足がつく感触と、フワッと浮き空を飛んでいる浮遊感とが同時に来た。
「………………………………」
?
「…………………………………………」
再び長い沈黙。
目を開けると人工的な閉鎖空間っぽい場所だった。
床の上に仰向けに横たわっていた。
もう、熱くはないが冷たい床が気持ちを落ち着かせた。
肺が膨らんだり萎んだり、息をしている。
私は死んだ、そう分かっていた。
死んだら息はしない。
しかし、今はしている、つまり生きている。
ならば、ここはどこで私は誰だ?
二回目のどうでもいい物語か。はたまた、夢か。
わからないな。
裏切り者の相棒と私を殺した恩人はどこにもいない。見えない。
というかどうでもいい。
憎しみも悔しさも絶望ももうない。
身体中をペタペタと触り女だと確信。
そこで、殴られ暗転。
驚いた、むろんそれだけ。
もう何も感じないし何も記憶に残らない。
世間はこうはいかない。
殴られたら怒るし痛みも感じる。
でも、彼女は違った。
私は違いすぎた。
痛いとはわかるけど痛いとは想わない。
ちょっと、少し、微量に、結構、とても、かなり、とんでもなく、素晴らしく、悪魔的に、根本から違いすぎた。
人格を入れ換えても無いものは無いし、増えることもない。
皿の上の物を別の皿に移しても新たに出現したりはしない。
だから、仕方がない。諦めるか。
起きた。
気絶したからどれだけ時間がたったか分からないが、一時間はくだらないだろう。
………多分。
今度は………ふかふかのベッドに寝かされている。
意味が分からない。
謎なところで目が覚めて、殴られて気絶すれば今度はベッド。
喜劇と称するのが一番かもしれない。
とりあえず起きよう。
誰かに会って聴かないと分からないな。
ベッドを降りると服装も違っているのに気がついた。
一回も着たことのない上等な布を体にはおり、紐で留めるものだ。
よくわからないので部屋を出る。
すると、目の前にいた男性にぶつかった。
「うわ」
「とっとっと、ちょうど迎えにいこうとしてたんだ。高橋、もう起きても大丈夫なのか?」
「…………?…………?」
だ、誰なんだ?
私を迎えにいく?
もう起きて大丈夫なのか?
何を言っているんだ。
私は全然問題な……。
再び3回目の暗転。
急に力が抜けてフラッとよろめき、謎の男性に抱き止められ、気絶。
我ながら気絶しすぎだろう。
こんなのだったら、起きない方がましなのではないかと考えてしまう。
そんなことはけしてしないが。
起きた。
今度は急には起き上がらないでそのまま天井を見る。
今度もベッドの上だった。
数十秒見て、飽きたので寝返りをうつ。
と、腕が引っ張られた。
袖を引っ張るような間接的な感触だった。
けれども、この服には引っ張れるような長い袖はない。
そちらを見ると腕に針が刺さっていた。