全てが動き出す時
・111・
side:ルーク・ヴァレンティ
ついに二年がたち、最後の時が来た
「ルーク、この子が私たちの子にゃ」
久々に家族たちと会って、少し会話をした後、ミーシャが抱いていた赤ちゃんを見せてくる
「そうか・・・かわいいな、ミーシャ、そばにいてやれなくてごめんな」
ミーシャが身ごもっている間も、ずっとアルカの訓練をしていなければいけなかったのでそばにはいてやれなかったのが悔やまれる
「気にしないでいいにゃ、それより、はい」
そういい、アリスをルークに渡して抱っこをさせる
「ははっ、重いな、名前はアリスにしたのか?」
「うん、二人で決めたからにゃ」
アリスという名は、以前に二人の間に子供ができた時に考えていた子供の名前
その名前をミーシャはつけてくれたようでうれしくなる
「ありがとう」
「ルーク、アリスのことは任せて、ちゃんと立派に育てるから」
「・・・」
ミーシャは、ルークにそういって、未練を残させないようにしたかったが
「ルーク・・・」
ルークは、その言葉をミーシャが強がって行っていると理解して、自然と涙がでる
「ごめんな、ミーシャ・・・」
愛している人を残して死にたくはない、死にたいと思うわけがない
だが、仕方がないのだ、あと数時間で同時使用している異能が解除されるから
もし異能が解除されれば魔王を封印している力もなくなってしまう
だから、今使っている異能が切れた瞬間にアルカに殺してもらうことで魔王の意識をアルカに移す
自分の異能とアルカの異能は全く一緒というわけではなく、大雑把に言うのなら、ルークの異能は攻撃系、アルカは支援系の異能を得意となっている
なので、アルカの方の異能なら、自分の異能とは違い、魔王の意思を永遠に副作用なしに封印することが可能なので、こういった形になる
だが、一つその前にやることが残っているのがそれはまだ誰にも言っていない
「はあ、泣かないって決めてたのに」
ひとしきり泣いた後、息を整え改めてミーシャに対面する
「別れはいずれ来るもの・・・・、それが、今来るだけにゃ」
命はいずれ終わりを告げる、獣人として生きるミーシャは、親友や仲間、知り合いである人類をおおく看取ってきた
だから、別れは慣れているはずだが
「でも、でも・・・」
最愛の人をなくすのは、今回が初めて
「もっと・・・一緒にいたかった・・・」
ぼろぼろとミーシャの目から涙が流れ、ルークを苦しめないようにずっと我慢していた本音が漏れる
「ミーシャ・・・」
「最後に・・・」
そういい、ミーシャはルークにそっと抱き着く
「・・・・」
数十秒、二人の間には会話はなく、ただ強く抱きしめ合っていた
「もう、大丈夫だにゃ」
いつまでもこうして痛かったが、時間はそれを許してくれなかった
「いつか、私もそっちに行くにゃ」
「ああ、ゆっくり待ってるよ」
最後に口づけをして、その場を離れる
そして、一番最後にエレナの元へ向かう
「剣は、持っているね」
「・・・・」
ちゃんと封魔の太刀を持ってきているのを確認して、しっかりと封印がされているのかを確認する
「ルークさん」
「・・・どうしたんだい?」
真剣な顔をして、エレナはこっちを見る、だいたい、何を言いたいか理解はできる
「本当にいいんですか?」
「・・・・ああ」
「嘘をつかないでください!」
「仕方がないんだよ」
「・・・教えてください」
「? 何を?」
「あなたの力、アルカの力、関係しているすべてを」
どうして死ななければいけないのか、どうしてアルカでなければいけないのかをエレナは知りたいようだ
「わかった、すべて話そう」
アルカと関係がある以上、知りたいというのならかくして置く必要はない、ちゃんと知る権利はあるのだから
そして、エレナに異能のこと、魔王のこと、そして、まだ誰にも言っていない最後にやることなどやもし失敗したときのことをすべて細かく話していく
「・・・」
「それでも、ミーシャさんを悲しませるのは・・・」
この子は賢い子だ、だからすべてを聞いてこれしか方法はないと理解している、それでもほかに方法はないのかを考えている
「君はやさしい子だね」
普通、お世話になった人だとは言え、他人のためにここまで悲しんだり悩んだりはしないだろう
「止めるのは・・・無理なんですか?」
「ああ」
「さあ、もう始めよう」
まだエレナは理解していても納得はしていない、だが、もう納得してもらう時間などないのだから、ここで止まっているわけにはいかない
「アイシャ、来てくれ」
「はい」
一度あることをしてもらうためにエレナの元にアイシャを呼ぶ
「封魔の太刀の封印を一時的に解除してほしい」
「わかったわ、時間はどれくらい?」
「五分間でいい」
「全部?」
「力だけ」
「了解」
短い会話だけでアイシャは理解してくれる
やってもらうのは、封魔の太刀に封印されているアルカの魂と力の内、力、つまり異能の部分だけの封印を短時間だけ解いてもらう
意識を戻さない理由としてはアルカにはタイミングが重要な役を任せるので魂を戻して意思を持ってほしくないのだ
少しでもためらってしまうとそれだけで失敗につながるので、ちゃんとすべて戻すのは終わった後にアイシャに任せることにしないと失敗したときが大変になる
「それじゃあ、始めようか、エレナ、その剣をアルカに渡してくれ」
エレナに直接、アルカに封印を解いた剣を渡してもらい、廃墟の奥に向かう
「エレナはこれ以上近づかないで」
これ以上奥に入ってしまうとその中にいる人に襲われてしまう
「待たせたね、サーニャ、姉さん」
一番奥には大きな氷とその前にいる凶暴化した女性
「ぐるるる・・・・がう!」
そして、その女性がこっちを黙視するとすぐさま襲い掛かってくる
「姉さん、もう少しだから」
この女性はルークの姉であるロナ、そして、後ろにある氷の中には少女、妹のサーニャが眠っている
ルークが子供の頃に住んでいた村が魔王に襲われ、その際に今の状態にさせられた姉さんがサーニャを襲い、救えなくなる前に氷に閉じ込めてサーニャの体の状態が悪化しないようにしている
そして、その姉と妹を元に戻すことがここで最後に行うこと
ロナの攻撃を受け止めて、身動きができないように拘束する
「準備は、整った」
アルカの力も戻し、異能が全部解除されるまで3分を切った
「あとは、気付かれないのを願うしかない」
失敗する唯一の要因が起こらないことを願い、異能の準備をする
「アルカ、合図を送ったら首を飛ばしてくれ」
今のアルカは自分の意思というものがないので、ルークの言葉のみに従うようになっている
確実に死ぬには、心臓を刺すか、首を飛ばすかなのだが、心臓を刺した場合即死ではないので首を飛ばしてもらう
「それじゃあ、始めようか」
いよいよ、終わりの時が来る
今思えば、もう忘れるくらい長いこと生きてきたが、ここ数年は一番記憶に強く残っている
「愛する人も子供もできた、みんなに寂しい思いはさせてしまうかもしれないが、みんなが傷つくよりはましだ」
自分の一人の命とミーシャたちの命を天秤にかけた時、ミーシャたちの命を優先するのは言うまでもないだろう
「あと1分、はあ・・・」
異能の準備をして、いつでも発動できる状態にしておく
「3・・・2・・・1・・・【現状回帰】」
異能が解除され、サーニャを閉じ込めていた氷が解除されたのを確認し、その場の空間の時間を戻す異能を発動する
「成功した・・・あとは」
時間が完全に戻って、二人の状態が元に戻ったのを確認する
だが、それと同時に眠らせておく
さすがに目覚めたばかりの二人に自分が死ぬところなど見せるわけにはいかないから
「アルカ、頼む」
そして最後にアルカに合図を出す
「さよなら、みんな」
聞こえていないだろうが、みんなに別れの言葉を伝える
そして、アルカの剣が振り下ろされ、ルークの首が飛んだ
「・・?」
確かにルークの首は飛んだ
だが、次の瞬間には、つながっている状態に戻っていた
「! アルカ! もう一度やれ!」
すぐにその原因を理解して、もう一度アルカに首を飛ばせというが
「あはは、残念でした!」
いつの間にかその場にいた人物にアルカの動きは止められていた
「きみを警戒しないわけないじゃん!」
「! 強欲!」
そう、その場に現れたのは警戒していた失敗の唯一の要因の存在、強欲の魔王だ




