006 ピラミッドの中身
ピラミッドは半分あたりで崩れている。
ゴロゴロした巨大な石組みをまたぎながら、頂上を目指す。
頂上には何もない・・・いや、中央部に石でできた島があった。
隅に立って全体を見渡す。
元々はピラミッドの内部は広い空洞があって、ガバッと外側が落ちた感じである。
再び苦労しながら中央部へと移動する。
あー、コイツはムリかな。
何もかもが石の下に埋まっている。
「これじゃ探すだけムダだな。リドル、戻ろう。」
オレが戻ろうとすると、
「ちょっと待ってて。」
リドルはそう言うと、チョコチョコと石の山の間に入る。
しばらくすると、手が出てきてオレを呼ぶ。
「ここ、ここ。」
隙間から匍匐前進して中に入ると、少し空洞があった。
元々石造りで天蓋がかかっていて、崩れても隙間は維持されたと考えられる。
中央には階段があり、瓦礫が溜まっている。
「ここから入れると思う。」
オレ達は少しずつ瓦礫を撤去する。
空いた隙間から、続きの階段が見える。
日が傾く頃、通れそうなまでに拡大する。
とりあえず、くぐって中に入ってみた。
湿った臭いがして、ヒヤッとした感覚があった。
暗視スキルをきかせて内部を調査する。
モノトーンで彩られた視界は、明暗のみで輪郭を形成する。
途中で暗視が効かなくなる。
暗視は完全な暗闇では効力が無い。
オレは松明に火をつける。
階段をしばらく下ると、吊り橋と深い窪みのある大広間に達した。
吊り橋は反対側の通路へと続いている。
窪みには多数の骸骨が散乱している。
底には嫌な雰囲気が漂っていた。
おそらく底にはガスが溜まっていて、落ちると中毒して死ぬんだろう。
吊り橋は草の蔓と木の板でできている。
すでにボロボロで渡れる状態にない。
「さて、どうするか。」
大広間の構造を見ると、外周部分に片持梁があったらしい跡がある。
建設用の仮設足場の跡だな。
そこを足がかりにして石組みを渡っていけば、外周をぐるっと回って向こう側に着ける。
「渡るの?」
気がつくと、横にリドルがいた。
オレは腕でグルッと輪を描いて
「外周を回って、反対側にいこうと思う。」
「今から?」
言われて気がついた。もう夜じゃないか。
「済まん。今日はここまでだな。」
通路を戻って、狭い場所だが階段の踊り場で露営した。
翌朝。
前日の大広場にて作業を開始する。
リドルにロープを持ってもらい、梁があったであろう穴に足を入れて移動する。
穴の感覚は2mおきくらいである。
その間は、石組みのわずかな窪みを手がかりに移動を繰り返す。
続けること半日くらい。
やっとのこと、対岸の通路に達する。
オレがリドルに合図をすると、あっという間にやって来た。
身軽だな、コイツw
その後、迷路とかのワナはあったが、しばらく歩いてゆくと大広間に出た。
見上げると、天井中央に穴が空いていて、明かりが落ちている。
その光に照らされて、中心に金色に輝く神像が見えた。
俺たちは、最終の間に到達したのである。
そこは石畳の大広間である。
オレ達は神像に近づく。
像は金箔を貼り付けていたらしいが、剥がされたのか、無残な状態である。
周囲の壁面には絵が描かれ、像の台座にはビッシリと文字というか文様が書かれている。
「・・・読めんw」
これはオレが知っている文字じゃない。
手立ては何かないかと手がかりを探す。
広間の壁面に描かれている絵を見ると、何らかの使徒を祀った霊廟だというのは分かる。
しばらく探ったが全然分からない。
「まったく。せめてここが何の使徒の宮殿か、教えてほしいもんだ。」
そうつぶやいた。
「・・・ここに魔術と知恵の神『ミナーヴァ』を祀る。」
突然、リドルが喋った。
振り向くと指さして「ここにそう書いてある。」
「オマエ、読めるの?」
「当然♪」
うーん。ますます謎だ。コイツ。
リドルに翻訳してもらうと、ここはミナーヴァという神の霊廟で、
神の栄光をたたえて建立されたものらしい。
「宝物は?」
オレが尋ねると、キョロキョロと見渡して
「長い間に持ってかれちゃったのかも。」
ガックリである。
骨折り損だったなと思いつつ、撤収を始める。
「おーい、リドル。戻るぞー。」
「・・・リドルー?」
神像の裏から、ピコッと表れた。
手招きしている。
行ってみると、しゃがみこんで台座を調べている。
「ここに神の奇跡を表して、神の遺品を残す。
えーと何々・・・あー、これは普通の人じゃ、読めないや。
神官文字で呪文書いてある。『神の威容を示せ』だって。」
ゴゴゴゴゴ!!!
突然、周囲に何かの圧力を感じる。
ヤバそうな雰囲気である。
「おい、リドル。何やった!?」
オレが叫ぶと、
「見てたでしょ? ただ呪文唱えただけだって!」
「バカ! 教えてから唱えろ!」
オレ達は急いで台座から逃げ出した。
台座はゴゴゴゴと音を立ててせり上がり、下に隠されていた建造物を顕わにする。
それはクリスタルで彩られ、輝く光を四方八方に撒き散らせながら登ってくる。
『パパパパーーーン♪』
華々しいトランペットの響きと共に辺りが明るくなり、正面の扉が開いた。
突然リドルの動きが止まる。
ピコピコという音が発生して、リドルの耳の穴から「パシッ☆」火花が散った。
『!?』
慌てたオレは、思わずリドルの頭をパコッ!と引っ叩く。
『ピコッ♪』と再び音がして、
「ただいまリセット中。
しばらくお待ちください。
しばらくお待ちください。
・・・ピコッ♪」
リドルの目が開く。
「現在の回線はミナーヴァが優先。質問をどうぞ。」
なに言ってんだ!?
もう一発引っ叩こうとすると、
「待て待てまて」
両手を振ってリドルが止める。
「わらわはここの主神である『ミナーヴァ』。知恵の神である。」
・・・もう一回引っ叩いた。
「痛いな!」
「知恵の神ならアータナーだろ!」
神は使徒の一段上の存在で、使徒を統括する存在とされている。
知恵の神はアータナーと言って、使徒メリクリウスを管理する神でもある。
「ほう。アータナーなんぞという神が、発生しておるのか。」
オレはリドルの顔をジッと見る。
「なんじゃ?」
「リドルと・・・違う?」
リドルは呆れた顔で腕を組んで
「先ほどから言うておる。わらわはここの主神『ミナーヴァ』じゃ。」
何か、すごいモノが出てきたw
それから、リドル経由でミナーヴァと話す。
話によれば、ラ・ナヤはミナーヴァを主神とする神殿都市だと言う。
学術都市でもあって、多くの研究所があったそうだ。
「それはそれは活況を呈していてな。」
自慢なのか、ミナーヴァはニコニコして話を一方的に続ける。
オレは手を上げた。
「ん? 何だね、ヨシュアくん。」
「はい、先生。
もし活況を呈していたというなら、『どうして』こんなに寂れたんですか?」
『・・・』
「ラ・ナヤにおける最大の成果というのは・・・」
あ、無視したw
「という事で、わらわはここの主神となった訳じゃ。」
ミナーヴァはずっと話していて、いい加減こちらが飽きる頃、話が終わった。
天井から落ちていた光は、今はすっかり消えている。
オレはここで一泊するべく『穴』から荷物を取り出した。
「ヤヤッ! なんじゃ、その魔法は!」
ミナーヴァは『穴』の魔法を知らないようである。
オレは、いい加減くたびれていた。
質問を無視して「隅っこ借りるよ。」
さっさと寝床をこしらえる。
晩ごはんは・・っと。
「焚付になる薪はないかい?」
「なんで薪なんじゃ?」
「お湯を作りたいの。」
ああ、という顔をして「ここは火気厳禁になっておる。」
・・・なんだかなぁ。
保存食で夕食を終える。
ミナーヴァも欲しいというから一緒に食べたが、
「温かいものが食べたいな。」
ハハハ・・・
それこそ久々(ひさびさ)の話し相手なんだろう、オレ相手にずっと話している。
オレはフムフムと頷くだけで、ほとんど話さない。
それでもうれしいのか、色々話をしてくれる。
それこそ、オレが眠っちまうまで・・・
感想、よろしくお願いします。