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剣豪の息子、旅に出る  作者: 三久
第2章 剣豪の息子、故郷にて??になる
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055 再会



午後を結構過ぎた時刻。

山に入るには遅い時間に、勘助は山道を歩いている。


「確か、ここいらへんだったはずだ。」

勘助は、(ともえ)(いおり)を探している。


あれは、おそらく庵にいるはずだ。

確信があった。

・・それに一緒にいた娘。

あれも一緒にいるんじゃないか。




夕刻。

勘助は、煙の上がる小屋を見つける。

そっと隠れて近付こうかと思ったが、やめた。

どうせ分かる。


「御免。」

そう言って戸口に立つと、

「遅い。」

見ると、囲炉裏の奥に・・・巴がいた。

勘助は

「スマン。峰を一つ、間違えた。」

苦笑しながら答える。



「突っ立ってないで、入んな。」

つっけんどんに巴は言うと、外に向かって

「ユリア。」


水を入れた桶を持って、外から娘が入ってきた。

「おみ足を。」

澄んだ声である。


「おお。これは済まぬ。」

勘助はそう言うと、草鞋を脱いで足を差し出す。

娘は勘助の足を、丁寧に洗う。

指の股の間まで丁寧に洗うと、手ぬぐいで水を拭き取る。



勘助は板の間に上がり、刀を脇に置いて囲炉裏の前に座る。

すでに用意はしてあったのだろう、

夕餉(ゆうげ)(ぜん)が、まずは勘助、次に巴へと用意される。


「まずは一献(いっこん)。」

巴が酒を差し出す。

勘助は黙礼して頂いた。




一息着いた頃、勘助は

「で?」

巴はニタニタと笑いながら黙っている。

しばらくお互いに黙っていたが、勘助が折れた。

「巴、ズルいぞ。」


「何が?」

巴が答えると、

「どうやって若返った。」

巴はユリアを見て、

「アレに聞け。」


娘は配膳が済むと、隅の方で握り飯を食べている。


「ユリア。」

巴が呼ぶと

「はーい。」

自分の横に座らせて、ユリアの髪を撫でる。



似ている。

勘助は思った。

巴に比べて娘の方がやや浅黒く、痩せている。

面立ちは・・・巴に似ている。

いや。

というよりも、俺にも似てるんじゃないか。



不思議な感慨の中、勘助が

「誰の()だ?」


巴は慈しむようにユリアを見て、

「私達の()だよ。」

ユリアを前に出して

「見覚えがないかい?」


再びジーッと見る。

巴に似ている。

俺にも似ている。

白虎を持っている。

月照庵に逃げ込んだ。

光姫の部屋に、蒼龍がある。

・・・巴が若返った。


ピーン!っと勘助の頭に、とんでもない考えがひらめく。

驚くと同時に、ニカッと笑って

「良彌か!!」


娘は正座して、丁寧に一礼する。

「ひさしぶり。爺ちゃん。」

顔を上げると、ニカッと笑った。




ユリアは祖父にも、総一朗から話された本当のことを話した。


「で、何かい。総は鉱山を埋めちまおうと思っている訳だな。」

勘助が尋ねると、ユリアは頷いて

「うん。ただねぇ、オレとしては難しいんじゃないかと思うんだ。

総さんは、まだ間に合うって言うけど、

幕府には、どうも知れ渡っている気がしてさぁ。」


巴が

「おまけに情報の漏洩を気にして、弁には言ってなくてさ。

で、弁がまた勘違いしてるらしくて・・・」



一通り話が済むと、ユリア、いや、良彌は勘助に、

「爺ちゃんにお願いがある。

助太刀してくれないか。

こっちは婆ちゃんと光姫の手勢だけで、勝ちが見えない。」

良彌は巴に頭をパシッと叩かれる。

「巴さんだって言うとろうがw まったくこの子は・・・」


勘助は目を閉じて、全容を考える。

勝ち負けというよりも、最後まで持って行けるかどうかだな。

現在解っている事象から、勝率を導いてみる。

・・・いかんな。


目を開いて

「不確定要素が多すぎて、勝利が見えん。」




しばし(のち)


「ところで俺がお前達に味方するとしたら、何をくれる?」

勘助が尋ねる。


「何をくれるって?」

ユリアがキョトンとする。

「報酬だよ、報酬。」

勘助がニタッと笑う。

巴がプッと頬をふくらませる。

「孫にまで報酬かい。この欲ボケ爺ぃがw」


良彌は笑って、

「まずは爺ちゃんを若返らせる。

巴さんと一緒に、攻撃部隊をつくってもらう。

後は・・・上げた功績次第だな。

オレだってコウから要請を受けて動いているけど、報酬は確定してないんだから。

ただ、久留里藩が存続できるかできないかの問題だから、

うまい具合に納めれば、相当もらえると思う。」



勘助はひさびさに面白いと思う。


家督を与一郎に譲ってからは、酒に女にと、無聊(ぶりょう)の日々を慰めている。

そんな様子を巴には馬鹿にされていた。

それが今、再び剣を振るうチャンスが来た。

それだけで、血が震える。


「いいだろう。良彌・・いや、ユリア。お前を手伝おうじゃないか。」

腹は決まった。




翌朝。

巴の庵に、見慣れない若い男がいる。

年の頃、三十路(みそじ)あたりか。

脇に差した刀がしっくりとくる、背筋のピッと伸びた、印象の残る男である。


男は巴とユリアを従えて山を下る。



分かれ道で巴と男は、ユリアと別れる。


「ユリア。気をつけてやるんだよ。」

巴の言葉にユリアはニカッと笑う。


「あとで遊びに行くからな。」

ニタニタしながら男は言った。

そのセリフに、巴は男の身体をパシッと叩く。

「この色ボケ爺ぃがw」


男は若くなった勘助である。

ユリアはみぃの一座へ、勘助と巴は光姫のいる月照庵へと移動して、

情報収集と作戦部隊創設と、それぞれの仕事を始める予定である。



「じゃ、いくね。」

行こうとするユリアを、巴が抱きしめる。

「危なかったら、逃げておいで。」

勘助が頷いてニヤッと笑った。


よく晴れた、朝のことである。



『剣豪の息子』の他に、

『Heart on Fire ハートに火を着けて♡』という作品も書いてます。

書けた方を投稿していますので、よろしくお願いします。



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