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剣豪の息子、旅に出る  作者: 三久
第2章 剣豪の息子、故郷にて??になる
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046 襲撃



「お初にお目にかかります。長次でございます。」

ヤクザの親分は、光姫に深く頭を下げる。

光は、今朝は若衆姿ではなく普通に女性の着物を着ている。


「可憐な女性(ひと)だな。」

長次の光姫に関する第一印象(ファーストインプレッション)である。


(こう)でございます。」

長次へ丁寧に頭を下げる。


長次は慌てて手をあげる。

「あ、いや、姫様。滅相もない。姫様が、やくざ者に頭を下げるなんて!」

コウは(おもて)を上げて

「兄がお世話になっております。当然のことかと。」

長次は悟る。

こりゃぁ、大した姫さんだ。



長次と光は、武近(たけちか)良彌(よしや)が立会の元で、初顔合わせの最中である。


「話は昨晩、こちらの嬢ちゃんから聞きました。

殿様に会いたいということで良いんですね?」


長次の質問に

「はい。総一朗兄様に会えれば、後はこちらで。

・・あ、要件は何かを伝えないと、弁次郎兄様の手先と間違えられるかな。」


「承知いたしました。昨晩おっしゃられた事を、そのまま伝えます。」

顔合わせは短時間で済み、結果待ちとなった。




帰り道。

「うーん。気持ちの良い朝だよね。」

大あくびをして背を伸ばして歩きながらユリアが言った。


女性としては、はしたない姿であるが、元はヨシュアである。

光はクスッと笑って、自分も腰をグイッと伸ばす。

コウも動いている方が好きで、おしとやかにしているのは便宜上である。


少し後ろには、鉄とお狐がいる。

「それにしても、鉄さんがユリアの兄さんとはねぇ。」

お狐は驚きを隠さない。

鉄はコツコツと鞘で地面を探りながら、お狐と同じ速度出歩いている。

「ハハ。何の因果か、私がコイツの兄になっちまいまして。」

前日の、武近として紹介されたときの片鱗も見せない、立派な渡世人である。


気がつくと、ユリアが鉄の横にいる。

鉄の左手を自分の肩にのせて、案内を始める。

「こりゃ、どうも。」

ペコリとお辞儀をして、歩き出す。



鉄を自分達が泊まっている旅籠に案内すると、

ユリアは小かごを取り出して中の紙片を取り出した。

広げると、久留里藩の詳細な地図である。


この時代、藩の詳細な地図は軍事機密である。

その地図を持っているということは、ユリアは

それだけで、御目見得以上の直参であることがわかる。


小娘が旗本なのかい。

お狐はゾクッとした。



ユリアはお狐と鉄に尋ねながら、詳細な事情を地図に落としてゆく。

書き込んでいるわけではない。頭の中に入れているのである。

もし紙に記録した場合、何かの事情で盗られると、命に関わる場合がある。

情報部員ならば脳内記録は常識である。


「なるほど。」

ユリアはそう言うと、コウと二人で頷く。


その日は日の暮れるまで、お狐案内の元、新久留里の町並みを見て回った。




夜。

コウはお狐に夜桜見物したいと言ったが、ユリアに止められた。

「一応敵地だから、夜はダメ。」

コウは唇を尖らしたが無視した。

お狐にも、今日は一緒に泊まって貰う。



夜中である。


天井の隅がスーッと開く。

・・・。

部屋を覗く顔が出る。

目の部分だけが開き、後は黒い頭巾を被っている。

部屋の寝息を聞いて、熟睡していることを確かめる。

スッと部屋に降りた。


影は3つ。


影が動こうとすると、

「ウウン。」

コウが寝言を言った。


ピタッと止まる影。

しばらくジッとしていると、再び規則正しい寝息になった。

再び影は動き始める。


影は、布団1つにそれぞれ一人。

スッと鯉口を開くと、静かに刀を抜く。


布団を突こうとした瞬間、

「起きてるぞ。」


一瞬、刀が止まった。

次の瞬間、

『ザクッ!』

一斉に布団へ刀が突き刺さる!


時、すでに遅し。

コウ、ユリア、お狐は横に逃れ、三人の懐刀が影をえぐる!


ユリアの懐刀は『鎧通し』。影に深く突き刺さったが、

コウとお狐の刀は、影が着ていた鎖帷子(くさりかたびら)に弾かれた。


影はさらに攻撃を加える。


ユリアはすでに白虎を構えていて、ニ閃、キラッと光った。

首が2つ飛び、首から血が吹き上がる。

残心。

敵がいないことを確かめたユリアは、緊張を解く。


しばらくすると店の者が明かりを持って、バタバタとやって来た。

「ウワッ!」

惨状を見て、ひっくりかえる。


番所がやって来て大騒ぎになる前に、三人は鉄の元へと逃げ込んだ。




翌日。

「昨晩の忍びは、どこの者なんでしょう。」

コウの質問に、

「一番、総さんの支持者。二番、弁さんの支持者。三番、大殿の指示。」

ユリア、あぐらをかいて、ハナをほじっている。

「あとは・・・そうだな。久留里藩が混乱すると、有利になる連中。」

出てきたハナクソをピンと弾く。

ああ、せっかくの美貌が台無しだわと、コウはガッカリする。


お狐が廊下から

「朝ごはんできたって。」

ユリアはパッと飛び上がって一瞬で着物を整え、正座する。


入ってきたのは、膳を持った若い衆である。

ユリアはニッコリして

「ありがとう。」

若い衆は、それだけでポーッと赤くなる。

・・・さっきまて、鼻ほじってたくせにw

呆れるコウであった。



食後の茶を飲んでいるときに、お狐が

「ユリア、あんたって人を斬るのは平気なの?」


16、7の小娘が、迷いもなく人を(あや)める。

昨晩それを見て、お狐はショックを受けた。

私なら、あんなに平然と人は斬れない。


ユリアは茶碗の中の茶をフーフーしながら、

「剣を持つものの心得(こころえ)というのがある。

『戦いで殺されても文句は言わない』

その決心が出来ない者は、剣を持っちゃいけない。

戦いに参加してもいけない。

ましてや、剣士を志してもいけない。」


一口飲んで「アチッ」とか言って、

「刀を美しいとか、剣の道を精神修行という人がいるが、

刀は武器だし、剣術は剣による殺人の方法だ。

それに『美しい』や『精神修行になる』という、付加価値がついてるに過ぎない。」


フーフーして、注意深く飲む。

「よし。」


ニッコリして

「師匠より『剣の道は修羅の道』。そう言われている。

兄さんもそうだけど、私達は、とうに決心は出来ている。

私達は地獄に行って、人殺しと言われて獄卒達に裁かれる運命なのさ。」


自分より年下だろうユリアのあざやかな決意に、狐は舌を巻いた。




鉄がやって来る。

「親分から話がある。」


一緒に行くと、長次が火鉢の前に座っている。

「昨日の襲撃で、町は大騒ぎだ。

番所の役人に聞いたが、忍びの者三人。

出処不明。

少なくとも、新久留里の関係者じゃ、無いらしい。」

さすが親分で、さっそく情報を仕入れたらしい。


「あと、殿から入城の許可がおりた。

姫様と嬢ちゃん、先生は城に向かってください。」


ユリアが

「お狐さんも連れてゆくよ。」

と言うと、

「お狐は関係無いだろう。」

長次が渋い顔をする。

ユリアはイヤイヤと首を振り

「昨晩、一緒に襲われた。このまま別れると、人質にとられるかもしれない。」


予定の人数が違うとか色々言われたが、結局、お狐を入れて城に上がることになった。



剣士の心得ですが、色々あると思います。

ユリアの考えであることをご了承ください。


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