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剣豪の息子、旅に出る  作者: 三久
第2章 剣豪の息子、故郷にて??になる
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077 焦眉の急



吉田は内心、焦っていた。

・・・見つからんじゃないかw

久留里藩が隠している何か、おそらく鉱物資源だと思われるが、

見つからないのである。


幕府の正規の者だけではなく、隠密にも探らせている。

しかしながら、隠密が情報を持ってこない。

それどころか、隠密の人数が少しずつ欠けてゆくのである。


吉田には判っている。

久留里の密偵の仕業だ。

探っている間に暗殺されている。

しかしながら、久留里藩に抗議するわけにはいかない。

隠密の調査は違法であり、あくまで内密なのである。

抗議などしようものなら、内政干渉を問われる。



吉田と一緒に着いてきた、久留里藩サポート役の一蔵に、

「うまくないですなぁ。」

ボソリと言った。


「は?」

一蔵には何を言っているのか判らない。

吉田は何でもないと手を振り、再び考える。



予定では、治水施設を詳細に検査すれば、見つかると信じていた。

たとえ帳簿でつじつまが合っていたとしても、きっとどこかでごまかしている。


ところが現地でいくら調査しても見つからない。

このままでは無駄足となって、自分の経歴に傷がつく。

・・・まったく、うまくない。



弁次郎は素直な性格なので、幕府が右といえば右を向く。

弁次郎に久留里を継がせて、徐々に明らかにしてゆけば、そのうち見つかる。

そう思い、大殿に次男への藩主継承を提言したのであるが、蹴られた。


次善の策として吉田が考えたのが、総一朗の暗殺計画である。

不慮の事故で長男が死ねば、自動的に次男が継承する。



総一朗は将軍の家系から嫁をもらっているが、幕府の覚えは良くない。

外国から新しい思想を導入して、改革を進めるからである。

今調べている治水施設も海外の設計で、効率的に貯水できる。

このままだと、久留里藩の生産力が上がってしまう。

今まで通りが一番な幕府は、面白くない。



ああそうだ。

吉田はニタリとする。

『謀反の恐れあり』ということで、手持ちの兵力で攻めてもいいな。

間違っていたとしても、今持っている証拠を改ざんして提出すればいいし、

問責されたとしても、言い逃れできるだけのコネはある。


幕府としては、他藩の勢力拡大は脅威である。

安定の世の中を求めているのに、謀反を起こされてはたまらない。

日々これ平和がモットーである。

特定の藩だけ伸びて、国同士の和を乱す奴は許されない。

生かさず殺さずにあればいい。



なに、少々ゴタゴタがあったとしても、最終的には俺の功績は認められる。

マズい部分は、全部大谷一族のせいにすればいいし。


吉田は物騒な考えを進めることにした。




ユリアとコウが天の岩戸へ着くと、勘助と巴はいないという。


「お二人とも、新久留里で活動中でございます。」

与一が言った。

話では治水施設に幕府の隠密が侵入するので、退治しているという。



結局、コウはユリアと同行した。

月照庵にいたほうが安全と竹は反対したが、コウは同行を希望した。

「襲撃が、あの一回ってことは無いと思う。ならばユリアといたほうが安全。」


確かに今後の状況を鑑みると、楽観は出来ない。

これからは、なりふり構わず襲ってくる可能性が大きい。

月照庵では襲われた場合、

たとえみぃ達が守っていたとしても、事態によってはコウは危ないであろう。

ユリアといれば、防御してもらえるし、

勘助・巴を筆頭に、強力なサポートをつけることもできる。

竹もしぶしぶ同意して、コウは喜んで同行したという次第である。



「コウの装備だと、心配だよね。」

ユリアはブツブツと独り言を言いながら、与一とコウを連れて武器庫へと向かう。


今回、藩主の姫君を誘拐して藩に何事かを強要しようなど、

幕府はかなり強硬である。

コウが今後一緒に活動するならば、装備を強化しないとマズい。


ユリアが選んだのは、主に防具である。

細く細かく編んだ鎖帷子(くさりかたびら)に重量軽減の魔法がかかっているものと、

疲労軽減のために主要部分のみ防具を着けた、簡略化した甲冑を装備させる。


「うわぁ。何かゴワゴワして、着心地悪いw」

コウはブツブツ言っているが、無視である。


「この前の争いで判ったけど、今からは事実上の合戦になる。

コウもついてくるのなら、自分で身を守るくらいはしないとね。」


今のコウの姿は、どこぞの盗賊である。

遠慮無く攻撃されるだろうが、まさか姫君とは思われまい。

ユリアはかんたんな兜をコウの頭に乗せて、

「戦いになったら、これも。」

コウは重さで「うわーw」なんて言っているが、無視である。




その日の夕方、勘助と巴が戻ってくる。

「おや、何かあったのかい?」

巴の質問に、先日起こった出来事を詳しく話す。


巴は、うーんと真面目な顔をして考え込み、

「まっ、寸ドメってことなら問題無いさね。」

アッサリと言う。

コウはバシッ!とユリアを叩いて、

「詳しく説明する必要無し!」

真っ赤な顔をして怒った。



夜。

「父さんどこ?」

与一に尋ねると、砦の上じゃないかという。


季節はもう夏である。

盆地状の地形で、久留里側にも新久留里側にも大きな防壁がある天の岩戸は、

風が遮られて、どうしたって暑くなる。

その点、砦の両側、防壁の上は風が通って涼しい。



場所を教えてもらってゆくと、勘助は言われた場所で酒瓶を片手に一杯やっていた。


「ここ、涼しいね。」

そう言って、勘助の傍らに座る。



しばらくお互いに黙って立っていた。


少しして、ユリアが勘助の肩にもたれかかると、

「なかなか大変だったようだな。」

ユリアは月に照らされた外の景色を眺めながら、

「油断したオレが悪いんだけど、かなりヒヤッとした。」

ため息をつく。


勘助はユリアの頭を撫でながら、

「まあ何もなかったなら、問題なしでいいじゃないか。」

ユリアは晴れない顔をしていたが、

「そう言ってもらえると、少しは気分が軽いかな。」

ポソリと言った。



「そっちはどう?」

ユリアの質問に、

「こっちも忙しくなってきた。

治水設備に幕府の隠密が、しきりと探りを入れている。

まあ、そいつらには行方不明になってもらっているが。」

かなり物騒な話を平気でする。


「手伝うことある?」

ユリアが尋ねると、

「こっちはいい。武近(たけちか)を手伝ってくれ。」

話だと、新久留里の街と総一朗の周辺が怪しい雰囲気になってきているのだという。


「幕府の連中がな、街の中でこれ見よがしに、のさばっているらしい。

どうも騒ぎを起こしたいようだと、武近から連絡があった。」


あー、おそらくコウの誘拐と理由は一緒だ。


「幕府の調査団を指揮しているのは、吉田某という男だ。

かなりの実力者というか、相当困った男で、

普通の案件でも異常にして有罪にしちまうような、強引な手法をとるらしい。

今回は街中で騒ぎを起こし死傷者でも出して、難癖付ける気なんだろ。」

呆れた感じで勘助は言った。



ユリアはしばし考える。

こいつはどうも、オレが考えた以上に幕府はあせっているようだ。


幕府は当初、帳簿上からアラを探して、藩を糾弾する気だった。

現地で照らし合わせたが、大きな矛盾点はなかった。

次に現地に行ってアラを探したんだが、おかしなところが見つからない。

で、揚げ足とって争いに発展させて、アラを出そうというわけだ。


「武兄のとこに行くとして、どう戦えばいい?」

ユリアが質問すると、

「そうさなぁ」と言いつつ、二人で戦略を練る。



「いつまで起きているんだい。もうとっくに寝ている時間だよ。」

巴が迎えに来た。

気がつくと真夜中になっており、月が真上で煌々と照っている。


「母さん。私とコウ、明日から武兄のところへ行くから。」

ユリアが言うと、

「コウはここに居たほうが安全じゃないのかい?」

巴が尋ねる。

ユリアは首を振って、

「父さんと相談したんだけど、ふたりとも出掛けちゃうんでしょ?

そうするとコウを守る人がいなくなるし、

私も動きが予想つかないから、一緒にいた方が良いと思う。」

巴はフウンという顔をして、

「じゃ、一緒に行くがいいさ。気をつけてな。」


そんなことを話ながら、三人で寝所へと戻った。




翌日。

「では、いってきます。」

勘助と巴に挨拶をして、二人は砦を出る。



「意外とアッサリしてたね。」

コウが言う。

「何が?」

「勘助さんと巴さん。」

「?」

「だってユリアと私、今から戦いでしょ?

死ぬかもしれないのにアッサリしてるなって。」

「ああ。そうかも。」


家でもそうだあるが、戦いでの生死や将来に関わる話はあまりしない。

『勝負は時の運』

験担(げんかつ)ぎの意味もあって、しないほうが良いのである。

わざわざフラグが立つようなことしないでも、充分危険である。

もちろん、万が一の場合の遺言などは、ちゃんとしてます。


「ふうん。」

コウは返事を返す。




新久留里の街に着いてみると、どことなく雰囲気がおかしい。


「コウ、私のそばへ。」

夏だから暑いので少し離れていた二人は、防御できる範囲へと距離を詰める。



この前来たときには、街はにぎやかであった。

商人が大勢行き交い、子供がウロチョロしていた。

それがひっそりとしている。

井戸端会議をするおかみさん達もいない。

「こいつは・・・」

二人共、少し唖然とする。


街の様子を見て、まずは長次親分のところで

どういう状況になっているか尋ねようということになった。




街の中は、足早に用事を済ませようとする人ばかりである。

露店のお茶屋さんで事情を聞こうと店に寄る。


「なんか雰囲気悪いねぇ。」

一服してから、店のお姉さんに小声で言う。

お姉さんは周りをキョロキョロと伺って、

「幕府のお侍さんが入って少ししたら、こんな感じになっちまってさ。

もう商売上がったりさ。」

半分怒っている。

二人はお姉さんが言う文句を黙って聞いて、ウンウンと頷く。


「これ、お勘定。ありがとね。」

しばらくして、店を出た。



長次の屋敷は静まり返っていた。

門も閉まっている。


「こんにちはー。」

ユリアは木戸をトントンと叩いてあいさつする。

少しして『カラッ』と音がして、訪問者チェックの小窓が開く。

「ああ、嬢ちゃん達かい。」

ホッとした雰囲気がして、木戸が開いた。



中に入ると、かなり物々しい雰囲気である。


奥へ通されると、長次親分がキツい顔をして座っていた。

「ああ、嬢ちゃんか。」

傍らには刀がおいてある。


「親分、どうしたの?」

ユリアが尋ねると、長次は一言。

「先生が囚われた。」

なんと武近扮する鉄が、幕府に囚われたという。


ユリアは信じられない思いで、立ちつくした。



3つの作品、出来たところから投稿してます。

ヨロシク。

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