帝王・テレシア
・96・
side:アイラ
「どうか、魔王を倒す旅に、ついてきてくれませんか?」
「魔王を倒す旅? なるほどね」
現帝王、テレシアが玉座から立ち上がり、アイラに近づいてくる
「それを言うってことは、私が勇者ってことは知ってるね?」
「ええ」
一瞬、殺気のようなものを感じたが、物怖じせずに言葉を続ける
「詳細はあまり言えませんが、今勇者以外の無関係の人が魔王を倒すために行動しています」
「だから、私についてきてほしいって?」
「ええ」
「魔王が、勇者にとって大切な人ってことは知ってるよね、そんな大切な人を殺すたびについて来いって?」
先ほどよりも強烈な殺気を向けられ、冷や汗が止まらなくなる
それでも、カホたちのために、勇者を説得しなければならない
「・・・・・ええ、なんの影響もなく魔王を倒すには、勇者の力が必要なんです」
この世界に、だれも好き好んで勇者でもないのに魔王を倒そうとすることなどしない
だがカホたちは明確な目標があって魔王を倒す旅に出ている、それなら、可能性は低くても魔王を倒してしまうことはあるだろう
そんなことになれば、カホたちの世界に魔王の意思が行ってしまうが、カホたちを見るに、魔王に太刀打ちできる人などいるとは思えない
そんな世界に魔王の意思が行ってしまうと、どうなってしまうかは明白だ
だから、魔王を勇者に倒してもらい、魔王という存在を消滅させるしかないのだ、そうすると、カホたちも何も問題なく自分たちの世界に帰れる
「もし、あなたの大切な人が私たちに倒されたら、もう今後会えなくなる可能性があるんです! それでもいいんですか?」
こちらの世界にくる方法があるのだから、もしかしたらカホたちの世界にも行ける方法はあるかもしれないが今はそんなもの聞いたことがない、ならばカホたちの世界に大切な人を送ってしまうと今後会える可能性はないに等しい
「・・・・」
(これでだめなら、諦めるしかないか)
今のところこれ以上の説得をできるとは思えない、もしこれで協力を得られなかったら諦めるしかない
「・・・・」
テレシアは何も答えない、ただまっすぐとアイラの顔を見ているだけだった
二コッ
すると突然、テレシアは笑顔になり、玉座に戻っていった
「よく私の殺気に怖がらなかったね」
「・・・・私も引けないので」
「ふふっ、いいよ、手伝ってあげる」
「! 本当ですか!?」
説得は成功したようだ
「でもね、君たちの旅についていくことはできないよ?」
「え、それじゃあ?」
旅にはついてはいかないが、魔王を倒すために行動するということだろうか
「別に魔王を倒すことに何の抵抗もないんだよ、ただね・・」
「今の勇者じゃあ、どの魔王にも勝てないよ?」
隣にいた女性、彼女が王佐であり勇者のレイ、彼女がテレシアの言葉を紡いで説明してくる
「勇者と魔王の力は、厳密には全くの別物なんです、だよね?」
「別物?」
「そう、魔王の力はーーーーーー、勇者の力はーーーーーーーー」
「?」
明らかにテレシアは言葉を話しているし、ちゃんとした言語だったがどうしてもその言葉を理解できない、というより、頭が理解しようとしない
ズキン
「い、いたい・・・」
突如、急激な頭痛が押し寄せてきて、その場にうずくまり身動きが取れなくなる
「ん? どうしたの?」
「ちょっと見てみますね」
頭痛で動けなくなったアイラに、レイが駆け寄り、様子を確認する
「【キュア】」
レイが魔法を唱え、アイラの頭痛を治す
「落ち着きましたか?」
「はあ、はあ、はい、ありがとうございます」
魔法が効いて頭痛もきれいに消えたが、頭痛になった原因がわからない
「ああ、うん、なるほどね」
「? どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ」
テレシアが何か納得したような顔をして、再びこちらに歩み寄ってくる
「とにかく君たちの旅にはついてはいけないけど絶対に魔王は倒すよ、ただ準備が必要だからもう少し先になるからね、大体二年くらいかな? あ、ちなみにレイも同じね」
「二年・・・わかりました」
ちゃんと、魔王は倒すと約束してくれたので、別に一緒に来てくれなくてもかまわない
「それじゃあ、今日はもう帰りな? 顔色も悪いから」
「はい、そうさせてもらいます」
先ほどの頭痛のせいで、少し貧血になっているので、休むために宿に行くことにする
「もし、また聞きたいこととかあれば、これで連絡して?」
テレシアさんが巻物を一本渡してくる
「使い方は簡単だから、わかると思うよ」
「ありがとうございます、それじゃあ失礼します」
「お気をつけて~」
二人に見送られながら、王座の間を後にする
「ふう、少し収まってきた」
宿をとるころにはもう体調も完全に戻っていた
「【探求者】」
とりあえず、一旦ほかの勇者がどこにいるのかを確認する
「あとは・・・・遠いね、それじゃあ、先に戻ろうかな」
ほかの勇者たちは、ここからだとかなり遠くにいるので、このまま向かうよりも、カホたちに合流した方がいいだろうと思い、これからはカホたちのいる王都へと向かうことにする
「先に、手紙でも書いておこうかな」
いきなりかえってびっくりさせてもいいが、やはり手紙でも書こうと思い、 ペンと紙を取り出して筆を走らせた
side:テレシア
「あの子がねえ」
先ほどの来客が帰ったあと、嬉しそうに小さな声でそうつぶやく
「ん? どうしたの?」
「いや、なんでもないよ」
わずかに聞こえたのだろうかレイが反応するが、独り言を言っただけなので、何もないと伝える
「それより、あの子、なんだかいろいろとおかしかったよ?」
レイも先ほどの女性の異様さに気付いたのだろう
「なんか呪いもいっぱいかかってたし、思考の制限もされてたね」
「そうだね、自分でやっているのか、誰かにやられたのかわからないけど、大変そうだったね」
女性の体には、思考の制限が主に不老の呪いや、衰弱の呪いなどたくさんの呪いがかかっていたが、呪いの効果を相殺するような呪いも受けていたので、何事もないようにしていたのだろう
「それより、準備しなきゃね」
約束した以上、ちゃんと魔王を倒すために行動しないといけない
「準備って、なにするの?」
まあ、それと言って準備するものはないのだが、それでもやっておかないといけないことはある
「レイも、引継ぎとかしときなよ?」
「ああ、なるほどね、わかった」
私たちは魔王を討伐する以上、もうこの地位に戻ってくるつもりはない、すべてを捨てて魔王の元に行くつもりだからだ
「でも、シアはどうするの? 帝王は簡単に変われないんじゃなかった?」
シアはテレシアの愛称、昔からの知り合いであるレイだけが呼ぶことを許している名である
「まあ、一番は大体二年後に来る子に引き継いでもらえたらいいんだけど」
「でも、それならその子と真剣勝負しないといけないんでしょ?」
帝王の名を引き継ぐには、真剣勝負の決闘で勝たないといけない、その勝負では手加減など一切してはいけない決まりである
「シアに勝てるの?」
はっきりというと、現在の魔王を含めてテレシアに勝てる者は数えられるほどしかいない、それほどテレシアは格別に強いのだ
「うん、大丈夫、その頃には私と同じくらい強くなってるはずだから」
「え! シアと同じくらいに?」
「多分だけどね?」
二年後に私たちの前に来る子は「私より」かはわからないが、強いのは確かだ
「その子に引き継いでから、行くの?」
「ううん、引き継ぐのはついでだよ? 二年後に来るその子も、魔王を倒しに行くから、それについていくの」
「あ、そうだったんだ」
あくまで帝王を引き継がせるのはおまけ、別に引き継いでもらえなくてもなんとかはなると思う、それよりも、メインになるのはその子の旅についていくこと
レイは基本的に何も言わなくてもついてきてくれるし手伝ってくれるので、つい説明を忘れていた
「その子がいないと、あの魔王には勝てないからね」
「そうなんだ」
二年後に私たちの前に来るのは、魔王を殺すために旅に出ている子、その子でならあの魔王にも勝てる可能性があるから、絶対に一緒に行動したいのだ
「それに、その子も勇者だからね」
「勇者? じゃあ知ってる子かな」
「ううん、レイも知らない子だよ?」
今の勇者なら、私もレイも全員面識はある
「あれ? 最近変わったっけ?」
「さあ? 今は勇者かはわからないけど、私たちの前に来るときは勇者になってる」
「? なるほど」
全然理解していないだろうが、とりあえずレイはうなずいていた
「それよりも、シアは何でそんなことまでしってるの?」
「なんでと言われても、私だからかな?」
私の勇者としての能力で調べているのだが説明が難しいので、適当に流す
「そうなんだ、まあいいや」
説明しなくても納得してくれるのでありがたい、レイは再び自分の仕事に戻ることにしたようだ
「少し寝るから、時間になったら起こしてね~」
まだ次の予定までは時間があるので、少し仮眠をとることにして眠りにつく
(最大の難所は、その子についていけるかだね~)
二年後に来る人についていかないと、私たちの計画が確実性がなくなるからである




