037 収穫
次の日である。
オレは狩猟ギルドを訪れている。
支部長は鼻の横を掻きながら苦笑、副支部長は気の毒そうな顔をしている。
オレの顔は左目には青アザが出来て、左頬は腫れている。
他にもボコボコに殴られて、あちこち痛い。
「あー、大丈夫か?」
支部長の質問に
「一応。」
ぶすっとして答える。
参考人としてアリゼにも来てほしかったのだが、彼女は来ない。
と言うより、部屋から出ない。
あれはキノコのせいだからと言っても聞きやしない。
無理やり連れてこうと思ったら、左頬をビンタされたw
「まあ状況は分かったと思う。採取は出来たか?」
「思ったより大型で、採取は出来ませんでした。」
「フム・・・」
支部長は、目で次を催促している。
「場所は控えてありますから、今から行ってみます。」
出発前に支部長から追加の指令書が渡される。
『なるべく新鮮に運ぶこと。形を崩さない・・・』
オレは支部長の顔を見る。
支部長は口に人差し指を当てて、とっとと行けと催促した。
前日行った場所に行くと、キノコは既に無く、
何やら得体の知れないモノがウジャウジャと生え、
「うわ、虫がいっぱいいるw」
よほど虫の好物に違いない。
オレは気力を使って、ゆっくり
真ん中から円を大きくするイメージでシールドを広げてゆく。
虫はシールドに押されて、ポロポロと外れてゆく。
「よし。」
虫を外した段階で、生えていたモノを採集する。
「うーん。チョットどうかなぁ。」
採集したモノは、かなり虫食い状態である。
これではダメだ。
オレはもう一晩、森を探索することにして、
夜になるまでテントを張って寝ることにした。
夜。
新月である。
うわ、足元見にくいなぁ。
オレはテントから出て気配をうかがう。
・・・異常なし。
テントをそのままにして、探索に向かう。
お化けキノコは、相変わらず見つからない。
見つからないなぁと思って探していると、
「手伝おっか。」
リドルである。
「頼む。」
探している最中に、
「お前は大丈夫かな?」
尋ねると、
「自動人形に、ガスは効かないよぉ。」
クスクス笑っている。
さらに探すこと1時間。
《催淫ガス検知》
ガスが分析スキルに引っかかる。
そこからガスの濃度をチェックしつつ探査して1時間。
「あった。」
暗闇の中に微かに燐光するキノコ。
再び分析を試みる。
《成分・・・チェック》
《状態・・・チェック》
《ガス・・・チェック》
まだ出来たばかりの個体で、ガスの放出が盛んである。
「一応だけど、リドルは近寄らないでね。」
オレが言うと
「了解。」
またクスクス笑っている。
オレがキノコに近付こうとすると、
《しばし待て》
女神ミナーヴァである。
オレは思わず
《これは珍しい。どうしたの?》
オレと一緒に旅をすると言ってから、始めはよく話をしたが、
ここしばらくは沈黙していたのである。
《このキノコは『愛神のキノコ』と言って中々有用なキノコでな。
良い時に現れた。お主の身体を貸せ》
女神はオレの身体を依代にして
『Ego accuracy fungos, Arawareyo ! 茸の精よ、現われよ!』
しばらく経つとモヤモヤと何かが立ち込めて、紫色に光る粒が表れる。
波打つ光の粒はキラキラと輝いて佇んでいる。
『Et Yodai ad corpus tuum, facere corpus meum.
汝の身体を依代にして、我が身体を構築する』
光の粒は再びモヤモヤと拡散して、次第に別の形を構築する。
オレの身体から、緑青色の光が現れた。
『Corpus tuum in nostram cedent possessionem.
汝の身体に、我は乗り移る』
緑青色の光は紫色の光に近づき、合体する。
現れたのは・・・
《初めまして。ミナーヴァです》
褐色の肌を持ち、黒いシルクのような波打つ髪を持つ、
オリエンタルな彫りの深い顔立ちの、印象に残る女性である。
豊かな双丘と張りのある臀部は、
青紫色をした、身体にフィットするドレスに包まれている。
ドレスは腰深くまでスリットが入り、
褐色の濡れたような質感を帯びた太腿を、余すこと無く露わにしている。
印象的なのは、瞳の色である。
ブラックライトに照らされたような青紫の光を帯びている。
同じような青紫色の光が、身体全体を包んでいる。
リドルがやって来て、
「お久しぶりです、祭事長様。」
見慣れぬ仕草で礼をする。
「ミナーヴァ、それって本来の君?」
オレが尋ねると、
《いいえ。神なので本来は形を持ちません。
これは私に最後に使えた祭事長の姿を映したもの》
それは肉感的な女性である。
祭事長がそうだったんだろう、言葉遣いも丁寧に変わっている。
「まったく。こんな女性だったら、さぞかしモテただろうなぁ。」
オレのセリフに、ミナーヴァはクスクス笑っている。
《アリゼが、あんなにも愛情を示したというのに、
何もしなかった貴方が、そんなことを言う?》
おそらく先日の事だろう。
オレは渋い顔をして、ため息をつきながら
「シラフの状態でやってくれたら、オレだって大喜びさ。
でもあれって薬のせいで、アリゼが望んだことじゃない。
好事に乗って愛情に付け込むなんて、オレにはできないよ。」
女神はまだクスクス笑いながら
《まあそういうことに、しておきましょうか》
手を挙げると、ミナーヴァの姿はあいまいになる。
スルスルと小さくなって、羽のある『妖精』の姿になった。
服装もドレスじゃなくて、ショートなキャミソールみたいな服に変わっている。
オレの肩に飛んできて乗って
《さてと。じゃ、ヨシュア。帰るわよ》
口調まで変わった。
「え!? まだキノコ採ってないよ!」
ミナーヴァはバカにするような顔をして、
《アンタ、何でキノコとってこいって言ったか、分ってるの?》
「え、そりゃ欲しいからだろ?」
《・・・》
小さな手で、頭を殴られた。
《あのキノコの威力みたでしょ? あれで女の子をたぶらかすつもりなの!》
・・・あー♪
今頃オレは気がついた。
回春剤は、それが効き目があるほど高い値がつく。
オレがアリゼで見た状態ならば、すんごい値段がつくだろう。
「あれ多分、すごい値がつくよ! 採りたいなぁ。」
ミナーヴァは《ヘッ》とバカにして、
《あれ見なさい》
見るとキノコは気の毒なくらい縮れて、ヘニャっとしている。
『あーっ!!』
《私が依代として使ったから、あのキノコはおしまい。精気は残っていないの》
オレはキノコのまわりを見回して、
次の植物が生えてこないか分析スキルで検査する。
・・・全然生えてくる気配も無い。
オレはガックリして肩を落とす。
せっかく二晩も探し続けたのに。
ミナーヴァはオレをジッと見て、フーッとため息をつく。
《仕方ないなぁ》
彼女は両手を上げて
《Fungorum et amoris Dei, crescere Veーni !
愛神のキノコ よ、生えてこーい!》
ヘニャっとしたキノコは溶けて消えて、ムクムクと新しいキノコが生えてくる。
《前のキノコほど効力は無いけど、それでも効き目あるからネ!》
半分怒っている。
「ありがとう!」
オレは成長するのを待って、採取を開始する。
まず気力でキノコ全体をシールド、
続いて持ってきたワックスを浸した布で作った袋をかぶせて、
油紙でできた袋をかぶせ、さらに布でできた袋をかぶせる。
『冷蔵』魔法をかけて、収納穴に保存する。
「よし。」
続いて周辺は・・・まだ生えてきてないな。
キノコを採取したので生えないかもしれないけど、待ってみよう。
テントに戻って少し仮眠する。
夜半過ぎ。
キノコが生えていた場所に行ってみる。
キノコが生えていた周辺は裸になって、土が出ている。
そこから、やはり『何か』がウニョウニョと生えてきている。
まだ虫は、少し寄ってきている程度だ。
「よし。」
オレは採取を始める。
ウニョウニョと生えてくる『何か』を採取する。
何種類かあるので、それぞれ採取する状態を変えて取る。
ずっと採り続けていたら、生えなくなった。
《おしまい》
ミナーヴァが言う。
オレは種類に分けて袋に分類して、キノコと同じ保存法で保存する。
テントに戻って、夜の明けるのを待つ。
夜が明けると、テントを撤収して街へ戻る。
ゼーンラントの森とシュウェリーンは少し離れているから、
歩いて着く頃には、狩猟ギルドは動き出しているはずである。
明日の投稿は休みます。




