半覚醒・復讐心
・60・
side:アルカ・ロワール
目の前に、ベッドの上に横たわる、一人の人物を眺めていた
「・・・どうして」
ベッドからはみ出ている手を取り、握りしめる
治療後であるので、手はきれいな状態であったが、握りしめても握り返してくることはなかった
「できる限りの治療はしたわ、ただ目が覚めるかどうかはわからない」
後ろから、この患者の治療に当たったアイシャ先生が声をかけられるが、まったくその言葉が頭に入ってこない
「・・・・どうして、ねえ、返事をして」
ベッドに横たわる人物に、ひたすら声をかけていく
「返事をしてよ・・・エレナ」
ベッドに横たわり、静かに死んでいるように眠っているのは、エレナであった
「大丈夫よ、生きてはいるし、多分後遺症もないわ」
「・・・・・」
アイシャ先生は大抵の回復魔法を使用できるので、死なない限り、呪い以外は外傷、内傷関係なく治せるようなので後遺症はないだろう
「私は、とりあえずセレスに説明してくるから、アルカはそばにいてあげて」
アイシャ先生は、とりあえずエレナの姉のセレスに、状況を説明するために部屋を出ていく
セレスさんは、今の状態のエレナを見た瞬間、顔を真っ青にしながら部屋から出ていった
妹の、こんな姿を見たのだから、その反応は当たり前だろう
「なあ、エレナ、どうしてこうなったんだい?」
エレナの顔に手を当てながら、そう口にする
発見されたのは、路地裏であり、ボロボロの状態で横たわっていたそうだ
「どうして、エレナが」
顔には傷は一つもない、ただ、目を覚まさないエレナを見ていると、何とも言い難い感情が湧き上がってくる
「エレナ、目を覚ましてよ」
「誰にやられたんだい?」
エレナがその言葉に反応することはない、ただ死んだように眠っているエレナに向かって、言葉をかけ続ける
「ねえ、教えてよ、エレナ」
「誰を同じ目に合わせれば、この感情は収まるんだい?」
同じ目に合わせるだけでいいのか、そう疑問に思い
「誰を殺せば、この感情は収まるの?」
感情を抑えるために力を入れすぎて、奥歯が砕ける
感情の起伏【怒】が、大きく変動しました、状態を【復讐心】にします
頭の中で、異能の声が響く
これより、異能は半覚醒状態に移行します、一時的に、制限を解除します
異能の声は続いていくが、そんなことはどうでもいい、ただエレナのことだけしか考えれない
以下の条件を達成することにより、異能を完全覚醒状態にします
1.エレナ・ルーシュの無事を見届ける
2.復讐対象:サイトウ・ツカサの抹殺
異能の言葉の一つに、反応する
「復讐対象・・・」
復讐対象、つまりエレナをこのような状態にした相手だろう
「サイトウ・ツカサ、そうか、こいつを殺せば」
半覚醒状態になってから、今使える異能が頭の中に浮かんでくる
「エレナ、見られたくないかもしれないけど、ごめんね」
エレナの頭に手を当て、ある異能を唱える
「【コネクト】」
エレナの記憶を読み取り、事件が起きた時の記憶を探る
「余計なものは見なくていい」
いろいろな記憶が、頭の中に入ってくる、ただ、今はそのサイトウ・ツカサがどのような人物なのか知ることだけでいい
「こいつか」
一番直近の記憶を探り、一つの記憶を読み取る
目の前に、一人の男が立っており、おそらくエレナの首を絞めているのだろう、そして、その男の後ろには、複数の男が立っており、人質のように二人の女性、ミホとナナがつかまっていた
「そうか、エレナは二人を助けようとして」
つかまっている二人とも、結構ボロボロの様子であり、おそらくこの男たちに強姦でもされそうになったのだろうか
それを助けるために、エレナはこんな場所に来たということになる
「怖かっただろう、男に襲われて」
女性にとって、自分より体の大きく、力の強い男に襲われるのは怖いに決まっている
そこで、異能を解いて、エレナを見つめる
そして、エレナの頭をなでながら
「安心して、君が目覚めるころには、もうこの男たちはこの世にはいないから、これからは、ずっと俺が守るから」
復讐を果たし、エレナが目覚めてからは、ずっと隣にいよう、そう決意して、立ち上がる
「待っててね、エレナ」
部屋から出て、歩き出す
そして、歩いているうちに、だんだんと、自分が自分でないような感覚になっていく
「さあ、どのような殺し方をするか、考えないとな」
ただ、単に殺すなんてことはしない、いかに苦しめて、殺すか、その方法を考えていく
そして、ふと目の前に何かが飛び出てきて
「ん?」
「【陽だまりのゆりかご】」
それが自分の手であることを認識した瞬間に、口から勝手にその言葉が発せられて
「・・・・」
その異能の効果によって、アルカは意識を失い、その場に倒れこむ
「いたた、鼻打っちゃったわぁ」
すぐさま、アルカは立ち上がるが、まるで別人のような雰囲気で歩き出す
「はあ、始まっちゃったわぁ、まずは教えてあげなきゃねぇ」
歩き方はまるで女性のようであり、体の様子を確かめていた
「うん、いい感じに鍛えてるわねぇ」
アルカの体に満足した様子でうなずき、そして、異能を唱える
「【影渡り】」
その場から姿を消し、とある場所に移動する
side:ルーク・ヴァレンティ
「ん?」
部屋で仕事をしていると、とある部屋に仕掛けていた結界に反応がある
「・・・まさか、いや、そうか」
その部屋に入れるのは、ルークともう一人のみ、であるので反応があったということは、そのもう一人が入ったということであるのだが、それがどういう意味であるのか、ルークは理解する
その反応があった部屋に向かい、息を落ち着かせる
(どうか、違ってくれ)
ほぼ、確信はしているのだが、違うことを願いながら、部屋の扉を開ける
「・・・・」
「久しぶりねぇ」
「・・・・あぁ」
そこにいる人物の姿を見た瞬間に、すべてを理解し、一瞬、絶望の表情を浮かべる
そこにいたのは、アルカであった、ただ中身が違うのは、しゃべり方、立ち振る舞い、雰囲気でわかる
「お久しぶりです、アリア様」
今のアルカの中の人物は、アルカの異能の人格であり、元ヴァレンティ家当主、アリア・ヴァレンティである
「ゆっくり話をしたいところだけどぉ、そうも言ってられないわよねぇ」
「はい、アリア様が出てきたということは、そういうことですよね」
「そうよぉ、半覚醒状態になってしまったわぁ」
「どれですか?」
「怒、よ、一番最悪なパターンねぇ」
「・・・そうですね」
半覚醒状態は、覚醒状態に移行する前段階の状態であり、この段階ではステータス値の上昇が非常に高いが、この半覚醒状態でステータスを上げないと、覚醒状態になった瞬間ステータス値は固定され、それ以上成長ができなくなってしまう
なので、半覚醒状態でないと、アルカの実力をルークに届かせることができない
その意味から、最悪のパターンである
半覚醒状態には、4つの種類あり、アルカの状態である怒は復讐心が原動であり、ほとんど暴走状態となっている
そんな状態では、ステータス値を伸ばすなんてこと不可能である
「まあ、やりようはいくらでもあるわよぉ」
「そうですね」
「それじゃあ、今から作戦を練るわよ」
それから、アリア様と話し合いをし、半覚醒の状態をどのようにして維持するかの話し合いをしていく
「では、この手順で行きましょう、それで、アルカを抑えるのは、どのくらいできますか?」
「ん~、頑張って、3日が限界かなぁ」
「3日、丁度礼王祭の最中ですね」
3日後から、礼王祭が始まり、それには、アルカの復讐対象のサイトウ・ツカサも出場するらしい
なので、アルカ自身も、おそらく3日後のアリアから主導権を取り戻すと出場することになるだろう
「その時が、勝負ですね」
「そうねぇ、多分、アルカ君が仕掛けるなら、その時かもねぇ」
「それじゃあ、私はなるべくステータス値を上げに行くわぁ」
「自分はみんなに説明してきます」
短時間でも、アルカの実力を上げておかないと、もしかしたらこの作戦が失敗するかもしれないので、アリア様にはぎりぎりまで魔物を狩っていてもらう
「説明が終わったらぁ、身を隠すのよぉ」
「はい、それでは失礼します」
「それと、ちゃんと別れも済ましておくのよぉ」
最後に、アリアはそう言い残して、姿を消す
ルークも部屋を出て、家族全員に、簡単に説明をする、ただ、そのあとの結果については、作戦に支障が出るかもしれないので、だれにも伝えない
「あとは、アイシャに任せるとして、ほかにやることは・・」
アイシャに特Sクラスのみんなには話をしてもらい、手伝ってもらう、かなりの確率で、半覚醒状態のアルカと戦うことになるので、なるべく戦力が必要である
「うん、大丈夫だな、それじゃあ、消えるか」
別れの言葉は、まだ誰のも伝えないことにして、最後にそう言い残し、ルークはこの世から完全に姿を消した




