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剣豪の息子、旅に出る  作者: 三久
第1章 剣豪の息子、冒険者となる
39/81

038 熱狂



玄関からギルドへ入ると、オレはビックリした。

・・・なんで朝から、こんなに人がいるの?

見渡す限り、オヤジの集団である。


支部長が代表として出てくる。

「あー、コホン。ヨシュア、採れたか?」

オレは

「採取は完了しました。」


居並ぶオヤジ達から、

『オオーーーッ!!!』

熱い歓声とガッツポーズが躍り出る。


「よし! では奥へ行って管理部門に預けろ。」

オレの耳元に口を寄せて小声で

「今回は競売(けいばい)でやる。」

オレは頷いて、奥の部屋へと移動する。



管理部門のチーフから、今回はすぐに競売にかけると言われた。

「何てったって鮮度が命だからな!」

オレは冷蔵かつ厳重に梱包した採取品を取り出す。

「よーし、よーし!」

チーフは大喜びである。

「お前に頼んで良かった。完璧だ!」

係員に通知すると、走って支部長へ知らせに行った。


競売はギルドの大会議室で行う。

準備が整うまでの間に、期待はどんどん高まってゆく。

開場直前には、異様な熱気が会議場を覆っていた。



とうとう支部長が入ってきて、開場を宣言する。

『ヤッター!』

会場は大騒ぎだ。


その時、

「待てまてまてーーーい!」

大声で叫ぶオヤジがいる。

「まずは『ホンモノ』かどうか、確認させろ!」

やる気満々だったオヤジ達はハッとする。

『そうだそうだー!』

開場は騒然とする。


支部長はこれも予期していたようで、係員に何か言うと手を挙げた。

「わかった。では実証を望む希望者、手をあげろ!」

かなりの人数が手を挙げる。

「よし、言い出しっぺのお前。お前が確かめろ!」

最初に確認を要求したオヤジが指名される。


「おおっ! よし。相手は連れてきている!」

オヤジは女性を連れてくる。

獣人で、容姿は良いが態度は悪い女性だ。


支部長は、奥から縦長の小さな箱を持ってくる。

箱の上蓋を明けると、中から試験管に入った蛍光ピンクの液体を取り出す。

『オオーッ!』

ほとばしる歓声の中、蓋を開けてスポイトを入れ、少し吸い上げる。

「これで充分。」

ハンカチに吸い込ませて、すぐにオヤジに渡す。

オヤジはそれを受け取ると、すぐに女性に嗅がせた。


胡散臭そうに鼻をヒクヒクさせて嗅いでいた女性は、突然、目をトロンとさせる。

ハンカチを奪うと、一心に嗅いでいる。


そのうち気分が高ぶってきたのか、ソワソワし始める。

「ウーン、ガマンできないっ!」

そう言うと同時にオヤジの腕を引っ掴むと、扉へと突進する。


待つこと暫し。

絶叫がして静寂が訪れる。

少し経った頃、オヤジが喜び疲れて戻ってきた。


オヤジは高々と親指を上げる!


『オオーーーッ!!!』

会場のオヤジ達は、こころの雄叫びを絶叫する。

真実を見つけた者の喜びが、そこにはあった。




競売は、大急ぎで作成された目録に基づいて行われた。

最初は生薬から始める。


「まずは虫食いのあった品物から。これは男性にも効果があるといわれている!」

再び会場はざわめく。

「これは1000ターレルから。」


生薬は採取したものを選別・状態別に分けただけのものである。

入札者個人の方法によって、製薬化しなければいけない。


周辺に生えた『モノ』は、全て生薬の状態で売買された。



「続いて、愛神(ウェヌス)のキノコ!」

絶叫が巻き起こる!

オレは隣で見ているレーベンブロイ副支部長に、

「すごい人気ですね!」

副支部長は、始まってからずっと苦い顔をして見ている。

「コイツらのお目当てだからな!」

絶叫の中なので、こちらも大声になっている。


「愛神のキノコの成分というのは、

魔法式で変えると、男性にも効果があるらしい。」

それは知らなかった。

「そこまでして、何でしないといけないのか、さっぱりわからんw」

女性である副支部長は呆れている。



まずは生薬である。

キノコを切断したものが、次々と競売されてゆく。


これは『いかにも』という方々が落札してゆく。

「魔法師でしょうか?」

オレが尋ねると、レーベンブロイさんは

「王宮というか宮廷というか、『お薬』が必要な方々だろ。」

解ってはいるが、承服はしていない感じで答える。



「次、生成薬!」

再び絶叫が巻き起こる!

「あらかじめ言っておくぞ。これは『女性』にしか効かない!」

さらに絶叫がこだまする。


行った競売は金額は秘するが、すごい額になったとだけ言っておく。




宴が終った後。

「ヨシュア。よくやった。」

声が枯れて疲れた支部長から、お褒めの言葉を賜った。

「これはお前の取り分だ。」

渡された金の袋は、ずっしりと重かった。


帰る間際に支部長が、

「今日から愛神(ウェヌス)のキノコの採取を解禁した。

お前の報告で安全性は確認されたからな。

当初の報告では、

錯乱状態になる隊員が出たということで、危険で許可出来なかった。

今晩からゼーンラントの森は騒がしくなるぜ。

まあ解禁前から入ってたヤツらは、いっぱいいたけどな。」


ガサガサと森が騒がしかったのは、どうやら動物のせいだけじゃなかったらしい。




ホテルへ帰ると、リドルがアリゼを引っ張ってきた。

「ほらぁ。」

オレの部屋に押し込んで、帰っていった。


しばらく入り口でぐずぐずした後、アリゼはふくれっ面でベッドに座り、

「あれはクスリのせいだからね!」


オレは収納穴から今日の報酬を取り出す。

ザラッと出た金貨を見て、アリゼはびっくりする。

「なにその金額!」

「今回の報酬。」

オレは

「3つに分けて、1つはオレ。1つはアリゼ。1つはみんなに分けようと思う。」


アリゼはさらにビックリする。

「アンタが採ってきたんじゃない!」

オレは首を横に振る。

「元々は、みんなで探すつもりだったんだ。

それがマズそうだったから、一人で探しただけ。」


オレはアリゼの横に座る。

頭をナデナデしながら

「アリゼには悪いことしちゃった。

まさか女性に効く催淫剤が出てるなんて、知らなかったんだ。」


アリゼはうつむいて黙って撫でられていたが、

やがて真っ赤な顔をあげてヨシュアの手をはずす。

「別にアンタに撫でられて嬉しいわけじゃ、無いんだからね!」

立ち上がって、そのまま出ていってしまった。


《素直じゃないね》

ミナーヴァが妖精の姿で出て来た。

「いつもの通りだと思うけど?」

オレが言うと、首を横に振る。

《あの娘、ヨシュアのことが好きでたまらないんだよ。

でも、意地を張っている。

あまり依怙地(えこじ)だと、嫌われるのにねぇ》


オレは無言で笑って

「だってアリゼだもん。」


金貨を見てオレは考える。

「・・そうだ。今から分配しちゃおう。」

せっかく取り出した金貨である。

オレは今からみんなへ分けることにした。




話は再び迷宮探索に戻る。

迷宮の、第7層である。


「ねえヨシュア。少し聞きたいのだけれど。」

ノードが探索途中に、突然言った。

「ん? 何?」

「あなたの横にいる『それ』、なに?」


オレは傍らを飛んでいる妖精(フェー)をチラッ見て、

「この妖精は『ミナーヴァ』。愛と知識の妖精って言ってた。」

イズンが

「まったく。どこで知り合ったんですか?」

「ん? この前のキノコ採取のとき。キノコから出てきた。」

「んまぁ!」

「あら!」

二人とも、呆れている。


リドルがニヤニヤして

「ヨシュアって何かすると、何かあるよねぇ。」

言い返そうと思ったが、確かに何かすると何かある。

「まあ、ヨシュアだし。」

リドルはそう言って、探索に戻った。



「正体不明、複数の敵が接近!」

リンが警戒の声を上げる。

「全員警戒態勢。ノード、攻撃魔法準備。アリゼ、ケイシー、弓準備。」

オレは蒼龍を抜く。

「ターシャ、前へ出るぞ。」

「了解!」

ノードの魔法ともに、攻撃が始まった・・・



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