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剣豪の息子、旅に出る  作者: 三久
第2章 剣豪の息子、故郷にて??になる
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056 期待



シュペッサートの森にあるヨシュアのキャンプは、いたって簡素なものであった。

現状維持の知らせが届いていたので、状況は消えた当時のままである。



「普通だよね。」

リンが現場を見て言った。

「うん。普通だ。」

ノードも言う。


「ここからヨシュア、消えたんだ。」

リドルはそう言うと、ターシャを見た。

ターシャもリドルを見て、軽く頷く。


実はリドルもヨシュアが生きていることを知っている。


ターシャはリドルと話していて、偶然そのことを知った。

リドルは

「ヨシュアと私、特別な場所で出会ったから、

かなり離れていても、お互いのことは分かるんだ。

ヨシュアは今、かなり遠くの場所にいて、何かやってる。」

その話は、ターシャの観測とも一致する。


困ったのは、生存の事実を他のメンバーに知らせられないことである。

知らせれば「どうやって知ったか」という話になる。

二人共、ヨシュアとの約束で話せない。



アリゼとケレヴリンは、必死でヨシュアの痕跡をたどっていた。


やはり報告に間違いは無い。

「ここに魔法陣が出来て、ヨシュアは消えたんだ。」


イズンもノードも、ここに魔法を使った痕跡があると言っている。


「問題は、ヨシュアがどうなったかだよ。」

アリゼがイライラしながら言う。


リドルはアリゼに、ヨシュアは生きているから大丈夫と言ってある。

しかしアリゼは

「何で分かるのよ?」

そう言って、証拠を求めた。

出せる訳はない。

慰めるために気休めを言ったと思われている。




調査して二日目。

シュヴァインフルトから、非情な連絡が入る。

『採取してあったマンドラゴラを持って、ギルドへ帰還せよ。』


アリゼとケレヴリンは反対したが、

「これ以上、調査しても無駄。」

現場のチーフから言われてしまった。

確かにこのまま、いたずらに調査したところで、なにか見つかるとは思えない。



その夜。

ヨシュアのキャンプはすでに片付けられて、梱包も済んだ。

調査団はノイヒュッテンに仮設された宿泊所へと戻っている。


「せっかく来たんだけど、結局、何も分からないままか。」

アリゼが現場でつぶやいた。


ヨシュアが行方不明と聞いた時から、アリゼはほとんど寝ていない。

というより、眠れない。

ヨシュアのことだから、めったなことはないと信じているだが、確証がない。

リドルは「大丈夫」と言うが、自分を心配しての気休めだろう。


明日、シュヴァインフルトに戻るから、今が最後の調査である。

ケレヴリンも探すと言ったが、宿泊施設に置いてきた。

顔にできた深いクマを見て、限界だと分かるからだ。



「何かないか。何か。」

そうつぶやいて探していると、

「アリゼ、もう寝ようよ。」

リドルである。


「もう少し探したら寝るよ。」

そう答えて、再び調査に戻る。


その様子を見て、アリゼはフーッとため息をついて、

「ヨシュア、ごめん。少しバラすよ。」

そう言って、アリゼに近づいた。




「アリゼ、こっちへ来て。」

リドルはそう言うと、アリゼの手を引っ張って、ヨシュアが消えた地点へと向かう。


そこは草が丸く焼け焦げた地点である。

「今からやることは絶対にナイショ。なぜできるかの理由も聞かないでね。」


リドルは小声で何事か、ブツブツと唱えている。

そのうち焼け焦げた部分に魔法陣が出来て、図形が輝き始める。

「よし。」


それは魔法陣の上に出来た、直径1mほどの鏡である。

中に年の頃、十代の娘が写った。


「この()は?」

アリゼの質問に、リドルはじっと見て

「・・・ヨシュアだと思う。」

アリゼはビックリする。

「ヨシュアが女だって!?」


「理由は分からない。でもこの()、ヨシュアだと思う。」


娘は、若い男女と何やら話している。

娘が男女と離れる際、女性が娘を抱きしめて何か言った。

男は頷き、お互いに手を振ると、別れていった。


しばらくすると、画像は消える。


「今見たのは、ヨシュアがいた場面。

近日中ということは分かるけど、過去なのか未来なのかは分からない。」

リドルはそう言った。




アリゼは聞きたいことがたくさんあった。

何よりも、今見たのがホントにヨシュアなのかということを。


しかし言葉をグッと飲み込んで、

「アンタのおかげで、一応、生きていることは確かめられたと・・思う。

あとは・・戻ってくるかどうかだね。」


リドルはニヤッと笑い、

「ここシュペッサートの森には迷信があって、時々、人が消えるんだって。

でもしばらくすると、また戻ってくるって言ってた。

ヨシュアもきっと、戻ってくるよ。」


アリゼは考える。

普通に考えれば、もし魔法で消されたとすれば、本人(ヨシュア)は死んでいる。

リドルが見せてくれたけど、女性化してどこかにいるなんて信じられない。

・・・でも、それが真実なんじゃないかと思う。

いや、思うことにした。



アリゼはリドルに、

「リドル、ありがとう。

ヨシュアばどこかで元気にやってて、しばらくしたら戻ってくる。

そう信じよう!」

リドルはコクンと頷いて、ニカッと笑った。

「じゃ、アリゼ。帰ったら新しいクエストを受けて、ヨシュアを待っていようね。」


じれったいことであるが、後は待つしかない。


用事を済ませて、とっとと帰ってこい。

そう思うアリゼであった。



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