003 クエスト
「さて、アリゼ。クエスト何だっけ?」
一緒に朝食を食べながら、オレは改めて尋ねる。
アリゼは呆れた顔をして
「言ったよね?」
襲撃された翌日。
オレはターシャの居室を移動した。
竜の尻尾亭の女将さんに相談して、女将さん達の居室に、だ。
宿の居住スペースには常時誰かいるので襲いづらい。
それに女将さん夫婦は、元は冒険者だった。
いざというときには守ってもらえる。
あと、シュヴァインフルトの城主は治安に厳しい。
城下の宿屋で家主の部屋へ襲撃事件を起こせば、ただでは済まさないだろう。
出掛けにオレはターシャを見舞う。
「ここなら大丈夫。落ち着いて養生できる。
女将さん達も元冒険者で、気心は知れている。
不足があれば、リクエストすればいい。」
「ありがとう。」
らしくも無く大人しくしているので、オレはニヘッと笑って部屋を出る。
クエストの内容を聞きながら西門へ向かう。
「目的は電撃トカゲの巣の撤去。
住民の通報により斥候が確認して、初期の営巣であることを確認。
個体数大人2・子供3。」
フム。
「倒した個体数の確認方法は?」
「シッポ。・・あ、アイテム持って帰るよね?」
「もちろん。」
「じゃ、それで分かるじゃん。」
「そうだったw」
指定場所に着くと、斥候が待っている。
「よう。」
「おはよう。」
「こっちだ。」
早速現場へ向かう。
電撃トカゲは、この周辺を生息域にする、割とよくいる大型のトカゲである。
ガンつけると攻撃してくるという困った性格をしており、
特技として電撃攻撃がある。
雑木林を越えた開けた野原に巣はあった。
斥候は遠視鏡で巣を見ながら、
「ここいら辺は新しく畑を作る予定の場所でな、
アイツら邪魔ということで退治することになった。」
オレも双眼鏡で見て、
「ねえ、アリゼ。このクエスト、どう見てもアリゼ1人じゃムリだよね?」
アリゼはあさっての方を向いて口笛吹いてる。
稼ぎが良いから、内容見ないでソロで受けたに決まってる。
ヒトのこと、アホと言うくせに。
ため息をついて、オレは作戦を考えた。
斥候にも別途支払うことにして、手伝ってもらう。
まずは斥候には、風上から野火を放ってもらう。
火と煙に煽られて、トカゲ達は慌てて風下に逃げ出す。
次にアリゼが矢を放ち、大人トカゲの注意をそらす。
大人トカゲは革が硬いから矢は刺さらないが、怒って向かってきたら、
最後に、オレが刀を使って退治するという作戦である。
今回は大人トカゲがバラバラに逃げたので、時間はかかったが退治は楽だった。
最後にアリゼが子供トカゲを弓で退治してクエストは完了。
野火が思った以上に延焼したので少しアセったが、なんとか鎮火した。
何のかんので一日で終わったから、良しとしよう。
「さて、仕事も終わったから、獲物は持って帰ろう。」
ここからが便利屋グループの真骨頂だ。
便利屋は使徒メリクリウスに属するグループで、『運搬スキル』が使える。
スキルはグループに属すと与えられる特殊な能力で、
聖職ならば『浄化』。医療ならば『回復』。魔術師なら『広域魔法』など、
様々なものがある。
「アリゼ、運搬何級だっけ?」
オレが尋ねると
「今、3級。」
クソッ、オレと同じかw
「使徒メリクリウスよ。その神秘の扉を開けよ。」
何もない空間に、ポカッと『穴』が産まれる。
『穴』をスライドさせてゆくと、獲物は穴の中に消えてゆく。
アリゼが大人2匹、オレが子供3匹を入れて作業は完了。
「じゃ、オレは先に帰って報告しとくぜ。報酬、忘れるなよ。」
そう言って、斥候は帰っていった。
もう一度、鎮火の確認をして
「じゃ、私達も帰ろうか。」
アリゼが振り向くと、誰もいない。
「ヨシュアぁーー!?」
大声で呼ぶと、遠くでピコッと手が振られている。
近づいてみると、ヨシュアはトカゲの穴の中に入ろうとしていた。
周囲は鎮火したばかりで、まだ熱い。
「まだ熱いよ! 大丈夫!?」
「確かに熱いけど、入れない程じゃない!」
ヨシュアは大声で言ったんだが、土に遮られてモゴモゴとしか聞こえない。
「えーっ、何ぃー!?」
聞こえないアリゼは放っておいて先へ進む。
トカゲは大人だと全長3~4m、胴回りは1m以上あるから、
オレはトンネルの中に入ることが出来る。
小型のランプを持って、しばらくゴソゴソと進む。
奥に入ったところに大きな空洞があった。
巣があって同心円状にタマゴが置かれている。
それを集めて運搬スキルで収納する。
「よし、と。」
電撃トカゲのタマゴはニワトリのタマゴの4倍くらいの大きさで、美味なのだ。
盗らない手はない。
巣から戻る途中の分岐から、チョロッと電撃トカゲの頭が出た。
オレはギョッとする。
オレを見たトカゲはキッ!とした顔をして、
いきなり両頬にある放電器からバシッ!と放電しやがった。
「ギョエェェーーーッツツ!!」
体中に放電のショックが突き抜ける。
幸い、トカゲはまだ大人ではないらしい。
放電も弱くて、しびれるだけで済んだ。
こんな狭い通路の中では刀も振れやしない。
オレは大急ぎで逃げ出した。
やっとの思いで外に出たオレは、一緒に出来たトカゲを斬り倒す。
出てくる間にも何回かやられ、外でも2回、電撃を食らった。
様子を見ていたアリゼは、腹を抱えて笑っている。
「手伝えよぉ!」
半分ベソかきながら怒るオレに
「あんなに近くちゃ、助けようが無いじゃない。」
涙を流している。
まあ、確かにアリゼは弓だし仕方ないなんて思っても、納得いかないぞw
釈然としない気持ちのまま倒したトカゲをしまうと、徒歩で帰宅するのであった。
夕食後のほっこりする時間。
オレはターシャの見舞いに来ている。
「今日、先生がお見えになってね、
『これからは動かないで、しっかり養生してください』って怒ってたよ。」
女将さんから報告を受ける。
「すいません。気をつけます。」
ペコペコとオレは謝る。
「まあ、ヨシ君が謝ることじゃないんだけどね。」
そんなこと言って、女将さんは片付けしに食堂へ戻ってゆく。
改めて彼女を見る。
前日より顔色は良くなっている。
「どう?」
ターシャは少し笑って
「まだ痛いけど、大丈夫。」
「何か欲しいものはある?」
「・・今はない。ありがとう。」
すぐに言葉が途切れた。
何話していいのか迷っていたところに、
「ハイハイ、身体拭くから邪魔だよ。部屋に戻ったもどった。」
アリゼがタオルを肩に掛け、洗面器と湯をいれたポットを持ってくる。
オレは「ちょっと待って。」
傷口近くに手を持ってゆき、気力をかける。
「あぁ、痛くなくった!?」
ターシャが驚く。
「回復魔法ほどじゃないけど、まぁ、近いものが使えるのさ。少しだけどね。」
ニッと笑って部屋に戻る。
自室で武器の手入れをする。
『蒼龍』は、元は祖父の持ち刀である。
成人の儀に際して、もらった一振りである。
今のオレには若干長いが、切れ味といいバランスといい、気に入っている。
もう一振りの刀は『白虎』。
こちらは祖母が持っていた一品で、
父から聞いた話では、祖父と真剣勝負をした時に大きく刃を欠き、
脇差しに研ぎ直したものであるとのこと。
・・本気の夫婦喧嘩でもしたのか、婆ちゃんw
こちらは白々とした刀身が清々として美しく、同じく気に入っている。
まあ、こちらは専ら木を削ったり紙を切ったり、
仕様もない事ばかりに使っている。
コンコン『ガチャ』
ノックが聞こえると同時にアリゼが入ってくる。
「返事してから入ってよw」
オレは文句を言う。
以前、着替えてる最中に入られて、かなり恥ずかしい思いをした。
その時はオレのをチラッと見て、
「そんなもの、父さんで慣れてる。」と言われてしまった。
今回も「ノックしたじゃん」で終わってしまう。
いつものようにベッドに座るアリゼに
「ターシャの様子はどう?」
オレが尋ねると、
「うーん、素人判断だけど、良くないと思う。」
傷口が化膿したようで、治りが遅い。
無理もない。オレが見つけるまで出血が続いていた。
決して清潔でも適切でもない状況と方法で応急治療をした。
治療したあとで、安静にせずに動いている。
どうしようかなと、腕を組んで考える。
方法は2つ。
1つは今のまま、医療グループで治療することだ。
これだと金額に応じた治療をしてもらえる。
もう1つは『大ポーション』と言われる治療ポーションを手に入れることだ。
これは本物ならば、すばらしい効き目を示す。
ただし、高価である。
裏でも取引が盛んで、飲むと死亡するようなモノも流通しているらしい。
頼めば医療グループならばホンモノ使うだろうが、どのみち高価なことは変わりない。
うーん。
治してやりたいが、金が無い。
手詰まりになってしまった。
感想、よろしくお願いします。