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21.日常

「見えますか? あの交差点を右です」


「えっと……。すまないが、もう一度」


「次の交差点を右です。わかりますか?」


「右だね。右にいけばいいんだね。それからは?」


「後は真っ直ぐです。ああ、そうだ。良かったら案内しましょうか?」


「え? 本当かい。お巡りさん。助かるよ」


「いえいえ。ちょっと待って下さいね。おい! 近藤、留守番頼む」


 交番で事務仕事をしていた、もう一人の警官が気の抜けた返事をよこす。

 近藤という警官は真面目だが、覇気がまるでない。

夜勤明けでもないのに、いつも眠たそうだ。

 犯罪行為が起こった時に、警察官の本分をまっとう出来るのだろうかと心配になる。

 

 しかも悪い噂をよく耳にした。


 夜な夜な繁華街をうろついているそうだ。

 別にそれが悪いというのではない。どこかの店に寄るわけではなく、ただうろついているのが気味が悪いのだ。一体あの界隈で何を目的に徘徊しているのか。


「すぐ戻るからな。わかったな近藤」


 近藤の返事を聞くわけでもなく、親切な警察官は腰が曲がったお婆さんをエスコートしながら歩き出す。

 この地区は治安もよく、警察が出動する事件など滅多に起こらない。今日もこの年寄りを目的地まで送っていったら、あとは勤務時間が終わるまで、事務仕事になるだろう。

 あの近藤に押し付けてやってもいいが、それをする程の量もない。それにあの目。時折死んだ魚のような目でこっちを見てくるのだ。あまり関わりたいと思う相手ではなかった。


「さあ、着きました。これで帰れますね。三十五番のバスに乗ってください。あ、ちょうど来ましたね」


「ああ、どうも有り難う。助かりました」


 バスに乗るのを手伝っていると、窓際に座っている女性と目が合った。色の白い、華奢な娘だが品のよい美しい顔立ちをしている。


「では、私はこれで。お気をつけて」


 と言った瞬間にグゥーと腹が大きく鳴った。

 バスのエンジン音でも消せない音量だ。

 品の良い娘と、また目があった。


「す、すいません。何も食べてなくて」


 娘はにっこりと微笑んだ。

 とても気まずい時間が流れるが、すぐにバスのドアがしまって視界が遮られる。

 窓際の娘は、美しい横顔の余韻を残して走り去っていった。


「はぁ。腹がすいた。まったく情けない」


 食わなくても一ヶ月ぐらいは何の問題もない。

ただ、日に日に飢餓感が増していくだけだ。それに耐えるのが、とても辛い。

 昨日の失敗は寄り道をしてしまった事だ。

強い輝きを放つ生命力を感じたからだが、いつも通り、女性の血だけを求めていればよかったのだ。


「慣れないことは、しない事ですね」


 自嘲気味に警察官は笑う。

 食事の邪魔をした天狼には、一泡吹かせてやるつもりだ。もと一等星シリウスが仕切っている組織だが、もう彼等は吸血鬼ではない。ならばいつも通り、狩りの時間が始まった瞬間に襲いかかるだけだ。

 だが、腕っぷしの良い者達が揃っているようだ。

また、食事が出来ないと大変困る。こちらも充分過ぎる準備をして行こうじゃないか。

 天狼に恨みを持つ者は案外多い。

 金曜日までに、そいつらに声をかけておこう。


 あの女。

 天狼の生意気な女。

 あいつの血は、どんな味だろうか? 

 元吸血鬼の女だ。まったく想像がつかない。


 グゥーとまた、腹が大きく鳴った。


「うう……。腹が減った。目が回りそうだ」


 交番に戻ったら、またあの無気力な人間の相手をしなくてはならない。帰る足取りが異常に重たかった。


ん? シェルタン?

ってなりましたか?

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