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剣豪の息子、旅に出る  作者: 三久
第2章 剣豪の息子、故郷にて??になる
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050 再起動



パチッパチッ☆

薪の爆ぜる音で目が覚め.る。


「お、目が覚めたね。」

目を開けたが霞んでいて、よく見えない。

何か言おうと思ったが、声が出なかった。

「ああ、喋んなくていい。まだムリだ。寝てな。」

懐かしい声である。

安心して、そのまま眠りに入った。



陽の光で目が覚めた。

身体のアチコチが痛い。

「んっ。」

何とか起き上がると、知らない小屋の中である。


「やっと起きたかい。」

そう言って、縁側から人が入ってくる。

老婆である。

逆光でよく見えないが、声から結構な歳かと思う。

背筋はピンと伸びて、まだまだ元気そうである。


顔を見て、ユリアはビックリした。


「さてと。」

老婆は奥から白虎を持ってくる。

「アンタが『これ』を持っている理由を聞かないとね。」


「連れの女性は?」

ユリアは聞いたが、

「まず刀が先だ。」

そう言われてしまった。



ユリアは老婆の目を見て

「もらった。」

老婆は、たちまち鋭い目つきになる。

「嘘を言いな! こんな名刀、だれがくれるかい!」


「婆ちゃんにもらった。」

「婆ちゃん?」

ユリアは表情を変えずに

「そう。(ともえ)婆ちゃんにもらった。」


老婆は目の玉が飛び出るくらい、ビックリする。

「なんでアタシが、アンタにくれなきゃならないんだい!」


それから眉をひそめて

「・・・待てよ。アンタの顔、どこかで見たことある。

昔・・・いや、昔じゃない。

ええと、何だろうね、イライラする。」


思い出そうと必死な老婆に、

良彌(よしや)だよ、婆ちゃん。良彌だよ、オレ。」



途端に老婆は白虎を居抜き、ユリアの眼の前に切っ先が来る。

「嘘を言いな! 良彌は男だ!」

それから、ふと気がついて、こわごわと覗き込む。

「ホントに良彌かい?」


ユリア、いや、ヨシュアは痛いのだがニヤッと笑う。

「どういう理由かは知らないけど、光姫に召喚された時、女になった。」


それこそ目の玉が落ちそうなくらい、婆ちゃんはビックリする。

「本当に良彌なのかい?」

またまた痛いのだが、コクンと頷く。

「白虎があったろ?」


白虎は『(ちぎ)り』という魔術がかけてあって、

持ち主は、ある位置が把握できる。 

婆ちゃんは前所有者だから、感知可能である。




数刻後。

ユリアは婆ちゃんに身体を拭いてもらっている。


「それにしても信じられないね。良彌が娘になってやって来るなんて。」

巴はユリアの女性らしい身体つきと、豊かな乳房を触っても信じられない。


「い、イタイ。婆ちゃん、もう少し優しくやって。」


切り傷、刺し傷、打撲で満身創痍(まんしんそうい)なユリアは、どこを触っても痛い。

「我慢しな。これくらいの傷。」

婆ちゃんは平然と言うけど、重症だと思う。オレ。



少し前に、ユリアは光姫に会っている。

コウもユリアに負けず劣らずの満身創痍である。


「ごめん。」

ユリアはコウに謝る。

コウは痛いのを我慢して首を振る。

「あれだけの敵から逃げられたのは、さすが良彌だと思う。」


襲われる前提で、二人共、鎖帷子(くさりかたびら)を着用していた。

死なずに済んだのも、そのせいだろう。


「あとでポーション使って治すから。」

良彌の国では、ポーションはまだ珍しい。

やっと入ってきたかどうかという段階である。


まずは自分を直さないと、コウには使えない。

婆ちゃんに身体を拭いてもらって、準備したという訳である。



婆ちゃんは武者修行していた経験から、ポーションは知っている。


「じゃ、やるよ。」

ヨシュアの持っていた中ポーションを、スポイトで傷口に滴下してゆく。

シュワシュワという泡と、痛みとかゆみが同時に発生して、ユリアは悶える。

婆ちゃんは、かまわずに身体全体へ滴下してゆく。


しばらくすると反応が消えて、

汗とポーションで濡れ光るユリアの裸身があらわになる。

「よし。」

婆ちゃんはユリアを丁寧に拭いてやり、肌着を着せた。



少し経って、気力(きりょく)が戻ると、ユリアは立ち上がる。

まだダルくてフラフラする。


婆ちゃんはコウを裸にして、すでに身体は拭き終わっている。


「じゃ、いくよ。」

今度は二人で治療を開始する。

同じように処方して、コウの傷も、ほぼ完治する。




夜。

コウとユリアの二人は、縁側で並んでポーションを薄くしたものを飲んでいる。

婆ちゃんに食事を聞かれたが、まだ食べられない。

ダメージを受けた内臓を、先に治療しないといけない。


コウはユリアの肩に頭をあずけて、月を眺めている。


「まさか、(ともえ)さんに助けてもらうなんてね。」

良彌も信じられない。

「なんで婆ちゃん、こんなとこに住んでいるんだか。」



「意見の相違ってヤツさね。」

婆ちゃんが表れた。


「意見の相違?」

オレが尋ねると

「長い間一緒にいると、色々あるんだよ。」


・・・どうも、爺ちゃんとケンカしたらしい。


「で、何であんなところで倒れていたのか、事情を聞きたいね。」

婆ちゃんから尋ねられる。

まあ、当然だよな。


「婆ちゃん、まだ疲れてるから、それは明日説明する。いいかな?」

婆ちゃんはフッと笑って

「女になって、アンタ、スタミナが落ちたようだね。

・・まあいい。明日教えな。」

そう言って部屋に戻っていった。


・・・怖っw




翌日。

朝食も食べてホッとしたところで、今までの説明をした。


全てを聞いて

「まったく。久留里藩で謀反(クーデター)かい。嘆かわしいね。」

婆ちゃんは頭を振る。


オレ達も婆ちゃんから、倒れてからの話を聞いた。

どうやら今日までに5日間、過ぎているらしい。


「急がないと。」

コウは言ったが

「まだダメだ。今の状態じゃ、俺達、戦えない。」

せめて今日一日静養して、気力の充実を図らないといけない。



「私も参加できるといいけど、こんな(ババ)ァじゃねぇw」

婆ちゃんは、しきりと残念がる。


ピーンとヨシュアはひらめいた。

「ねえ婆ちゃん。少し手伝ってもらおうと思うんだけど。」

そう言って、ニタニタ笑いながらヨシュアは準備を始めた。




夜。

満月である。

丁度いいシュチュエーションだ。


「婆ちゃん。今から『奇跡』を起こそうと思う。」

ヨシュアはそう言って、(ともえ)を庭へと(いざな)う。


庭には魔法陣が書かれ、すでに準備が整っている。

コウは縁側に座って、様子を見ている。



「一体、何するつもりなんだか。」

そういう婆ちゃんを、魔法陣の中心において、ヨシュアは魔術を唱える。

正確には移動の際、ヨシュアに憑依して一体化したミナーヴァが、

ラ・ナヤの魔術を唱える。


「Hoc est, arcane Naya La. Dea sola conceditur privilegium.

De vi et auxilio Dei plena luna, nunc, facit eam ludere !

《これは、ラ・ナヤの秘術。

女神にのみ許された特権。満月の力を借りて、今、果たさん!》」


魔法陣は輝き、薄い壁のようなスクリーンが立ち上がってゆく。

「Mosu deam interroga pro lunae.

Vis dare nobis. Tam procul a felici RENOVATIO.

《月の女神にお願い申す。我に力を与えよ。若返りの秘術を成功させよ》」


婆ちゃんの姿は光のカーテンの中に隠れ、すでに見えない。

「Diis solis. Terra anguis.

Non enim auctorem, hoc velle, si implevit !

《太陽の男神よ。大地の大蛇よ。我に力を与え、この願い、成就させよ!》」


カーテンは一瞬輝くと、スーッと上から薄くなって消えてゆく。


中には年の頃、二十歳台の女性がいた。


「ようこそ、巴さん。」

ユリアはニカッと笑う。


それは若返った婆ちゃんであった。



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