Wanderer
財布を持っていくの、忘れた
けれども、今さら引き返す気にはなれない
偽りの愛情が満ちたあの空間は
疲れきった僕の心に、優しく語りかけるだろう
『あなたは間違っている』と
そして、温かなご飯を作ってくれるんだ
僕はそれを、涙を滲ませながら食べて
あの人たちはそれを見て、涙を流してる
その涙の意味の違いに
埋められない溝に、絶望していく
そんな自分が想像出来るから
もう感覚が失くなってきたこの足で
とにかくペダルを漕いでいる
目に映る人々は、なんだかとても幸せそうだから
人通りの少ない道を選んでいく
『死んでもいい』
生きたがってる僕の本能から
むかつくくらい澄んだ空に向けて、搾り出された言葉
誰も聞いてないから言えた言葉だけど
誰かに届いてほしかった
なんだか物がゴチャゴチャ置いてある
埃まみれの小さな家屋
茂みの中に自転車を隠して
フラフラとそこに入り込んだ
顔に纏わりつく蜘蛛の巣を
静かな気分で取り除く
適当な場所を見つけては
糸の切れた人形みたく、そこへ座り込んだ
肺に流れる汚れた空気に
少し胸がムカムカしてきた
『もしかして、潔癖症?』
そんなふうに言ってた、あの時のあいつを思い出し
僕は口元を緩ました
どこからともなく現れた
醜い姿の大きな蜘蛛
僕は思わず追い払いかけたけど
振り上げた手を途中で止めた
さっきのあれは、おまえの巣?
だったら、悪い事したな
心にもない謝罪を頭の中に浮かべ
僕は静かに立ち上がった
罪悪感
理由は、そういうことにしておこう
家に帰る道のりは
必死で考えれば、なんとかわかった
そんなことを考えている自分が
情けなくて仕方なかったけど
僕がどうにか生きられる場所で
僕が思う自由を手に入れられない
この孤独な旅に出かけた覚悟を
あの人たちはきっと、単なる気まぐれと言うんだろう
戻りたくない日常に戻り
それでも僕は、生きていく
答えはまだ見つからないけれど
生きてりゃ、なんとかなるだろう
そんなことを考えながら
今日の夜も、眠りにつこう