ダグラス大佐のデータ整理 ミユキ大佐編
※これは一木が第049機動艦隊に着任する前の話である。
艦隊首席参謀の仕事は、参謀達の意見を取りまとめ艦隊司令に提出することと、各参謀部や師団長達への内部監査である。
しかし、もう一つ重要な仕事がある。
それは、艦隊参謀の記憶やデータを取りまとめ、情報を取捨選択して共有する作業である。
言ってしまえば簡単だが、各参謀の個人的な記憶や、不必要なデータを排除して、必要なデータだけをより分ける必要があるため、参謀型SSのスペックを以てしてもかなり困難な作業である。
そのため、この作業が不得意な首席参謀の艦隊だと、変な記憶やデータが参謀達に流出して大変な事になったりするのだが……。
この点、第049機動艦隊のダグラス大佐の手腕は見事なものだった。
「うーん……ミユキは問題無しだな。業務情報をメインに共有しておこう。あ、やっぱりミユキと艦船たちとの口論の記憶はやめておこう。ミラーが怖がる」
首席参謀の執務室。
そこではダグラス大佐が、自分の首の裏側のコネクトと接続された端末を片手に、妹分でもある艦隊参謀達のここ数日の記憶やデータを確認している所だった。
こうして確認したうえで、ダグラス大佐が必要と判断したデータを艦隊参謀全員で共有するのだが、下手なデータを共有すると誰かのメンタルへ悪影響が生じたり、師団長達人間の個人情報流出につながるため、こうして慎重に判断しているのだ。
現に今も、ダグラス大佐はミユキ大佐と重巡洋艦クリス・カイルとの口論のデータを共有対象から外した。
広島弁全開でキレるミユキ大佐と、スラング全開で怒鳴るクリス・カイルの記憶を共有してしまうと、ああ見えて臆病なミラー大佐が怯えると判断したためだ。
ちなみに、口論の原因は遠距離砲撃に拘るクリス・カイルにミユキ大佐が意見したためだ。
重巡洋艦はエリート意識が高いため、艦務参謀とはしばしばこういった衝突が起こるものだが、ミユキ大佐の場合この頻度と口論の規模が桁違いに多かった。
「殴り合いになってるし、最後にはお互いホラー映画の怪物みたいな顔になってるじゃないか……いつだったか、ジークが二股がばれて殴られたデータ共有したら、ミラーの奴泣きながらジークに縋りついてたからな……」
製造順で言うとミラー大佐は一番若いが、ミユキ大佐は姉妹の中でその次に若く、その差も小さい。そのせいか二人は非常に仲が良かった。
他の姉妹に甘えたり泣きついたりするのを除けば、ミラー大佐が最も心を許しているアンドロイドと言っても過言ではない。
しかし、それだけに艦船SA相手にキレるときの剣幕が怖いらしく、出来る限りあの時のミユキ大佐からは遠ざけてやる必要がある。
「ミユキもなあ……もう少し艦船連中との付き合い方をなんとか……はぁ……」
下っ端口調でしゃべる妹の素行を嘆きつつ、ダグラス大佐のデータ整理は続く。