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剣豪の息子、旅に出る  作者: 三久
第2章 剣豪の息子、故郷にて??になる
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053 心月流本部



久留里の街中にある、龍飛館(たっぴかん)

剣法、兵法の他に、地理、測量術、土木、建築を教える。

今で言うなら、高等専門学校が一番近いであろうか。


・・・の中にある、心月流道場『龍口(りゅうこう)

今も内部では、大勢の剣士達が練習に精を出している。



着流しの衣装に、くるくると髪を巻いて(くし)で留めた女性が、

入り口横の道を通って奥へ歩いてゆく。

奥は良彌(よしや)達の生家、つまり心月流本部である。


「あー、待て待て。」

二十歳台の師範代と思われる人物が、女性を見咎(みとが)めて静止させる。


「なにか?」

ニッコリ笑って女性は止まった。

「奥にご用件が?」

師範代が尋ねると、女性はピラリと紙を広げる。

「ツケの請求。」


痛ぁーという顔を師範代はした。

御総帥(ごそうすい)様のか!」

女性はコクリとうなずき

「おもてから行っても居留守ばかりでさ。いい加減待ちくたびれて。」


師範代も頷く。

「その気持は分かる。しかしながらここから奥へは通すわけにはイカンのだ。」

女性は動じず

「あの人が、困った時はこっちから来いって教えてくれたのさ。」


「しかしだなぁ、」


困った顔で師範代が何か言おうとした時、

武近(たけちか)さん、いるぅ?」

若い娘の声がした。


振り返ると、髪を後ろで束ねた若い娘である。

「何か用か?」

師範代が尋ねると、

「武近さんに相談したいことがあって、来たんですけどぉ。」

後ろ手でモジモジしながら上目遣いで娘は答える。


「今、武近先生は出張でいらっしゃらない。」

素っ気なく返す。

娘は「エーッ!」っと叫んで、

「とっても大切なことなのにぃw」

そしてチョイチョイと手招きをした。


師範代が近づくと、

「ナイショ話。」

さらに近づくと耳のそばに口を寄せて

「武近さんのが『生・ま・れ・た』って言って♡」


師範代は最初真っ赤に、そして真っ青になった。

『なんだとー!!!』

師範代は大慌てで本部の方へ、カッ飛んでいった。


娘と女性はニヤリと笑い、女性は奥へと歩いてゆく。



しばらく経って。

娘は道場の練習など見てプラプラしている。

そこへ師範代は、二人の男を連れてくる。


「娘! 武近の子供を産んだとは、まことか!」

一人が小声だが迫力のある声で尋ねた。


娘は

「え? 何のこと?」

師範代が

「お前、武近先生の子供を産んだって言ったじゃないか!」


娘は突然ケタケタと笑い、

「あー、お侍様、間違えてる。

私は『武近さんのが生まれた』って言ったんだよ。」

「エ?」

娘は笑いを押さえて

「猫のこと! 武近さん、子猫欲しいっていうから、とっておいたの!

まだ生まれたばかりだから、三月くらい後に持ってくるからって言っといて。」


娘はそのまま帰ってゆく。

後には怒った二人から、ゲンコをもらう師範代がいた。




夕刻。

月照庵。

コウは、ユリアと巴を待っている。

ほぼ日が暮れる時刻になっても、二人は帰宅しない。

まあ、あの人達に限って

何かあることはないと思ってはいるが、少々心配である。



ガタッ

物音がした。

振り返ると、ユリアと長物を持った巴がいる。

二人共、全身傷だらけである。


「直ちにここから逃げるよ!」

そう言い放つと、ユリアが

「コウ、また連絡する!」


コウは足袋のまま土間へ降りる。

「気をつけて!」

コウは叫んだが、すでに二人はいなかった。




時刻は少し戻って、心月流本部。


巴は手ぬぐいを(あね)さんかぶりにかぶる。

気配を消して、抜け道を通ってゆく。

奥の部屋に達した。

よし。

溝の部分に油を流し、障子を静かに開ける。

続いて、うぐいす張りの廊下に乗らないように注意して襖を開けると、

廊下をまたいで部屋へと入る。


部屋に入ると、とある柱へ近づき、後ろをクッと開いた。

柱の後ろは空洞で、収納庫になっている。

(にしき)に包まれた長物がある。

よし。


目的のものを入手して、振り返ろうとした瞬間、

「よく知っているな。」

声がした。


袋のまま、声のした方向へ長物を突き出す!

ガンッ!

すかさず飛び退って襖を蹴倒し隣の部屋へ移動、障子をぶち抜いて庭へと逃げた。

半分脱げた手ぬぐいを口でくわえ、顔を隠して長物を構える。



「ホホウ。出来るな。」

そう言って刀を構える爺ィが一人。


巴は黙って錦の包みをとって、長物をあらわにする。

一文字槍であった。

ビシイッ!!

しなりを入れて、構えを変える。

この爺ィは油断できない。


「んっ・・・?」

構えを見て、何か思うところがあったのか、

「オマエ・・・?」



「フッ!」

手ぬぐいを覆面のようにして顔を隠した別の女が、横から刀で突きを入れる。

ギンッ!

爺ぃの刀が跳ね飛ばす。


女の持っていた刀を見て、爺ぃの表情は一変する。

「その刀・・っ!」

燃えるような目になって、

「その刀、どこで手に入れたっ!!」

黙っている二人に、

「嫌でも聞き出すぞ!」



それから爺ぃの猛攻は、凄まじい。

女は二人共、よく防いだが、傷だらけになった。



最後に二人共、避けた拍子(ひょうし)に手ぬぐいを斬られた。

二人の顔があらわになる。


娘の顔に見覚えは無かったが、女の顔を見た途端、爺ぃは驚愕する。

「お、オマエ・・っ!!」


女達は飛び退ると、一目散に逃げていった。



「先生!」

騒動を聞きつけて、本部の門下生が大勢廊下を駆けてくる。

その時には爺ぃの怒りも収まり、状況を鑑みている。


門下生に片付けを頼むと、爺ぃは廊下を歩く。


「何が起こってるんだぁ?」

そうつぶやきながら、考える爺ぃであった。



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