表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣豪の息子、旅に出る  作者: 三久
第1章 剣豪の息子、冒険者となる
33/81

032 話の始まり



只今、第7層を探索中である。

ここは6層までの都市迷宮からいきなり変わって、鬱蒼とした森林である。

天井は、モヤがかかって見えない。


魔法の世界は、よくわからない。

昔、魔法使いたる大叔母に「魔法ってなに?」と聞いた事がある。

大叔母はニタッと笑って、

「それが分かったら、ヨシュア。アンタは立派な魔法使いさね。」

・・ごまかされた気がする。

そんなことを思いつつ、迷宮を探索している。


「ねえヨシュア。少し聞きたいのだけれど。」

ノードが探索途中に、突然言った。

「ん? 何?」

「あなたの横にいる『それ』、なに?」




話は少し前に、さかのぼる。

第6層まで探索を終了したオレは、地上に戻って休憩をとることにした。

数えてみると結構の月日、地上に戻っていない。



地上では、前回のホテル『グランドブリスタ』へ宿泊する。


地上は春になってきているが、迷宮内よりかなり寒い。

「寒っ!」

リンが震えている。

「もう春のはずなんだけど、寒いよぉ。」

「そんなこといいから、早く暖炉つけて!」

ケレヴリンがガタガタしながら言った。

「迷宮内ってここまで寒くならないから、寒いって感覚忘れてたw」


暖炉に火をつけて、少し人心地がつく頃、イズンが

「ヨシュア。便利屋ギルドの人が用事って来ています。」



ロビーへ行ってみると、なんとニクスである。

片手を上げて

「よう。シュヴァインフルトの副支部長からだ。」

一通の手紙を渡される。

表を見て、本人からであると確かめる。

日付は一週間前、封も開けられていない。

「じゃ、渡したからな。」

あっさりしたもので、手紙を渡すと帰ってしまった。


部屋に戻って読んでみると、ギルドへ送られた取得物の感謝と、

この手紙を持ってシュウェリーンの猟師ギルドへ行ってくれとある。

もう一通の封筒が中にあった。

帰還手続きも一段落したので、行ってみることにした。




シュウェリーンの猟師ギルドは街の外れ、森に隣接する地域にあった。

「いらっしゃい。」

入り口の受付に、シュヴァインフルトの副支部長からの手紙を見せると、

「少々お待ち下さい。」

じきに奥へと通される。


狩猟ギルドのボスは顔に傷のあるいかつい大男で、手紙を読み終えると

「んじゃヨシュア。急なんだが、済まんが引き受けてくれ。」

(いや)(おう)もなく、いきなりの要請である。


「何かありました?」

オレが尋ねると、

「セーフリム(野生オーク)の集団が出た。」

おお。

「街の近郊で、幸い発見が早かったこともあって被害者は出ていない。

放おっておくと危険なので駆除することになった。

まぁそれは言い訳で、肉を、な。」

パチッとウインクした。



『セーフリム』、別名野生オーク。

正式にはセーフリームニルと呼ぶ。

『イノシシの怪物』という意味だ。


野生オークは文明オークと異なる種族と言われている。

文明オークが豚に近い様相で人間の言葉を話し、

我々とも共存できるのに対して、野生オークはモンスターである。

その上、ゴブリンと同様に人間も食料とみなしている。

他の怪獣と同様に駆除対象に指定されており、その肉は売買の対象となる。


副支部長(アイツ)は、

お前さんは年に似合わぬ慧眼(けいがん)と実力の持ち主だと言ってる。

アレは、めったに褒めることはしない男だ。期待してるぜ。」

ニヤニヤしながら傍らにいた事務員に指示を出す。



階下に戻ると、別の事務員から指令書を渡される。

「読みながら待っててくれないか。」

オレは

「装備の準備と、パーティのメンバーにも知らせないといけません。

一度ホテルに戻っていいですか?」

事務員さんはニヤッと笑ってオレを指差し、

「今から馬車の手配をする。一緒に乗ってホテルに戻ろう。

その間に読んでてくれということだ。」


オレが指令書を一通り読み終わる頃に、事務員が戻ってきた。

ガッシリした鎧をまとい、兜を持っている。

「さて、行こう。」


馬車を見て、オレはビビる。

「これ、乗るんですか!?」



狩猟ギルドの手配した馬車は、ワイルドだった。

馬車を引くのは馬じゃなくて・・・オオカミ。

それもバカデカいヤツ4頭だ。

「ジェヴォーダンさ。」


正式にはジェヴォーダンの獣と言う。

別名『ハイブリッドウルフ』

ベアウルフというオオカミのモンスターと、イヌをかけ合わせた品種らしい。

馬車がまた(いか)つくて、まるで装甲車である。

「『狩猟』っていっても、ウチらはモンスター狩る方だから。」

そう、狩猟ギルドの主な仕事は、『モンスターハンター』なのである。




(いかめ)しい馬車でグランドブリスタに横付けすると、

「何事!?」という目で見られた。


部屋に戻ってメンバーに指示を出す。

「シュヴァインフルトの副支部長からの指示だ。

『シュウェリーンの猟師ギルドに協力して、討伐に参加せよ』

対象は野生オーク。

直ちに準備を整えて、ロビーへ集合せよ。」

ケレヴリンには

「ケイシーは、まだ便利屋ギルドに正式には参加してないから、待機でもいいよ。」

と言ったのだが、

「それって、仲間はずれじゃんw」

と怒られた。



少しの間があって全員集合。

馬車にいる事務員さんに紹介する。

「パーティのメンバーを紹介します。こちらは狩猟ギルドの・・・」

・・・あれ? 名前聞いてないやw


当の事務員さんはクスクス笑っている。

「ヨシュア君は案外ウッカリさんだね。

では改めて。

私は狩猟ギルドの副支部長をやっているハイネケンだ。

ちなみに支部長は、レーベンブロイと言う。」



馬車の中で、最終的な打ち合わせを行う。

「・・・という状況である。」

ちょうどハイネケンさんの状況説明が終ったとこである。


「今から行って、討伐開始に間に合いますか?」

オレの質問に

「朝からウチの連中が森に入って、連中がたむろしている場所を探している。

そろそろ良い頃合いだと思う。」

「承知しました。」




夕暮れになる頃、我々は討伐場所に到着する。

到着した場所は、篝火が取り囲む前線指揮書である。


「状況説明を頼む。」

ハイネケンさんが言うと、

指揮官であろう男性が地図を示しながら状況の説明をする。


「現在、野生オークの群れはここより北西1.5kmの地点で集結中。

頭数40頭。除々に増加している模様です。」

・・当初の説明と違う?


ハイネケンさんは少し考えて

「ハインリヒ獅子公には連絡したか?」

指揮官らしいおじさんが、

「2時間前に伝令を出しております。」

「よし。獅子公の軍勢到着まで、後3時間はかかるであろう。

我々猟師ギルドは、軍勢到着までシュウェリーンの盾として、

この戦線を維持しなければならない。

各人持ち場へ移動して、開始の合図を待て。」


外に出て、

「では、ヨシュア君。君たちには強襲部隊をお願いしたい。

ウチのメンバーを案内に付けるから、よろしく。」



指揮所で紹介された狩猟ギルドのメンバーと一緒に討伐地域へ向かう。


「最近って、野生オークの出現は多いのかい?」

オレの質問に、ロイと名乗ったメンバーは、

「いんや、全然見かけなかった。最近、急に増えた。」

そして、

「オレ、さっきまで斥候やってたんだ。

今回の野生オークの討伐は、背筋がザワザワする感じがする。

ヤバいぜ。」


オレ達は隠密索敵(ストーキング)の状態で、目標地点まで速やかに移動している。


小休止時に

「数が多いのかい?」

小声で言うオレに、ロイも小声で

「いんや、数は多くない。

ただハイ・オークがパラパラ混じっていて、少ーしばかり手応えがある。」


・・・それってマズくないか?

思わずロイの顔を見ると、彼はニヤリと笑う。

「そう。お察しの通り、チョイとマズい状況だ。」


ハイ・オークは上位オークで、指揮オークとも言う。

これは、野生オークがハイ・オークの率いる部隊に属していて、

後続部隊がやって来るということを意味している。


「他のメンバーは、それ知ってる?」

オレがささやくと、ロイは鼻をモゾモゾさせて鼻毛をブチッと抜くと、

「当然。」



現場に近づくと、血と野生オーク独特の臭いが鼻をつき始める。

ロイが弓を肩から外し、矢を2本持って弦に添えた。

各人はそれぞれ戦いの準備を始める。


オレ達はすでに小走りから歩行に変わっている。

オレも蒼龍の柄に手を添えて、静かに歩く。




目標地点は、すでに戦場であった。

森を抜けた先に開けた野原で、敵味方入り乱れて戦っている。


黙ってお互いに目配せをして、ロイとアリゼは小走りに草むらへ移動して消える。


オレは柄に手を当てたまま歩く速度をあげて、まっすぐ進む。


いきなり2頭の野生オークが飛び出す。

「イヤーーッ!!」

「ブフィーー!」

オレは視線も合わせずに居抜き、切り捨てる。


リドルとリンは負傷者を救出して、イズンは救護を行う。

ケレヴリンとターシャは救出の援護を始める。

ノードも攻撃から救護地点の援護に切り替えた。


オレは叫声と悲鳴の木魂す中、前へ進む。




「助けてくれ!」


狩猟チームが難儀しているのは、ハイ・オークの討伐であった。

オークの上位生体であるハイ・オークは強い。

今も1つの狩猟チームが潰れようとしている。


「もう矢が無い!」

「こちらも魔力減少、残り2発。」

「リーダーは!?」

「・・さっき殴られて、どこか飛んでった。」


前衛がやられ、後方もガタガタ。

「逃げようにも、こんな状況じゃあ、」

周囲は乱戦で、敵だらけである。

逃げるにしても、後方支援の3人だけでは逃げおおせる自信はなかった。



『ガンッ!』

「ピギャーッ!」

リーダーを殴り飛ばしたハイ・オークが悲鳴を上げた。

『ドンドン!』という太いものを斬る音がした後、ハイ・オークの腕と首が飛ぶ。


すぐに血だらけの冒険者が表れた。


「おっと。大丈夫ですか?」

見れば、まだ年若い。

返事をする前にダッと駆け出して、前に来た野生オーク2頭を斬り倒す。


「この後ろ、100mほどに救護所を設置しました。

攻撃力が薄いので、行って助けてくれませんか?」


そう言うと、担いでいた矢カゴを下ろして弓手に渡す。

「途中拾ったものです。よろしくお願いします。」

そう言って、剣士は前へ進んでいった。



ヨシュアは高揚している。

ひさびさに感じる心地である。


次々に表れる野生オーク、ハイ・オークを切り飛ばしている。


蒼龍はヨシュアからの気力(きりき)で蒼く輝き、

あれだけ斬り続けているのに、血糊1つ、刃こぼれ1つ付いていない。



四肢に力が充満し、戦う心が湧き上がる。

気がつくと歌を謡っていた。


「昔忘れぬ物語。

衰へはて心さへ。乱れけるぞや恥かしや。

此世はとても幾ほど 。

命のつらさ末近し。はや立ち帰り亡き跡を。

弔ひ給へ盲目の。くらき所の燈あしき道橋と頼むべし。」


祖父がヨシュアの()りをする時、謡っていた地唄である。


やはりオレは、先祖より荒御魂(あらみたま)を受け継いでしまっている。

剣を振るうことに、喜びを見出してしまっている。


難儀なことよと思いつつ、オークの血飛沫の中、ヨシュアは進む。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ