026 休日・2
今日は休暇3日目。
夜明けまであと少しという早朝、靄のただよう人気のない湖畔で、
オレは一人、剣の素振りをしている。
上段・下段・中段。
1・2・3とコンビネーション。
鞘にしまって、スパッと居合い。
身体が暖まったところで、練習している二刀流に移る。
二刀流は、レイピアを使う連中なら結構普通である。
利き手にレイピア、もう一方にショートソードもしくはナイフを持つ。
左は防御がメインで、攻撃はサブだ。
オレの二刀流も基本は同じだが、左も防御より攻撃というのが違う。
二刀流で一番怖いのが誤爆で、自分で自分を斬らないようにしないといけない。
これが中々難しくて、木の棒で死ぬ程練習してからでないと怖くて使えない。
今日も右手に長い棒、左手に短い棒を持って練習である。
何回も自分の腕や身体を打って、もういいやと思う頃、おわりとする。
汗を拭き、服を着替えていると、気配がする。
さり気なく、棒を手元に寄せた。
「卒爾ながら、心月流とお見受けする。
お点前は、それをどこで習いましたか?」
オレは振り返って静かに相手を見る。
若い女性であった。
長い髪を後ろで結って、一つに束ねている。
ピッチリした革の服に、オレによく似た防具を身に着けている。
身につけているのは刀。
・・・2尺5寸くらいか。
「我流ですよ。」
さり気なく言う。
彼女は首を振り、
「我流ではない。貴方は、心月流の相当な手練だ。」
目に宿る光が怖い。
「まあ、朝練してただけですので失礼します。」
オレが去ろうとすると、
「イヤッ!」
スパッと刀を抜いて斬りかかる。
オレは気力を込めて、木の棒で流す。
『ザクッ!』
棒の半分くらいまで刃が刺さって木っ端が飛ぶ。
危ねえ!
内心、肝を冷やす。
棒を捨て、蒼龍を抜く。
「ホホゥ! これはこれは。」
喜悦の表情を浮かべて、女は青眼に構える。
コイツ、戦闘狂だ。
やってらんねえw
オレはすぐに剣を戻すと、さっさと逃げた。
朝食を済ますと、携帯食料屋『ダオシの店』へ行く。
携帯食料屋のオヤジの名前がダオシっていうのは、昨日知った。
「名乗んなかったっけ?」
鼻をほじりながら言われてしまったw
オヤジのオレに対するあだ名は『小僧(kid)』で決まったらしい。
「小僧。明日から3層から5層だって?」
オヤジはニヤニヤしながら聞いてくる。
「ちゃんと食料持てよ。」
さっきもらったよなw
携帯食料とはいえ、7人で予備入れて5日分だと結構多い。
梱包を済ませて、『収納穴』に入れる。
「おっと、小僧。いいもの貸してやる。」
ダオシは一冊の本をオレに渡す。
オレを指差し
「いいか。『貸してやる』んだからな。ちゃんと持って帰れよ。」
店から出てから、本の題名を見る。
『モンスター料理レシピ』
困ったら調理して食えってかw
その後、何箇所か回って、必要物資を集めてゆく。
梱包して収納すると、オレの『収納穴』は一杯になってしまった。
宿へ帰ると、食堂に全員が揃って待っていた。
「あ、来た来た。」
リドルが叫ぶ。
「準備できてるよー!」
あ、そうか。
忘れてたw
今晩は『3層から5層を探索しちゃうよ!』のパーティあったっけ。
・・ここの所、なんやかやとパーティ開くのが多いな。
「それでは明日から3層へ入ることを記念して、パーティを始めまーす。」
みんなは、やる気満々らしい。
「それでは、リーダーのヨシュアさんより一言。」
あー、コホン。
って、喋るのかいw
「明日からまた、戦いの日々に入る。全員油断しないように。
『人命第一』。忘れないようにね。」
しまらないだの、何あの演説だの言ってるが、無視。
オレはグラスを取り上げて
「では、皆様の健康と将来の成功を祝してカンパーイ!」
なにジジイの挨拶やってるのよぉとか言うのも無視。
後は放おっておいて、オレは勝手にメシを食う。
みんなも勝手に飲み食いしてる。
みんなもすっかりくつろいだ頃、
「ねえ、アンタも一杯飲みなさいよぉ。」
アリゼが酒臭い息をして寄ってくる。
「飲んでるよぉw」
オレはお前みたいに、丈夫な内臓してないの。
「もぉ。つまんないぞぉ!」
これで翌朝、シャキッとしてるから信じられん。
何、カラんでくるんだよぉ。メンドくさいなぁなんて思っていたら、
腕を回して、グイッと顔を寄せて
「アンタ。おとといノードとリンと、お楽しみだったようだね。」
耳元でボソッと言った。
オレは全身が総毛立つ!
「あとでゆっくり聞かせてもらうよ。」
そう言って離れていった。
オレがプルプルしているとリドルがやって来て、
「リン姐さんから話聞いて・・って、あれ? 何プルプルしてるの?」
パーティの後は再び部屋で、もう一度地図でコースの検討を行う。
前日、事前にコースは全員で検討して決めてある。
ただ、細かいコースやエスケープルートの検討は、オレがしないといけない。
『コンコン』
「はい」
ドアが開いてアリゼが入ってくる。
オレがルートの検討をしているを見て、
「まだ何かあるのかい?」
オレは考える顔になって、
「もし連中が襲ってくるとしたら、どこで来るかなと思ってね。」
アリゼとは、既に何回もルートの検討は済ませている。
「私なら、『ここ』だね。」
オレも、そこは注意地点に入れている。
「まあ、迷宮に入ったら常時警戒するから、不意打ちはないと思うけど。」
・・いかん。どこも怪しく見えてきた。
フーッと息を吐きだして、
「そろそろ集中力も限界らしい。明日に備えて休もうか。」
ゴキゴキと背骨を伸ばしていると、アリゼはニッコリ笑って
「で、さっきの話だけど、どうなっているか話して欲しいもんだよねぇ。」
「え?」
「忘れたとは言わさないよ。」
目が笑っていない彼女の顔は、とても怖かった。
翌朝、夜明けまでまだしばらく間がある時刻。
オレ達は迷宮都市へ出発する。
初日なので、担ぐ荷物でリュックはパンパンに膨れている。
途中、トールの店を通り過ぎる。
トールが店の前でタバックを燻らしていた。
オレは軽く一礼して通り過ぎる。
トールは片手を軽く上げて、挨拶にかえる。
迷宮都市入り口の正門で、気になる視線を感じる。
横目でうかがうと、例の戦闘狂がオレをジッと見ていた。
受付で入場許可と手数料を払い、他の冒険者と一緒に入り口より入る。
第1層の分岐より、第3層へ直接下る。
これでもかというくらい長い階段を降ると、
第3層の町、ハングタウン前の広場へと着く。
門から入場するとしばらく町の中を進む。
ああ、あった。
「今日はここで一泊。3層以下の情報を入手して後日に備えます。」
オレは先日、スペンサーが泊まると言っていた宿の戸を開けた。




