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146.ホワイト・バラック

 深夜の街を走り抜け、青い煙が曲がった先の段差を見上げる。

 〝ホワイト・バラック”と刻まれた看板を捉えても、宿の名に記憶は無い。それでも扉を潜れば受付では女店主が頬杖をつき、コクリコクリと舟を漕いでいた。

 誰も来なければ深い眠りついていたろうが、アデランテと目が合った途端。飛び起きるように受付を越えれば、威勢よく鍵を押しつけてきた。


 踵を返した彼女に唖然としつつ、ハッと我に返れば再び青い煙を追った。一気に5階へ辿り着けば道標は扉の前で終わり、鍵もアデランテが握っている。

 念の為にノックをするが、何度叩いても反応は無かった。

 

「寝ているのか…それとも外出中か?」

【室内にいる事は確認済みだ。外出はしていない】

「それなら中で寝てるって事だろ?カギまで貰ったけど勝手に入るのもな……ひとまず朝まで待って、彼女が起きてから…」


 頬を掻きながら鍵を見つめ、やがて出直すべく踵を返そうとした刹那。ふいに視界が白い霧に包まれ、ホワイト・バラックの正面玄関を映し出す。

 扉からはオルドレッドが顔を出すも、しばし見回せばすぐに引っ込んでしまう。


 それも頻繁に。落ち着きなく。

 度々覗いては室内に戻る様子は、まるで誰かを待っているようで。ようやく自分の部屋へ上がっても、時折窓から表通りを見下ろしていた。


「…いつから見てたんだ?」

【貴様が街に到達し、小娘を宿に放るまでの間】

「放ってはいないだろ?放っては……ところでオルドレッドはさ。やっぱり私を待ってた…のかな?」


 霧が晴れ、ふと視線は手元の鍵に落とされる。少なくとも店主が躊躇なく渡した手前、疑問を挟む余地はないだろう。

 小さな嘆息を吐けば気を引き締め、扉を開ければソッと隙間に滑り込む。後ろ手に閉め、カチャリと留め具が鳴る音に耳を澄ませながら部屋を見渡した。


 すると月明かりが差し込む窓の下。部屋に戻ってからも、ずっと宿の外を監視していたのだろう。

 窓の下で丸まり、小さな寝息を立てるオルドレッドに呆れながら静かに歩み寄った。前髪を指先で梳き、慎重に抱えれば数歩でベッドに辿り着く。


 だが降ろした瞬間。急に片腕を絡め取られ、外そうと屈んだのがまずかった。

 寝返りを打った彼女は首に腕を回し、背負い投げの如くアデランテを引きずり込んだ。


 そのまま顔を胸に押し付け、谷間を吹き抜けた呼吸がこそばゆいのか。一層しがみつかれると、身動き1つ取れなくなった。

 程なく寝息まで聞こえ、頬擦りまでされては起こすのも野暮というもの。


「……気のせいかな。前にもこんな事なかったか?」

【貴様の学習能力に問うべきだ】

「ははっ。それも……そうだよ、な」


 返す言葉もなく、前回の逃走経路を思い描いていた矢先。ふいに嗅いだ甘い、柔らかな香りに一瞬意識が揺らいだ。

 豊満な胸の感触に安らぎも覚え、彼女の薄っすら汗ばんだ身体に肌が吸い付く。


 急速に押し寄せる眠気に、気付けば全身を包んでいた彼女に身体を預け。オルドレッドの寝息にアデランテの睡魔をゆっくり重ねた。








 

 人で賑わう街に住めば、小鳥の囀りで目覚める機会は減る。

 大抵は窓の外の喧噪か。あるいは隣人の気怠そうな生活音が、否応なく眠りを妨げるからだ。


 そんな1日の始まりを、オルドレッドもまた他人に同じく。瞼を擦りながら睡魔や朝日と延々戦っていた。

 

 最初に思い浮かぶのは朝食。最近は食欲も減ってしまったが、顔馴染に心配をかけるわけにもいかない。

 ダニエルの事で落ち込んでいた頃は、宿の店主に何度も食事へ誘われ、雑貨屋の店主にも“おまけ”でお菓子を渡されていた。

 詮索されない好意も心地よかったが、周囲に心配をかけ続けるのも不義理。1人で食事を摂るようになれば、冒険者業に復帰できるまでに体力は回復した。


 依頼の受注も気分を紛らわす最適な手段でもあり、気付けば青銅等級にまで上り詰めていたというのに。勢いでプレートを預けてからというもの、途端にやる事が無くなってしまった。


 今や路地で訓練に明け暮れ、武具の整備を欠かさない日々を過ごすだけ。張り合いの無い時間にボーっと虚空を眺め、気付けば見えない影を追っていた。



 始めは路地裏から表通りを。次に商店街を練り歩き、今や宿の玄関と自室の窓から外を頻繁に覗いている。

 まるで主人の帰りを待つ犬か。はたまた――。


「――…王子様を待つお姫様だなんて、ガラでもないわね」


 自嘲しながら身じろげば、温かい空気が全身に駆け巡る。睡魔が再び押し寄せ、瞼も頑なに日差しを拒む。 

 そもそもプレートを託した“誰かさん”は、必ず帰ってくると言いながら、肝心の落ち合う場所を決めていない。


 宿か。ギルドか。

 街の出口か。それとも醜態を晒した飲み屋か。


 無理にでもついていけば、少なくとも右往左往する生活を続けずに済んだろう。しかし色違いの。海よりも澄んだ瞳で言われては、果たして提案を拒む事が出来たのか。

 それも人のタイツから金を取りながら、オルドレッドに手を出さない“紳士”に。


 もちろん触られたい等と言わないが、ならば何故そんな風に思うのか。


「……あぁ~もぅ、おやすみっ!」


 考えているのもバカらしくなってきた。明確な予定があるわけでもなく、日差しに背を向ければ枕を手繰り寄せる。

 足も絡めると身体の力が抜けていき、かつてない抱き心地に再び眠る準備が整った。



 だが停止した思考が、途端に覚醒した意識を現実に引き戻す。


 毛布はまだ出しておらず、宿の枕も抱きつける程の長さはない。瞼を開ければ布切れが視界に飛び込み、まさかベッドのシーツでも丸めたのかと。

 己の器用さに一瞬驚くも、芯が通った独特の抱き心地が仮説を否定した。


 やがて寝惚け眼がはっきり“侵入者”を捉えた時。1人の女ではなく、冒険者としての本能がオルドレッドを突き動かした。

 


 迷わず胸倉を掴めば、顔面を打ち抜く鉄拳に相手が目覚めたか。はたまた気絶したかは分からない。

 確認する間もなく身体を捻れば、相手を勢いのまま宙へ放り投げた。

 

 人影は無抵抗に壁へ叩き付けられ、そのまま床へ崩れるように落ちた途端。追撃すべく武器に手を伸ばすが、勢いよく空ぶってしまう。

 いつもなら傍に置いていると言うのに、思えばベッドに移動した記憶がない。さらに思い返せば、街へ来て唯一武器を身に着けなかった夜はたった1度きり。


 居酒屋で呆れる程飲み明かし、ダニエルの夢を見たあの日だけだった。


「…~痛ぁッッ……随分とまた、刺激的な起こし方だな」


 オルドレッドの耳がピクリと跳ね、聞き覚えのある声に目を見開いた。

 騎士のような出で立ちと、胡散臭いフードにマスク。視界に飛び込む見慣れた姿に、朝の気怠さは瞬く間に消し飛んでいく。


 何故。

 どうして。

 いつの間に。


 数々の疑問を上げる間もなく、気付けば顔を擦る侵入者の胸に飛び込んでいた。


「――遅いのよ。バカ…っ」


 弱々しい声音に反し、締め上げる音がメリメリ室内を木霊する。しかしアデライトが絞り出すように息を吐けば、オルドレッドの背中に腕を回した。


「…あ~っと…おはよう、かな」

「バカなこと言わないでっ……ちょっと待って。何であなた私の部屋にいるのよ?」


 朝日の如き暖かな時間の最中、ふいに疑問符が浮かぶ。アデライトに乗りかかったまま問い詰めれば、店主に渡されたカギを見せられる。


 途端に女将のニヤケた顔がよぎり、顔を振ってイメージを強引に追い出す。気を取り直して久方ぶりの再会に向き合うが、声の調子から負傷の心配はない。

 むしろ力加減も忘れ、至近距離で殴り飛ばされてなお平然としている様子に。冒険者のプライドが少しばかり傷ついたが、アデライトは構わず陽気に語り掛けてくる。


「そういえば前にもこんな事があったな。1度あることは2度あると言うが…」

「……前っていつのこと?それに2度目って何の話かしら」

「ほら、私が君と初めて会った時に背負っていたらッ……な、なんでもないさ!私の勘違いだ。気にしないでくれ。あ、あははははは…」


 慌てて取り繕う様子に首を傾げ、過去を遡っても鉄拳を振るった覚えはない。

 あるいは酔い潰れた際に粗相をした可能性に至った刹那。ふと魔物の巣から救出してくれたアデットを、迷わず殴り飛ばしてしまった事を思い出す。


「…考えると兄妹揃って理不尽に殴ってるのよね私……ごめんなさい」

「気にしないでくれ。慣れてるからな」

「……ふふっ。あなたたちって本当に血が繋がっているのね。アデットに謝った時も同じことを言われたわ…でもあなたにも言える事だけれどっ!そもそもフードで顔を隠したりしなければ、最初から殴ったりなんかしなかったわよ!」


 己の失態を棚に上げ、顔を挟むと思いの丈を全てぶち撒けようとした矢先。隙間から見えた妖瞳が優しく見つめ返し、微笑んでいる事が分かる。



 アデット・ソーデンダガーの時もそうだった。人が怒っても泣いても、まるで親が子を見るような視線を向け。必然的にペースを乱されてしまっては、思わず口も耳もすぼめるほかない。


 だがやられっ放しも性に合わない。とにかく顔を見て文句を言うべく、フードに手を入れた時。素早く手首を掴まれてその先の行動を封じられた。


「…ちょっと。何で抵抗するのよ」

「別に外さなくても会話は出来るだろう?」

「顔見て話したいのっ!2ヶ月近くも待たせといて、どれだけ心配したと思ってるのよ!?あなたが帰ってくるって言うから信じて街に留まってたって言うのに、再会しても顔は見せないってどういう了見?」

「その割には目の下にクマが出来てるじゃないか!君こそ私のことを信用してたんじゃなかったのか?」

「これでもつい最近まで大切な人を失って自暴自棄になってたのよ?簡単に言わないでっ」


 言い合いながらフードを脱がしに掛かるが、指は全く入っていかない。むしろ徐々に押し返され、男と女の筋力差が心底恨めしくなる。


 いっそ諦めて覆面のまま会話を進めようとした時。突如アデライトが震えるや、オルドレッドの肩にしな垂れた。

 耳元で零れる甘い声に目を見開き、身体が鋼の如く硬直してしまう。

 

 しかし倒れ込んだ拍子に手首が解放され、指先もフードに差し込まれた。ハッと我に返れば勢いのままに。

 フードを素早く脱がし、マスクも流れで引き落とす。


 久しぶりに見れた顔を最初は勝ち誇って眺め。それもすぐに曇れば、右頬を鋭い眼差しで睨みつけた。


「……これ、爪痕よね?ナニと戦ったらこんな傷がつくのよ」


 ソッと撫でてみるが、痛みを訴える様子はない。

 恐らく経緯を説明しようとしたのだろう。アデライトが口を開いた瞬間、迷わず指を口に入れて頬の内側をなぞる。

 貫通していない事を確認し、ひとまず安堵したところで視線を左頬に移す。指先を舌の上に滑らせ、同じ要領でなぞるが古傷による損傷も無い。


 ようやく引き抜けば、唾液の糸が薄っすら指先から延び、宙で儚く切れた所でアデライトの足に腰を落とした。

 

 金等級パーティの同伴依頼が、怪我の原因である事は間違いない。予想通り銀等級を体の良い肉盾に仕立てたのだろう。

 憤りは止まず、矛先が迷わずギルドへ向けられた刹那。浮き上がった腰をアデライトに押さえられ、再び膝の上に座らされた。

 目的は口に出さずとも明確だったらしく、ならばこの場で白状するようにと。無言でアデライトに迫れば、観念したようにやっと口が開かれる。



 曰く、ギルド長の許可を得るまで口外無用である事。


 その単調な一言で全てが締め括られ、拵えた頬の傷も。長期間の遠征についても。

 結局は一切が謎に包まれ、腕を掴まれなければギルドに駆け出していたろう。


 

 だが何の権利があって直訴するつもりだったのか。


 アデライトが恩人の兄だから。プレートを預けている相手だから。

 泥酔したオルドレッドを送り届けた恩義から。


 思いつく限りの理屈を並べるが、友人と呼ぶにはあまりにも関係が浅い。家族でも仲間でもあるまいに、第三者が勝手に腹を立てて物申す形になる。

 そんな事をすれば職員にとっても。誰よりもアデライトにとっても、いい迷惑でしかないだろう。

 オルドレッド自身が、要注意人物として警戒されるだけだから。



 だからこそ本題に移る必要があった。


「……約束よ。いますぐ返事を聞かせて」

「…やくそく?……あっ、あぁぁ~!……おぅ」

「まさか人を散々待たせておいた挙句、念入りにプレートまで渡したのに“わ す れ た”なんて寝惚けた事は言わないでしょうね…」


 首を縦に振れないよう顔を近付け、壁に両手を突いて逃げ道を塞ぐ。

 胸が当たろうと全く気にならない。どういう事情があれ、乙女の部屋へ侵入した上に同衾までした間柄。


 パーティを組むと言うまで。「はい」と言うまでは、絶対に帰すつもりはなかった。


 一向に答えは返って来ないものの、待つのはおかげさまで慣れている。必要なら丸1日掛けて返答を炙り出す予定が、ふいにアデライトが口を開く。

 覇気のない口調に、幾らか不安さえ覚えてしまった。


「…正直な話、パーティを組むかどうか以前の問題になるんだが、冒険者ギルドは……その、一時的に所属しているだけで、いつ辞めるか自分でも分からないんだ」

「……そういえばご両親が傭兵だって言ってたわね。その関係かしら?」

「あ~っと…似たようなモノかな」


 歯切れが悪い。ハッキリもしない。

 忙しなく泳ぐ瞳に、今すぐ胸倉を掴んで答えを絞り出したい。


 しかし暴力に訴えるのでは印象が悪すぎる。それにパーティを組む話は、何もギルドに限った話ではない。

 あくまで仲介屋として依頼を受注できるだけで、スポンサーや仕事の当てが個人にあれば、冒険者にならずとも金はいくらでも稼げる。


「…オルドレッドは何か当てがあるのか?」


 そして“獲物”は餌に食いついてきた。


「ふふん。私がただ待ってるだけの女だと思った?実はとっておきの仕事があるのよ。それも金等級冒険者だろうと簡単には行けないようなと・こ・ろ」

「…まさか危険なところじゃないだろうな」


 眉をひそめて尋ねられるが、命を惜しんでの発言ではない事は分かっている。あくまでオルドレッドの身を案じての質問なのだろう。

 お人好しなアデライトの性分なら、その路線で攻めるのも面白いかもしれない。

 

 もっとも罪悪感や同情でパーティを組まれるなど、オルドレッドから願い下げ。何よりも危険性を警戒されるのは、最初から折り込み済みだった。


「単純な話、招待されないとまずは外部の人間が行けないような場所よ。別に失われた秘宝を探しに行くわけでも、未踏の地や魔物で溢れた洞窟を訪れるって話でもないわ」

「人里か?」


 顔色が幾分か和らいだ。


 目的の達成まで、もう一押し。


「そ・れ・に!アデットと私を会わせたいって言ってたわよね。あなたもプレートを彼女に返すんだったら、それまで一緒に行動してもいいんじゃなくて?」


 さらに顔を近づけ、唇が触れそうな距離まで近付く。互いの体温すら薄っすら感じるが、ふいに嘆息を吐いたアデライトが顔を上げる。

 真っすぐ向けられた瞳に、予期せず鼓動が飛び跳ねてしまう。


「…すまないがパーティは組めない。さっきも言ったが、いつ冒険者を辞めるとも…そもそも私自身が一ヶ所に腰を落ち着けられる身分じゃないんだ。君まで巻き添えにする事は出来ない」


 また鼓動が跳ねた。


 ただ今回は火照りが消え、釘で刺されたような痛みと寒気が押し寄せる。

 一瞬視界が揺らぎ、アデライトすらボヤけて霞んでしまう。


「――だが約束は約束だ」

「……ふぇ?」


 北風が如き声音は一変。輝ける太陽のような微笑みを浮かべるアデライトに、ソッと顔を上げた。

 

「君は私を信じて待ってくれたんだ。だからと言うわけでもないが……パーティを組むのではなく、対等なパートナーとして私と付き合ってくれないか」


 手をゆっくり握られ、ニッコリ提案されても言葉の意味が分からなかった。パーティは組めないが、パートナーにはなってほしい。


 目を瞬かせ、思考が忙しなく回転する最中。ふいに浮かんだ発想を裏付けるようにアデライトが顔を近付けてくる。

 自身で散々焚き付けておきながら、いざやられると途端に身体が火照り。褐色の肌にも赤みが差せば、心臓が爆発する勢いで打ち付けられる。


 

 やがて唇もゆっくり迫り、キュッと瞳を閉じて“その時”を待った。乙女が如き花園が脳裏に咲き乱れたが、いくら経っても情熱的な時間は訪れない。

 代わりに前髪をさらった微風が、アデライトの遠のきを知らしめる。それから胸元を冷ややかな感触が伝い、谷間へ流れるように沈んでいく。

 訝し気に見下ろし、グイっと引っ張り出せば“オルドレッド・フェミンシア”と刻まれた冒険者プレートが視界に映る。


「複数のパーティで1つの依頼をこなす冒険者もいるらしいからな。同じ青銅等級として、これからもよろしく頼む」

「…は、はい……不束者ですがよろしくお願いします…」


 しおらしく俯き、ようやく理解した言葉の真意に身体の力が抜けていく。精一杯の抵抗で忌々しそうに睨みつけたが、普段は隠されている優しい笑みが溜まった毒気をも癒す。


 大抵の女であれば。むしろ強情な女ほど、その笑顔に容易く絆されるのは間違いない。

 自身も傷心の身であったとはいえ、結局アデライトの魅力に囚われたのだから。

 

「――…でもっ」

「ん?」

 

 ソレはソレ。コレはコレ。


 返事も。

 思わせぶりな態度も。

 

 全てが負の感情と交わり、オルドレッドの拳に集まった。


「…紛 ら わ し い の よ ぉ ぉ っ !!!」


 アデランテが声に驚く頃には、すでに拳が鼻先まで迫っていた。

 


 そして凶悪な一撃が打ち込まれた時。

 オルドレッドの絶叫と共に、重い衝撃が宿中を震撼させた。

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