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アダムとアダム  作者: 一
1/1

1、初めまして

 今日も嫌な日だったな。最近は電車の中で嫌なことばかり考えるのが日課になっている。夕日がまぶしい。学校なんて行くんじゃなかったってしょっちゅう思う。でも、家族には言えない。電車を降りる。あぁ、いつからこんなことになったんだろう。将来のことを考えると憂鬱になる。改札を通る。いっそ皆死んじゃえばいいのに……


 気が付くと僕は知らない場所にいた。通学路とは全く違う風景、周りには誰もいない。最初は夢かと思ったが、痛覚はしっかりと存在している。不安もあったが、何か楽しそうな気がした。とりあえず、僕はあたりを散策することに決めた。


 中世ヨーロッパで建てられるような建物が連なっている。とても綺麗な建物で、一度住んでみたいなと思った。しかし、そこに誰かがいるような気配はない。途中、家の中を見たりしたがやはり誰もいなかった。僕以外の人が皆死んでしまったのかと思うくらい静かだ。急に僕は寂しくなった。

 

 この街は大きなお城を中心に街が広がっており、街の端は高い壁で囲まれている。出入りをするような門は見当たらない。ぐるっと見て回ったがこの街から出られそうな場所はなかった。どこにも人がいるような気配はない。息が上がる。


 もう日が沈もうとしている。あたりは暗く、街灯や家の電気は1つも点いていない。日の当たる場所と影との境界線もだんだんぼやけてきている。それと同時に、僕の恐怖心がどんどん大きくなってくる。  

 あまりにも非現実的でこの世にいる気がしない。死んでしまったのは皆ではなく僕の方で、今僕はあの世にいるのではないかと思えてきた。息が苦しい。


 僕は焦った。どこかに人がいないかと探し回った。とても不気味な建物で、1つ1つが悪魔の住処なのかと思う。とても住みたいとは思えなかった。視界がどんどん悪くなる。ここはどこなのか、いったい何なのか、それを知りたくて探した。怖い。僕が死んでいないと確認したかった。怖い。夜になってしまえば元の世界には戻れない気がする。走った。僕は走った。怖い、ただ怖かった。何もわからない。どうすればいいのか、何もわからない。だから走った。走ったら何かがわかる気がして、がむしゃらに走った…… 息が止まる――


 夜になった。あたりは暗く何も見えない、音もしない。何も感じない、息もできない。ただ、恐怖心だけが膨らんでいく。僕は本当に死んでしまったんだと思った。僕は走ることも何もかも諦めてしまった。その瞬間、明かりが点くのが見えた。その場所は街の中心にある城の一室だった。

 僕は安堵し、少し冷静になった。大きく深呼吸をすると、大量の汗で制服が濡れていることに気が付いた。カバンからタオルを取り出し、汗を拭きながらその場所へ向かった。


 明かりが点いていた部屋のドアまで来た。もう一度大きく深呼吸をする。深呼吸をしている間に考える。もし、この先に誰もいなかったら…… また不安になる。不安になりながらもドアを開ける。すると、僕の不安は一気に吹き飛んだ。バルコニーで女性が1人、街を眺めている。

 声をかけようとした瞬間、彼女が振り向く。18歳の僕と同じくらいの歳に見え、身長は160センチくらいで僕と同じ学校の制服を着ている。クリーム色の髪をなびかせているのがとても綺麗だ。柔和で人懐っこそうな顔をしている。

 そんな人懐っこそうな顔に満面の笑みを浮かべ、彼女は僕にこう言った。

 

 「初めまして、でいいのかな?それと、ようこそ!楽園へ!」


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