38.吸血鬼の城
水曜日の夜九時。
一弦コハルが、さらりと凄い事を言ったので、内容を理解するまで時間がかかった。
本当に俺達は頭のネジが二~三本抜けている。
吸血鬼は、コハルちゃんと同じ制服を着てたんだから、同じ学園に紛れ込んでいるんだ。
どうして、そこを、華麗にスルーしていたのか。
《それって、アルキオネが襲ってきたりしない?》
マイクに向かって俺が言うと、《平気です》という意外にも明るい返事があった。それぞれの家から、ゾンビーゾンビーにログインしているので表情までは分からないが……。
《追っ払ったんで、もう大丈夫ですよ。それに、こっちから手を出さなければ、吸血鬼は何も出来ないはずだから》
え?
追っ払えるの? 吸血鬼って……。
《いやいや、無理でしょ。あんなの》
《うーん……。もう金曜日まで来ないと思います。きつく言いましたから》
きつくって……。
コハルちゃん。
君は一体、吸血鬼に何を言ったんだい?
あの一等星のアルデンテですら手を焼いていたのに。
《お待たせ~。何の話?》
タクヤがトイレから帰って来た。
呑気な声がヘッドフォンから聞こえてくる。
相変わらず休憩が多いが、今のところ許容できる範囲。さすがに女子高生を待たせて、ピ――――な事はしていない。いや、していないと信じたい。
《いや、コハルちゃんの教室に、昼休みになったら来るんだと》
《何が?》
《アルキオネが》
《うそ》
《ほんと》
数秒後。
《えええええ――――!! コハルちゃん大丈夫――――?》
大声を出すときは、マイクをオッフだ!
もしくは、外して思い切り驚いてくれ!
《タクヤ! 大声出すな! 鼓膜が破れてしまうと何度も言ってるだろ!》
その後、一弦コハルが散々とタクヤをなだめて、ようやく平常運転になった。
身の危険を感じたらすぐに連絡することを約束して貰う。
《なんだか疲れたな……。次の街はどっちだったっけ?》
決戦の金曜日に向けてやるべき事は、レベルアップと装備の更新。それがそのまま俺達の戦力に変わる。
もちろん天狼と共同戦線を張って、吸血鬼を迎え撃つが、自分達の安全ぐらいは守れないと只のお荷物である。
参考として、救世主が吸血鬼と対峙したときのレベルは三十五だった。さすがに、そこまでは望まないが、三人合わせたら同じぐらいにはもっていきたい。
パーティーに一弦コハルが加わったせいで、驚くほど早く経験値とゴールドを稼げていた。
今はレベル十。
あと二日で狙うんだ。
もっと上を。
《えっとね。北西に行くと【宮前街】で、南西に進むと【鳥居前街】かな。どっちもかなり遠いけど、どうする?》
【世界地図】というアイテムを持つタクヤが案内人だ。【旅人のコンパス】を持つ俺が進路を決める。
宮前って、現実で俺が住んでいる街の名前だな。駅前に寂れた商店街があるだけの目立たない街だ。どっちに進もうか考えていると、タクヤが追加情報をくれた。
《ちなみに、宮前街の近くにcastle of alcyone コハルちゃんに刻印つけた吸血鬼の城があるみたい》
アルキオネの城が?
ああ、そういえば、クエストの一覧にアルキオネ討伐クエストがあったなぁ、なんて事を思い出しながら俺は進路を決定する。
《だったら、北西だ。リアルでアルキオネと殺り合う前に、ゾンビーゾンビーの、あいつの居場所をぶっ壊してやる》
しばらく短いお話が続くかもです。
お城ですか・・・。