どうして私なの?
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side:エレナ・ルーシュ
「エレナ、これ乗れる?」
目が覚めてから次の日になり、アイシャ先生が言っていた呪いを見てくれる人のところに移動するため、車いすに乗り込む
一日休んでも、左半身は全く動く気配はなかった、ただ、一応変化自体はあるにはあった
「どこまで移動するんですか?」
「そこまで遠くはないけど、少し移動するよ」
「わかりました」
自分では、車いすを動かすことはできないので、アイシャ先生に押してもらい移動する
「やっぱり、不便ですね、使えないところがあると」
「そうだろうね、自分でトイレも行けなかったでしょ?」
「はい、さすがにトイレまで介護されるのは、恥ずかしかったです」
介護してくれたのは同じ女性であったが、裸を見られるのはまだいい、ただトイレに関しては本当に嫌だった
「まあ、もしこれから行くところで治らなかったら、当分介護が必要になるよ、だから慣れなきゃ」
「まあ、そうなりますよね、でも、治りますよね?」
今から見てもらう人は、今までどんな病気や呪い、けがなどで治せなかったものはないほどすごい人らしいので、その人なら治せるだろうとは思っている
「ええ、99.9%治るから、安心して、ただ、絶対はあり得ないわ、万が一治らなくても、現実を受け止めてね」
「え、あ、はい」
なぜここまでアイシャ先生は保険をかけてくるのかわからないが、その確率ではまあ、治らないことはないだろう
「ついたわよ」
「ここって・・・教会?」
到着したのは、結構古めの教会であった
「なるべく人目につかないところを選んだの、あまり治療しているところを見られるわけにはいかないから」
「はあ、わかりました」
なんだか理由があるのだろうが、別に気にはならないので、流し聞きする
「多分すでにいると思うから、入りましょう」
そのままアイシャ先生が車いすを押していき、教会の中に入っていく
「お待ちしていました」
すでに中には二人、待機しており、私たちが入ると同時に立ち上がり、こちらに歩み寄ってくる
「説明は事前に聞いてますので、さっそく始めましょうか」
目の前の女の人が、アイシャ先生から車いすのハンドルを受け取り、奥の部屋に向かっていく
「シイルとアイシャさん、だれも近づけないようにお願いしますね」
もう一人連れてきていたのは、護衛なのだろうか、教会の外にでて、あたりの見回りに向かった
「服は自分で脱げる?」
「ちょっと、難しいですね」
「なら手伝うわね」
一応脱ぎやすく、着やすい服は着ているが、体半分が動かないので、自分でうまく脱ぐことができない
「ありがとうございます」
手伝ってもらいながらも、なんとかすべての服を脱ぎ終えて、ベッドに横になる
「じゃあ、見ていくね」
まずは触診から始まる
模様が入っている左半身だけではなく、何も問題がないところも触っていく
「うん、触った感じはおかしなところはないね」
そして、わかった結果をメモしていっている
「あの、これって必要なんですか?」
ずっと見ていたけど、どうにも呪いを解くことに関係しているとは思えない
「私のはちょっと特殊でね、どんな呪い、病気、けがも治せるけど、事細かに症状を知る必要があるの」
「? なるほど」
あまりよく分かってはいないが、わかったふりをしておく
「ちょっと針で刺していくね、痛覚があるかどうかの確認だから」
すごく細い針を取り出して、それを模様のところに刺していく
「刺してる感触、ある?」
「えっと、刺されてるとはわからないですけど、どこを刺されているかはわかります」
昨日は全く感覚がなく、どこを触れてもわからなかったが、一日たって、集中すればどこを触られているかなどはほんの少しわかるようになっていた
「なるほどね・・・」
そのことを伝えると、一度メモしていたものを置いて、考え込む
「うーん・・・」
「どうしたんですか?」
「いやね、動かせないのに、感覚は一応ある、模様も刻まれたわけでもなく上から書かれているわけでもない、こんなの、見たことも聞いたこともなくてね」
「? はあ、それで、治りそうですか?」
「もうちょっと見ないと分からないかも」
そして、また診断を再開する
「もしかしたら、痛いかもしれないけど、我慢してね」
女の人は小さなナイフを取り出して、模様が入ったところの皮膚を切り取ち、眼鏡をかける
「え・・・、どうして?」
そして、切り取った皮膚をみて、深刻そうな顔をしてつぶやく
「この眼鏡でこれを見てみて」
一つ眼鏡を渡されて、それをかける、そして、差し出された物を見つめると
「出た?」
「えっと、文字がいろいろ」
目の前には、だれの皮か膚についての説明や、状態など様々な情報が乗っていた
「これは、呪われた人の皮膚の一部ね」
「そうですね、状態ってところに呪いって書かれてます」
「それじゃあ、次は自分の皮膚を見て」
差し出された自分の皮膚を見る
「状態・・・・通常?」
「そのまま、自分の体も見てみて」
言われるがまま、自分の体に目を向ける
「こっちも・・・通常」
先ほど見た皮膚と同様、状態のところに書かれているのは、呪いという文字ではなく、通常と書かれていた
「これって・・・どういうこと?」
自分の体は、見るからに呪われている、このことに関しては、アイシャ先生も、目の前の女の人も肯定している、であるのにかかわらず状態は通常となっている
「つまりね、呪われていないの」
「は? え、じゃあ、これは?」
「呪いじゃなくて・・・えっと、なんていうんだろう、上書き?」
「上書き?」
「いま、この状況が、君の正常な状態ってこと、だから、治そうにも、治すところはどこもないの」
頑張って理解する、つまり、今、この体に模様が入っており、動かせない状態が、私の正常な状態、どこも問題がない、ということだ
「そんな・・・じゃあ、治せないって、ことですか?」
どこにも問題がないのだから、治すということ自体が不可能ということになる
「そうなるわね、でも、希望はもって、昨日は感覚もなかったんでしょ? それが一日たって少しでも感覚が戻った」
「・・・・」
治らない、という事実を突きつけられ、放心状態になる
「きっといつか、元の状態に戻るはずよ」
「・・・・本当ですか?」
放心状態になりながらも、言葉に返答する
「ええ、きっともとに戻るはずよ」
「そうなら・・・・いいですね」
「治せなくて・・・ごめんなさい・・・」
女の人が、治せないことに謝罪してくるが、別に攻めるつもりはない
「少し、一人になっても、いいですか?」
ちょっと今は何も考えられない、心を落ち着けたい、なので、一旦一人にしてもらう
「わかったわ」
すぐに出て行ってくれて、部屋に一人になる
「・・・・・」
治らない、自分の体だからなんとなくわかる
これは自然に治るものではない、だって、治るという見込みがない、動かせないしほとんど感覚もないのだから、リハビリのしようもない
「・・・・・」
これから、ずっと、介護されて生きていかなければいけないのか
自分で生活もできなくなる、だから、また昨日みたいに介護されて生きていくことになるのだろうか
だんだんと理解していき、涙が出てくる
「なんで? 何で私なの?」
そもそもの疑問、どうして私がこんな目にあっているのだろう
「そうだ、アルカ・・・」
思い出してみると目覚めてからアルカを見ていない、アルカと話したい、なんで私がこんな目に合ってるのか、アルカならきっと慰めてくれる、諦めるなって言葉をくれる、一緒に頑張って治そうとしてくれる
「まだ私が起きてるってことに、気付いてないのかな?」
そうだ、私が起きたことを知っているのはアイシャ先生と、病院の人、お姉ちゃんだけ、その中のだれもアルカに伝えていなかったら、起きているなんて知らないだろう
お姉ちゃんはずっと一緒にいたから、伝えてないって知っている
アイシャ先生も病院の人も、アルカに伝える理由がない
「そうだ、アルカに会いに行こう」
アルカが知らないなら、きっと驚いてくれるだろう
バタン
アルカに会いに行こうと、左半身が動かないのを忘れて歩き出そうとしたが、やはりその場に倒れてしまった
「アルカ・・・・・、何でこんな目にあってるのかな? 何か悪いことでもしたかな?」




