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剣豪の息子、旅に出る  作者: 三久
第2章 剣豪の息子、故郷にて??になる
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042 練習試合



夜明け前。

月照庵の練武場で、ユリアは剣を構える。


使っているのは蒼龍である。

「フッ!」

剣を振り、前後左右に歩を進める。


ひとしきり振ったところで刀を換える。

今度は白虎である。

「ヤッ!」

ピッピッピッと突きを繰り出し、鞘に仕舞って居合いで抜く。


やはり白虎だな。

女性化したヨシュアにとって、蒼龍は長く、重すぎる。


コウが入ってきた。

「ユリア。刀を脇には挿せませんよ。」

苦笑して言う。

・・・うっかりしていた。



どうしようと考えていると、コウが黒漆の鞘に包まれた懐刀を差し出す。

「これを。」

鞘から抜くと、白白とした美しい地金のTanTooである。

『吉光・厚藤四郎』

古刀の名品である。


「欠くかもしれない。」

借りる限りは、実際に使う可能性がある。

もっと普通の品の方が良いと暗に示したのであるが、

「かまいません。」

こと刀に関して、コウに鑑賞の趣味は無かった。

「使ってナンボ。」

実用品である。



ユリアは順手で吉光を構える。

静かに気力(きりき)を充実させる。

全身に気力をまとうと、刀にも通す。


最初、薄桜色だった吉光の気力が、次第に青紫色に変化してゆく。

名工の力強い『思い』が、気力を通してユリアにも伝わってくる。

薄桜色から青紫色に変わる間に、徐々に吉光が自分の刀になってゆくのを感じる。


右手首に左手を添える。

吉光・厚藤四郎は短刀なれど刀身が厚く、

鎧通(よろいどお)し』と呼ばれる攻撃性の強いものである。


これは白虎と同じ長さの刀である。

そう信じて厚藤四郎を振るう。

「フッ、フッ、」

上下左右に空気を切る。

スパッ、スパッと、見事に空気が切れてゆく。


「フーッ。」

呼吸を整え、刀を鞘にしまう。

よし、使える。



コウはうっとりする思いでユリアの剣舞をみている。

いつもながら、ヨシュアの剣は美しい。

踊るように剣を振るっているわけではないのだが、

その立ち振舞いの美しさから、コウは『剣舞』と思ってみている。



ユリアは、

「コウの剣だったみたいだけど、しばらくオレの剣として使う。」

そう言って懐にしまった。

代わりに預かってくれと言って、『蒼龍』をコウに手渡した。

「今のオレには使いこなせない。」


気力(きりき)で白虎を立てると空間に小さな穴を出して、

穴の中にしまう。

「それは?」

コウは初めて見るものだ。

ユリアは

「これは『収納穴』と言って、・・・ヒマな時説明するね。」

そう言って、練武場を出ていった。




久留里の朝は、練武場の掛け声で始まる。

夜が明けると同時に、市内のあちこちにある各流派の練武場から、

竹刀を振るう音と掛け声が聞こえてくる。


ヨシュアの国は『武』の国である。

武士(もののふ)と呼ばれる武装集団が各藩の治安を守り、藩旗の元、結束を固めている。

久留里藩は、中でも勇猛果敢な武士の集団として名を馳せている。


練兵に関しても盛んで、少し郊外へ行くと

モンスターの出現など治安が安定しないこともあって、

武士だけでなく、町人、農民にも武道は盛んである。



朝早くから騒がしいものだなと思いながら、ユリアはコウと市内を歩く。

ここ数日、ユリアはコウと二人あるいは乳母と一緒に、市内のあちこちを歩いている。

目的はもちろん情報収集である。


今日の二人は、商家の娘の()りをしている。

コウは商家風に(まげ)()っているが、ユリアはポニーテールのままである。


一度、髷を結ってもらった。

頭が痛くなって、すぐにやめた。

「コウってすごいなぁ。」

感心したら、笑われたw



木製の路地塀(ろじべい)に沿って二人は歩く。

隣は練武場で、掛け声が凄まじい。


「掛け声で敵を倒す訳じゃないんだから、もう少し静かにやればいいものをw」

ブツブツ文句を言いながら歩いていると、木戸がツイと開く。

「今、文句言った奴、だれだ!」

出てきたのは、まだ青臭さの残る小僧である。


ヨシュアが小僧呼ばわりされているのに相手を小僧というのも変だが、

とにかく小僧である。

「女、お前か!」

声のデカい奴である。

思わず耳を押さえて

「声変わりのしてない声で大声でしゃべるな。聞こえてる。」


女、それも娘に言われたのが癪だったらしい。

「なに!? オレのこと、バカにするか!」

その声に同期生だろうか、練武場から4、5人、バラバラと出てくる。

おそらく入塾して1、2年の生意気盛りである。


コウが間に割って入り、

「これはお武家様、まことに失礼なことを申しました。

悪気があってのことではございません。お許し願えませんでしょうか。」

深くお辞儀をして謝った。

気を良くしたのか、少し、場が和らぐ。



そのまま通過しようとすると

「待て。」

木戸からもうひとり出てきた。

「あっ、塾長!」

小僧が言った。


竹刀を持った塾長と呼ばれた男は、ユリア達より少し上であろうか。

「なにか?」

コウは言ったが、男は無視した。

ジッとユリアを見ている。


「入れ。」

有無を言わさない態度である。

無視して行こうとしたが、小僧達に塞がれた。




練武場の中は、汗の匂いに満ちていた。

コウは眉をひそめたが、ユリアは慣れている。

それぞれが打ち合いの練習をしていたが、男が何かささやくと練武場の一角が空いた。


男が立てかけてある竹刀を指差す。

・・・仕方がない。

ため息をつくと、コウに懐刀を預けて、

ユリアは立てかけてある竹刀から、適当なものを選ぶ。

「防具はつけるか?」という問いに「いらん」。素っ気なく答える。



塾長が見ている前で、防具をつけた小僧が出てくる。

「神剛流、真一郎。参る!」

蹲踞(そんきょ)の上、青眼に構えた。

ユリアは片手で竹刀をダラリと持ったまま「どうぞ」。

中段に構える。


「タアァーッツ!」

小僧が突っ込むと同時に後ろへすっ飛ぶ。

ユリアの突きが喉笛に炸裂して、後ろへすっ飛んだのだ。

小僧は失神して、身動きをしない。


男はアゴを動かして、次を催促する。

外に出てきた小僧の仲間の一人が前に出る。

「剛志、参る!」

『パシッ!』

今度は小手を取られる。

そのまま竹刀を持つことが出来なくなった。

ユリアが骨の髄に染みるような小手を打ったせいである。


男の合図で、次々に小僧の仲間が出てくる。

みんな二合と持たずに倒れて交代してゆく。

最後に出た仲間がユリアの面で脳震盪を起こして倒れると、誰も出てこなくなった。



男が前に出て、塾生に言う。

「相手の力量も計らないで軽々にケンカを売るな。こうなるぞ。」

その後、ユリアに向かって

「お手合わせ願おう。」


試合は練武場の中央で行われる事になった。


相変わらずユリアは防具をつけていない。

対する男も防具をつけなかった。

「勝負は1本。始め!」

掛け声と同時に試合が始まる。


ユリアは両手で竹刀を握り、中段にかまえている。

男は上段にかまえて、大技を出す気配である。


あれはフェイントだ。

ユリアは知っている。

男は、小技を練り込み技巧に凝るタイプだ。

大技を出すと見せかけて、突きや小手でネチネチと攻めてくるだろう。

それならば、っと。


男が上段から竹刀を振り下ろし、太刀筋が変化する。

面ではなく、小手狙いだ。

狙い通り。

ユリアは竹刀をチッと合わせ、擦るように動かすと、クルッと回した。

ポーンと男の竹刀が飛んでゆく。


『ツバメ返し』

本来は急速に太刀筋を変えて相手を切り裂く技だが、

小さくまとめると、こういう使い方もできる。


そこにはポカンとした男の顔があった。

ユリアは喉元に当てた竹刀を収めて

「帰るから。」

ガランと竹刀を放り投げて、練武場を後にした。




その日の午後。

数日に渡る調査で分かったこと。


弁次郎君、多数決で勝ち。


評判は良い。良すぎるくらいだ。

「これは投票したら、弁次郎に決まりだな。」

ユリアが言うと、コウが

「うーん。でもね、一部の人が

『将来のことを考えたら、若様の方がいい』って言うのが気になる。」


確かに気にはなる。

わざわざ『新久留里藩』と名付けたのは、

どうも新しい行政システムで領内を運営したかったらしい。

「言ってるのが商人と農民っていうのが気になるねぇ。」

オレが言うと、ウンウンとコウも頷く。

「これはもう、言ってみるっきゃない!」

ニカッと笑ってコウは言った。


・・・(てい)のいいボディガードやらされてるかもw

そう思うヨシュアである。



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