第2話
あとがきにはキャラ紹介しますので文章でキャラが分かりにくい人はこちらでご覧ください。
あとこぼれ話も
同日 15:32分
S県八条市
県立八条高校
「ばっかだな、お前」
5限目の古典は終了し休み時間に入った現在、複数の生徒が一人の少年を馬鹿にしていた。少年は夏川純一で、彼は授業中居眠りをしていたが、それが教師にばれてしまい来週の授業に古典訳を教壇の前で発表するという羞恥のプレイの予約をされてしまった。しかも、教科書だけでノート無し。そもそも彼は寝ていたのでノートをちゃんと取れているか知れないが…
罵る声が聞こえるが夏川は無視した。言い返すと何を言われるか分かっているから…
彼は決して成績が悪いわけではない。ある程度の知識は持ち合わせている。しかし、古典だけは苦手だった。羅列された古文字と蛇のように曲がった漢字は解読不明。おまけに古典だけ書き込みの授業。つまり、次々と書き込むので黒板に書いた説明をすぐに消してしまう。生徒のやる気をなくす授業、彼は少なくともそのように認識している。その為、古典が成績不振なのかは知らないが。
「災難ね」
気がつけば、この少年たちの中には似合わないくらいかわいい少女がいた。
夏川は聞きなれた声に反応し顔を上げる。
「木村…さん?」
少女は笑顔で答えた。
木村加奈子はなかなかの容姿を持ち、それなりに親しみやすい子だ。しかし、彼女には少々困った癖がある。万引きとさぼり癖だ。万引きもさぼりも当時付き合っていた友達による影響であり、事を起こす度に補導されていた。彼女は中流家庭で両親は共働き。そのため、家に帰らないことも多い。不良少女というやつだ。
夏川の彼女に関する新しい記憶を探ると、1.2週間前に万引きで補導され、謹慎処分を受けていたはず。ここにいるということは謹慎は解けた?
「謹慎なら三日前に解けたよ」
三日前と言うと月曜、謹慎は1週間前か…。
「よくみつかったね。いつもちょろいって言ってたのに」
「そうなのよね。友達が見つかって、売られた」
売られた?その言葉に反応し突っ伏していた体全体を起こした。
「マジ?」
「マジよマジ。そのせいで親は来るわ、髪も染め直されるわ、反省文も書かせるわで大変だったのよ、マジで」
彼女の言う通り派手だった茶髪から漆黒の黒髪には染まっていた。黒髪は彼女自身を引き出すかの如く美しい。夏川個人としてもあんな派手な色より黒の方が似合う。
「あんなのと付き合うからだろ。いい加減縁切れよ」
一応言ってみた。今までも言ってきたが耳を貸さずいたがこんどはと思い言うことにした。
「形だけなら縁を切ったわ」
今の発言で眠っていた、眠りかけていた全神経が覚醒した。夏川は立ち上がり机に身を乗り上がった。
「ほんとか今の」
「うん。といってもあたしが一人で言ってるだけだしね。向こうはそんな気はないし」
夏川は嬉しい反面複雑な気持ちでいた。こんなに早く別れるならもっと早く…あの時は……
「加奈子」
ふと声のする方へ目をやると一人の男子生徒が出入り口に佇んていた。
「しゅうちゃん」
加奈子はしゅうちゃんと呼ばれた男子生徒のもとへ駆けだし、抱きついた。
片岡修平。今の加奈子の彼氏。
そうだった。元に戻ってももう戻らない…あの頃には……
加奈子がじゃあねと声をかけ廊下に出るが返事をしなかった。いつ見てもあの二人のカップリングは胃がきしむ。奥歯を噛み、色のない眼で見送る。少し反応して手を上げるが、もうそこには誰もいない。その一部始終を見ていた、あの罵っていた男子生徒達はこちらに近づき、気にするなと肩をたたく。普段馬鹿にする癖に余計なところで気を使う。名も知らない男子生徒に最大限の感謝を送った。
氷室徹夜は授業の開始から休み時間の間中ずっと本を読んでいた。本のタイトルは『近代哲学と現代社会』。図書館から三日前借りた哲学書は彼の時間つぶし専用と化していた。授業中ならず休み時間昼休みもそのような類の本を読む彼は周りから異端者とされ、クラスから除け者とされていた。転校した初日から周りとはあまり話さず、読書を続ける彼は親しき友人はほんの一握り程度だ。
次の章に移るとき、1時間休みなしで読んだのでしおりを挟み目薬をしだした。改めて眼鏡をかけ、外の様子を見たとき彼は初めて知ることとなる。これから始まる地獄と試練を…
校門前では多量の車が停車し、渋滞を引き起こしていた。整理にあたった教師も困惑している状態だ。生徒の保護者達が一斉に迎えに来たのだ。それも、参観日でもないのに両親で。中には兄弟であろうか幼さが残った少年少女もいる。よく見れば、車内やボンネットの上に旅行鞄を持ちこんでいた。家族旅行というわけではなさそうだ。だとしても、無計画すぎる。
息子を迎えに来たんです、娘を…、会わせてください、門を開けて…、そういった一方的なやり取りに教師は動揺するばかり。さらに集まってくるので事態はさらに悪化している。
警察でも呼ぼうかな、そう考え職員室にへと向かおうとしたとき、父兄らが門を勝手に開けようとした。教師たちは止めようと抑えたが、一人や二人ではなくどうしようもなかった。
ついに門が開かれ、車が動き出す。教師たちは隅に避難し見送った。先頭車両が走行中、一人の男性が道路の真ん中に立ちふさいだ。あわててブレーキを踏んだら後ろの車両と激突。クラッシュを起こした。車が玉突き事故を起こし、教師が事態の収拾にあたる。先頭車両を運転していた父兄が文句を言いに近づいた。
男性は生気がなく口を半開きにしてよだれを垂らしていた。姿から見れば、どうやらここの清掃員のようだが…
父兄が手を伸ばしたとき、清掃員が手に噛みついた。
悲鳴を上げる父兄。助手席に乗っていた妻が止めにかかるも口を話さない。教師も異常な事態を察知し近づいた。父兄が力任せで引き離し妻が噛まれた手を介抱する。
「肉を…肉を食いちぎりやがった」
再び襲いかかるころには教師たちも到着していた。
「我々の不手際を申し訳ありません」
教師の中でも年配の教師が襲われた父兄に頭を下げた。残りの教師は清掃員を抑える。父兄は食いつかれた手を抑え息継ぎをする。それは大きく何度も息継ぎをしている。
「教頭先生ー」
呼ばれた方に向きなおすとそこには清掃員と同じ生気のない顔をした者たちがこちらに近づいている。父兄らも何とか逃れようと我先にこちらに向かう。誘導にあたっていた教師は奴らに襲われ絶叫を上げる。絶叫は遠くからも聞こえた。
「なっ何が起きて…」「ぐぇ、が、が……」
取り押さえていた教師に清掃員が噛みついていた。鮮血が清掃員にかかる。押さえていたもう一人の教師は走って逃げていた。
混沌というのはまさにこのことだった。生者と死者…、最もたとえ安く分かりやすいもの。地獄に帰れなくなった住人は地上に現れ、腹いせ紛れか道ずれのつもりなのか、我々(生者)を襲い、ともに彷徨わせる。
死者の波は教頭にまでおよび、さらに数を増す。
この時にはさすがに生徒たちも気が付いていた。
このことがもっと早く気づいていればおそらく……
夏川純一(17)
身長177cm A型 8月25日生まれ
短髪の黒髪でなかなかの美形。おせっかいな性格で特に親しい友達はおらずあまり満足した学園生活を送ってはいない。以前は加奈子という彼女がいたが、文章で書いてある通り、悪い友達との付き合いで度々の衝突(純一が加奈子の万引きを店員に告発し謝辞の言葉と被害損額の返金がばれた)で破局。それからは後悔しつつも加奈子の非行を止めるべく何度も説得。このおせっかいが後々に不幸をもたらした…
木村加奈子 (17) O型 11月5日生まれ
ズボラな性格で、流されやすい。文中通り結構な美人。純一という彼氏がいながらも修平と度々…。純一のおせっかいには感謝をしつつも態度に示さない。修平と付き合っても純一のことは気にかけている。周りの女子からは尻軽と呼ばれ一部敵視している。
片岡修平 (18) AB型 4月1日生まれ
純一たちとは一つ上の先輩。読者モデル採用と言ったかなりの容姿。加奈子と付き合う前には様々な子と付き合っており、今でもその関係は…。実は加奈子が流されやすい性格を知っており、悪い友人を仕向けおせっかいな純一の性格を利用し破局にへと追いやった張本人。
氷室徹夜 (17) A型 11月25日生まれ
読書をこよなく愛する男。もともと地元民ではなく沿岸地方から引っ越してきた。一人暮らしで両親は妹と前にいたところに住んでいる。文中でも述べた通り友達は少ない。ある事件が原因で山で囲まれた八条市に引っ越した。
教頭先生 (55)
おまけです。生徒第一で穏健な人。木村加奈子らの数回の補導に関しても、全て1週間という割と軽い罰で済ますなどして上から睨まれている。 加奈子らは味をしめており、大して反省しておらず、むしろ怒りを買っている。う〜ん、恩知らずな奴。