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剣豪の息子、旅に出る  作者: 三久
第1章 剣豪の息子、冒険者となる
31/81

030 再起動



第3層から地上に戻って5日目。


毎日イズンに治療魔法を頼んでいたせいか、

ケレヴリンが不自由なく歩けるようになった。

オレ達は再び第3層に戻る。




「・・・燃えちゃってる。」

リドルがポツンと言った。

ケレヴリンの家は周囲の生け垣がところどころ壊れ、家は燃えカスとなっていた。

可愛らしい門と、横にあったポストは無事なのが哀愁を誘う。



ケレヴリンは思っていたより冷静だった。

黙って燃えた家の中に入り、歩いている。


「・・ここでいつも母さんが仕事をしていた。

『ケイシー、外から味付け用のハーブ採ってきて。』

よく言われて採ってきたものさ。」

奥の倉庫には、備蓄品は残っていない。

「すっかり持って行かれちゃってる。せっかくワイルドボア、倒したのになぁ。」



下を向いていたケレヴリンが、突然、装備を確かめて歩き出す。


「どこ行くんだ。」

オレが尋ねると、

「泣き寝入りはしないタイプでね。」

恐らく村にでも仕返しに行くんだろう。


「お薦めはできないな。」

「アンタに聞いちゃいない。」

「証拠もないのに決めつける訳にはいかないし、

よしんば証拠があったとしても、『拾った』とか言い逃れをするだろう。」


「聞いちゃいないと言ってるけど?」

オレは無視して話す。

「恐らくだけど、村でもそれなりに準備を整えて待ってると思う。

オレなら役人を呼んでおく。

イチャモンをつけておいて逮捕、最後はうやむやにするだろうな。」


彼女は黙って歩いていった。




ケレヴリンが去ってしまうと、アリゼがキツい顔でオレを見る。

「ヨシュア、どうするんだい。アンタが彼女を連れてきたんだよ?」


オレはパーティ全員の顔を見る。

「はっきり言えば、ここに連れてきた時点で、やる事は終ったと思ってる。

後は彼女が判断することで、

オレ達は宿に行って、明日からはまたクエストをすればいい。」


(ほお)をポリポリと掻いて、

「・・で、みんなは宿に戻っててくれないか。オレは少し用事が出来た。」



アリゼはニタニタしている。

「アンタが用事あるなら、私も用事が出来たな。」

リドルは

「ボクは最初から用事がある。」

イズンは

「何かあったときは、治療魔法かけますから。」

ターシャ、リンとノードは黙って装備を確かめている。

オレは

「まあ、みんな用事があるってことだし。じゃ、行きますかね。」


そういうことになった。




姿の見えないケレヴリンの後を追ってゆくと、ほどなく柵に覆われた集落に到着する。


「門を開けろって言ってるんだよ!!」

ケレヴリンは、閉じられた門の前で吠えている。

門の上の物見台から、二人の男がニヤニヤして見下ろしていた。

「そんな剣幕で叫ばれたら、おいそれとは開けられないな。」



反対側にある物見台へ、男と女が登ってくる。


「あら、これはケレヴリン。おひさしぶり。」

女性が声を掛けると、ケレヴリンは

「ナタリー。アンタは黙ってな。」


途端にナタリーの雰囲気が変わる。

「ダークエルフふぜいが、偉そうに言うんじゃないよ!」

ニタッと笑って

「アンタの母さんがどうなったか忘れたのかい?」


ケレヴリンはキッと見返して

「あそこは領主から私達がもらったものだ。誰にも文句言われる筋合いはない!」


ナタリーは馬鹿にしたように

「まあ、アンタの母さんが働き者なのは確かさね。

領主様を寝取って、アンタを生んだくらいだからさ。」


怒髪天を()くとは、このことであろう。

ケレヴリンの身体から怒りが燃え上がる。

サッと弓を構えると

「もう一度言ってみな!」



横にいた男が、すばやくナタリーを隠す。

「待て、ケレヴリン。お主には不敬罪の容疑がかかっておる!」


見るからに嫌らしい、権力を笠に着た態度の男である。

「以前よりお主は、ご領主様に対して罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせておる。

不敬罪に当たるからよせと再三忠告したが、聞き入れる気配がない。

これ以上不敬を働くと、こちらも考えなければならなくなるぞ?」


ケレヴリンは男をチラッと見て、

「アンタはすっ込んでな。」


途端に男は怒り出す。

「執行官に対して、何という物言い!

今まで容赦しておったのを良いことに、まだ罪を重ねるか! 

者共、出会えい! この不届き者を逮捕せよ!」


門が開き、大勢の人間が躍り出る。

見知った顔が何人かいる。

みんな何かを期待する顔をしている。

恐らくケレヴリンを捕まえて、いいように(なぶ)る気なんだろう。



オレはケレヴリンの前に立ち、彼女の弓を降ろす。

「何するんだ!?」

怒るケレヴリンを無視して、執行官へ

「彼女の家が何者かに放火されて、倉庫にあった物資も盗まれました。」

「それが何か?」

ぞんざいに言う男に

「あなたが執行官というならば、捜査をお願いしたいのですが。」


執行官はオレを見て、

「お主は誰だ?」

オレは

「先日、彼女より護衛を申し使った冒険者でございます。」

男は、せせら笑って

「冒険者風情がしゃしゃり出おって。すっこんでおれ!」

「いえ、そうはいきません。

私は『護衛』を申し使ったのです。

護衛する対象に、何かあったら任務は達成出来ません。」


面倒な相手が出てきたと思ったのだろう、手を振って

「あい分かった。

しかしながら、今は不敬罪について問うておる。

その儀は後じゃ!」

「いえいえ。こちらは放火と窃盗に会っているのです。こちらが先決でしょう。」

執行官は怒る。

「それを決めるのは、私だ!」

オレは首を振り、

「ならば、私がしかるべき筋に申し立てて、正式に捜査を頼むと致しましょう。」


男はギョッとして

「しかるべき筋とは何じゃ!?」

オレはチラッと男を見て、さも自信有りげに

「あなたは知る必要の無いことだ。」


オレの態度に男の表情が変わる。

随分、身に覚えがあるのだろう。


男はオレの顔を見ながら、一生懸命、何か考えている。

「少し待て! よ・・よし。お主の言うことも、もっともである。

不敬罪は、私の一存で少し待とう。

放火と窃盗の件も、しかと承った。

私が直々に調査するので、お主は申立する必要はない!」


オレがさらに言おうとすると

「これにて不敬罪の調査は、一旦、置く。

ただし猶予されただけと言うことを心得よ!」

そう言うと見張り台から降りて、どこかへ行ってしまった。




オレはケレヴリンを連れて

迷宮第3層ハングタウンの宿、ジャッカス・ガルチへ戻った。


帰りの道もそうだったが、宿に入ってもケレヴリンは口をきかない。

ただ食事は、オレが命令したら素直に食べた。



夜。

みんなが一段落する時間である。

外ではまだ酔っ払いが気炎を上げている。


『コンコン』

ノックの音が聞こえる。

「ハイ。」

ドアを開けて入ってきたのはケレヴリンである。

「今、いいかい?」

オレはベッドを示す。



入ってきたケレヴリンは、立ったままでいきなり

「なぜ助けた?」


オレは明日から潜る予定の階層の地図を置いて、

「理由がないと、助けちゃダメかな?」

「はぁ!?」

ケレヴリンは眉を上げて、疑問をあらわにする。


「オレは君の仕事を請け負い、一緒に仕事をした。

怪我をしたから、治るまで面倒をみた。

家に帰ったら、家が無くなっていたから連れて帰った。

そうすることが正しいと思ったから、そうしただけさ。」


しばらく黙って見つめ合う。


オレの言葉に嘘は無いと思ったのか、彼女はベッドに座った。

少しして、

「思い出の家だったんだけどね。」

そう言って、ポツポツと話を始める。



ケレヴインの話は、オレの予想とあまり違わない。


遠くの国から連れてこられたエルフが、領主の愛人になって子供を生んだ。


産後の肥立ちが良くなくて、エルフは暇乞(いとまご)いを領主に頼む。

領主は承知して、エルフに住む家と畑を与える。

しかしながら領主の奥方を差し置いて子供を生んだ愛人、

それも異種族が領地に住むことを許すほど、領民の心は広くなかった。


微に入り細に入り、エルフの親子は意地をされる。


そのうち、母親が病気になった。

村人、領主に頼ったが、結局、母親は亡くなる。


子供は一人で生きてゆこうと頑張るが、村八分におかれて苦労していた。

まあ、そんなところだ。


話が始まって少し経つ頃、オレはリュックから酒を取り出した。

ダオシに売りつけられた、ドワーフ製の強い(スピリッツ)だ。

こんな話はシラフじゃ聞けれない。



オレはチビチビ、ケレヴリンは結構なピッチで飲んでいる。


「・・でね、そんなところに出てきたのがワイルドボアさ。

作物を荒らされると、食べるものが無くなっちまう。

困って冒険者ギルドに頼んだら、来たのがアンタというわけさ。」



オレはそろそろ、彼女を寝かしつけるタイミングを探っている。

伊達や酔狂で、呑助(のみすけ)女性(アリゼ)とコンビを組んじゃいない。

・・・この後が面倒くさいんだw


「ねえケレヴリン。そろそろ寝ないと、明日がタイヘンだよ。」

オレはなるべく優しく言う。

ケレヴリンはケラケラ笑って

「なーに言ってんの。まだ宵の口じゃない。」

腕をオレの首に回して、

「それと。私のこと、ケイシーって呼んでいいからぁ。」


あー、かなり酔いが回ってますね。

「ほら、ヨシュアも飲んでのんでぇ♪」

今まで(うつ)だったせいか、反動で(そう)になっちまってるw



「そういえば、アイツが偉そうなこと言ってるとき、

『しかるべきところに訴える』みたいなこと、言ってたじゃない。

あれって、アテがあったの?」

オレはすました顔をして

「あんなのハッタリに決まってるじゃないか。

まあ、シュウェリーンのギルドに訴えて、ゴネてやる手も考えてたけどね。」


ケイシーは呆れた顔をしてから、プッと吹く。

「呆れたもんだ。執行官に対して平然と嘘つくとはね。

アイツ、嫌なヤツでね。ナタリーとつるんで、しつこく邪魔してくるのさ。

『邪魔されたくなかったら、ワシの愛人になれ』とか言ってさ。」



あいかわらずオレの首に腕を巻き付けたまま、

「ねえ、ヨシュア。アンタも私を愛人にしたいクチ?」


間近で吐かれるケイシーの呼吸には、濃い酒精の臭いが漂う。

オレは巻き付いた腕をはがしながら、

「ケイシー。悪い酒だ。部屋へ戻って寝よう。」

彼女はますます引っ付いてきて、

「またまたテレちゃってぇ。」

そして気づいたように

「そういえば、私のことケイシーって呼んでくれたよね。」

さらに強く、ギューッとオレに抱きついた。



オレが、どうやって寝かしつけようかと考えていたところに、

「いつまで騒いでるんだい? 明日から仕事というのに!」

アリゼが怒って入ってくる。


入った途端、オレとケレヴリンがベタベタしているのを見た。

『!?』

「・・・###」

オレにもアリゼの怒りゲージがギューンと上がったのが見える。


「ケレヴリン、ちょっとアンタ。いい加減にしなよ!」

家が焼けてからこっち、どちらかというと彼女に同情的だったんだが、

その気持は、すっ飛んだらしい。


「あ、ヤキモチやいてんのぉ?」

ケレヴリンがまた、余計なことを言う。

「これ、アタシのだよっ♡」

ギューっとオレを抱きしめる。


「チョッ、ケイシー。よせってw」

二人の親しげな様子に、アリゼの顔が真っ赤になる。


オレのコップを引ったくると、酒瓶をつかんでガバッと入れる。

それを一気にあおる!

オレの横に座ると、ケイシーからオレをもぎ取った。

「コレはダメっ!」


ケレヴリンは唇をとがらして、

「えぇっ、なんでぇ?」

引き戻そうとするところに、アリゼは酒瓶を押し付ける。

「んっ。」

そう言ってケレヴリンのコップに酒をつぐ。


二人で本格的に酒盛りが始まった。

あの調子では、一瓶飲んでしまうだろう。




オレはリドルのいる部屋、

つまりはアリゼとケレヴリンが本来は寝る部屋へ移動する。


「すまん、リドル。こっちで寝かしてくれ。」


リドルはニタニタ笑い、

「モテる男は、ツラいねぇ。」

オレはリドルの(ひたい)を軽く小突いて、空いているベッドへ入った。


静かになった周辺に、隣の部屋で二人の飲んでる気配が漂う。

明日の探索、どうなるのかなと考えるオレであった。



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