第一話 α
高校2年の五月中旬のある日。
「そろそろ、お前たちヤバイぞ」
担任の小川先生は文芸部にそう告げた。
「え?ヤバイってどういうことですか?」
一つ下の後輩、スマートフォンをいじっていた久遠寺千春は訪ねる。
「だから、お前たちの文芸部が廃部寸前の危機だってことだ」
「へ!?」
久遠寺はかなり驚いた表情だった
「いや、いきなり廃部ってなんでですか?」
一つ年下の後輩、久遠寺千春が冷静にもう一度訪ねる。
「久遠寺は別だが残りの三人が去年の部活で何も実績も出さなかったから学校側から必要が無いと提案されたんだ」
「どういうことですか先輩?」
久遠寺は部長の鹿屋和真に話しかける。
「え?なにが?」
それに対して、和真はパソコンに集中していて何も聞いていない様子だった。
「先輩!真面目に聞いててくださいよ!この部活が廃部になるかもしれないんですよ」
「えぇぇぇ!?」
「今さら驚いても遅いですよ」
久遠寺はからかうように言った。
「おい、なんでだよ小川」
「お前らが去年まともに部活をしなかった罰だ」
「失敬な。俺は去年しっかり部活をしていたぞ」
自信満々な和真は胸を張って言った。
「はぁ、お前たちは去年無理矢理人数を合わせて部活を作り、ゲームをやってお菓子を食べ、自由に過ごして一年を過ごしていただろ!」
呪文のように言葉を並べて返した。
「うっ.....」
和真の胸に突き刺さる言葉たち。
「先輩たちは何をしてるですか.....」
久遠寺は呆れた目で和真を見つめる。
「現にお前たちの他の部員はどこへ行った?」
「えっと、航一は空手の稽古。澄原は買い物じゃね?」
「はぁ......まずは全員揃ってから話し合え」
小川先生は溜め息をつき、呆れて言った。
「どうにかしたいならお前達なりに結果を出せ。そうしたら、話は変わるかもしれないからな」
そう言って小川先生は部室から出て行った。
少し落ち着き、久遠寺の様子を見るとジッと睨んでいる。当然の事だろう。
「あ、いや、まぁ話し合おうな」
和真は戸惑った表情で言った。
「まぁ、そうですね......」
納得しない様子だったが、少しは落ち着いてくれたようだった。
「もう、あの事を言って全員で協力しましょうよ」
あの事とは、和真がこっそり書いている小説のことだ。
高校卒業までという目標のために1人コツコツと誰にもバレ無いように文芸部らしい事をしていた。それで作った部活だったのだが、中学からの親友である航一や女子の友人で初めてできた澄原が和真のプライベートスペースをやたら占領し結局去年は何も捗らずに終わってしまった。
しかし、唯一、久遠寺にはバレてしまったが。
そう、あれは去年の秋の文化祭の事だった。
文化祭展示では文芸部は大したことはやっておらず、出す作品もほとんど無かった。
しかし、なんとなく書いた文章を適当に貼っておいたら文芸部っぽくなり、一応出展していることになっていたのだろう。
和真は一人部室でパソコンと睨めっこをしていた。当然、自分の作品を作っている最中だった。
しかし、案は何も浮かばず、話にならなかった。
少し休憩と言うことで自販機に飲み物を買いに行っている間に事件は起きた。
部室を開けて5分くらいだった。文化祭だから一般客も多く混雑していたから戻るのにも時間が掛かった。
どうせ、見に来る客は誰もいないだろうと鍵を閉めずに出て行ってしまった。それが過ちだったのだ。
部室に戻ると一人の少女が和真のパソコンを覗き込んでいたのだ。
「あぁぁぁ!」
大きな声をあげ必死にパソコンを閉じた。
「......読んだ?」
少女に問いかける。
「結構好きですよ。こういう作品。」
ニッコリとした笑顔でこっちに見てきた。
「まぁ、この作品は適当だから.....」
そう言って誤魔化し半分で言うと
「私決めました!」
いきなり、少女が言い出した。
「何をだ?」
「この学校に入ってこの部活に入る事を!」
この学校は一応だが、進学校である。簡単に通るような学校では無かった。和真はかなり受験勉強に苦労をした。
「いや、そんないきなり......」
「私はこの部活に入って一緒に本を作りたいです」
まぁ、断る理由もなくこの場では半信半疑だったので適当に返事をしてしまった。
「その時は、その時だな」
その時の少女が久遠寺千春だったのだった。
「いや、あの事を彼奴らに言うと絶対笑われるから嫌だ」
「そんなこと言ってる場合ですか、廃部になったら先輩の夢も叶わなくなるかもしれないんですよ。二人より三人。三人より四人ですよ!」
久遠寺の言うことも一理ある。
和真の書けない原因は、内容以前にコンセプトがいつまでたっても決まらないのだ。去年も途中まで書く作品は何作もあったが結局途中で挫折してしまった。
「分かった。明日、みんなに話すよ......」
溜め息をつきながらそう言葉を放った。