004 大森林地帯に挑む
今日から1人で採集である。
アリゼにはしばらく、ターシャの看護をしてもらうことにした。
ターシャのケガを治したい。
アリゼには「それなら一緒にやって稼ごう」と言われたが、断った。
ターシャの件はオレの一存で始めたことだ。
アリゼに助けてもらうのは少し、はばかりがあった。
オレは傷病に効く薬草・原料を採集する上級クエストを行なうことにした。
特殊な状況と環境で採集を行う。
それは通常、チームを組んで行うものであるが、
オレは力試しという意味もあったので、あえてソロで挑んでみる。
シュヴァインフルトの南南東、30km。
『大森林地帯』と呼ばれる一角に、オレはいる。
ここは様々な資源が豊かな反面、生息している生物に歯ごたえのある相手が多い。
『大ポーション』の原料のうち、高価なもの3つがここにある。
冒険者ギルドの大森林支所。
ここで入林の手続きをとる。
行方不明になった場合の、残された遺品の分与先も書き記す。
ソロで入林すると言ったらギルドの受付に呆れられた。
力試しで入りたいと言ったら不承不承、納得した。
「さて、始めるか。」
武器よーし。
持ち物よーし。
回復ポーションはチョイと足りないが、まあ、よーし。
オレは気力を身体中に通す。
武士の感覚が蘇る。
抜刀して一振り、ピシッと決まる。
よし。
オレは大森林地帯へと侵入した。
オレは家伝の隠蔽スキルで姿を隠して森を駆け巡る。
武器は刀だけではない。
弓・槍・ワナ。
知恵と技術を駆使して植物と獲物を捕獲する。
なるべく最高の状態のものを最善の方法で、採集と狩猟を繰り返す。
家の教えでは
『武器で倒して三流。素手で倒して二流。手段を選ばずに倒して一流。
敵を倒してこそ本懐。手段を選ぶべからず。』
戦いは勝たなければ意味がない。
敵の息の根を止めるまで戦えと言われた。
オレとしては勝利の意味するところで、達成条件は変わると思うんだけどね。
大森林地帯に挑戦して4日目。
さらに奥へと侵入する決心がつく。
今まではギルドに戻って採ったアイテムを卸して出て、を繰り返していた。
本当に欲しいモノは、もっと森の奥にある。
足りないモノ・消耗したモノを補充して、準備を整える。
荷物を『収納穴』に収納して、オレは奥を目指す。
同時刻・シュヴァインフルト・竜の尻尾亭。
「まったく。連絡くらい寄越せばいいのにね。」
ターシャの傍らでアリゼがため息をつく。
ヨシュアは「説明が面倒だから」と言って、ターシャに何も言わず出発した。
二三日顔を見せないので、ターシャが「どうしたの?」と尋ねたから、
どこに行ったか答えた。
彼女は驚いて騒いだが、「今更、もう遅い」と言って、静かに寝かせてある。
「大丈夫なんでしょうか。」
寝ていても気が気ではないのであろう、モゾモゾと動く。
「ほら、アンタは治すのが仕事。」
そう言って大人しくさせた。
ヨシュアから話を聞いたとき、アリゼは自分も行く気満々であった。
ところがヨシュアは「思うところがあるから、ソロで行きたい」と言う。
冗談ではない。
「アンタ、大森林地帯に『ソロ』で入るって!?」
バッカじゃないのという顔をする。
「私達より上のクラスがパーティ組んで入って難儀するところだよ。
何考えてんのさ!」
ヨシュアは涼しい顔をして、「力試しをしたい」と言った。
アリゼは知っている。
ヨシュアは年齢と勤務年数で3等曹長に在籍しているだけで、
実際の腕前は、まだまだ上だ。
「ここへ来て1年チョイ経つ。アリゼに助けてもらって、ここまでやってきた。
そのせいか、鈍っている部分がある。」
おそらく先日、弓で狙われているのを気づかなかったことを気にしているのだろう。
気にするなと言ったのだが、納得していない。
「どれくらい出掛けるの?」
諦めて、日数を尋ねる。
「できるなら3週間。」
なかなかの日数である。
「彼女にはどう言う?」
「説明が面倒だから、黙って出掛ける。」
しばらく沈黙が続く。
「ねえ、・・何でそんなに命賭けてまで助けるの?」
「え?」
「知り合いでもない人を助けるために、命賭ける理由。」
これだけはどうしても聞いておきたかった。
ヨシュアは苦笑して、
「信念に従ったまでだよ。」
「信念?」
「爺ちゃんが言ってた。『困った時は信念に従え』ってね。」
「・・・そう。」
再び、沈黙が訪れる。
「言っとくけど、」
突然、ヨシュアが話をつなぐ。
「アリゼがこんな状況になったら、オレ、もっとすぐに動いてると思う。
全財産出して病院入れてさ。さっさと大森林へ行ってる。」
「そうなの!?」
ちょっと驚いた。
いつも何考えてるのか分からない彼が、こんなにはっきり言うのは珍しい。
こっちを向いて、
「彼女が死ぬのは、ある程度、仕方がない。
でもアリゼは違う。
アリゼが死んだら、オレ、自分が許せない。」
真剣な目をしてアリゼを見て言った。
全身の血液が逆流した。
眼の前が真っ赤になる。
おそらく真っ赤な顔をしていると思う。
恥ずかしくて顔を上げられなかった。
話すことは話したと思ったのだろう、
「これから本部へ行って手続きしてくる。」
そう言ってヨシュアは出ていった。
出掛ける間際、駅馬車で出発する直前に脇差しを手渡された。
「大した値段にならないかもしれないが、困ったら売ってくれ。」
ヨシュアが大事にしている剣で、祖母からの贈り物だと言っていた。
「売らないと困る前に、帰ってこい。」
剣を受け取りながら、そう答えた。
以来、まったく連絡がない。
「・・・まったく。手紙くらい寄越せばいいのにね。」
再びアリゼはそう言って、ため息をついた。
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