025 休日
翌日の午後。
オレはリドルと、通りを歩いている。
午前中に整備と掃除は済ませた・・・洗濯も。
通りには大勢の人が出ている。
オレ達もみんなに従ってゆっくりと歩く。
あちこちの露店を冷やかして品物を見て、食べ物を買って楽しむ。
オレもリドルも鎧なんて着ちゃいない。
一応の護身にリドルはナイフ、オレは白虎を差して歩いている。
「良い天気だね。」
「まあまあかな。」
オレはニッと笑って、
「今日から3日間、休みだ。」
リドルはピョンと飛んでオレの肩に乗る。
オレの帽子を自分の頭に乗せると、頭をギュッと抱きしめて肩車する。
「あー、やっとまわりが見えた。」
リドルは機械人形だが、重さは身長なりの重さである。
「不思議なものだな。」
「何が?」
「お前が機械仕掛けってことさ。」
彼女はオレの口を塞ぐ。
「それはナイショ。」
耳元で囁いた。
「調子はどうだ?」
「いいよ。」
「おかしかったら言えよ。修理してやる。」
「ありがと。」
トールの店のベルを鳴らすと中に入る。
「いらっしゃい。」
奥の席にトールがいる。
「今日は・・ああ、次の階層の地図かな?」
オレは軽く一礼して
「6層から8層の地図を。それと質問がありまして。」
トールは手振りで着席するように促す。
お茶を出して
「さて、と。」
オレは
「第1層から第2層まで探索しました。
まず第1層ですが、あの『空』はなんですか?」
トールはフッフッと軽く笑って。
「あれこそ迷宮、第1の謎さ。
外とはまったく違った天候が支配している。
実はあれが本当の空か確かめたヤツがいてね。
結果は、意外と近い所に天井があって、そこに投影された空だっていうことが分かった。
それでも驚くのは、陽の光は暖かくて、風が吹いて雲が動くことさ。」
「投影ということは、どこからか映し出されていると?」
トールはうなづく。
「どこから、どうやって投影しているかはナゾだがね。」
そうやって色々な疑問を質問してゆく。
リドルはお店の中を探検するのに飽きて、オレの膝で眠ってしまった。
午後の光が空を少し茜に染める頃、
「長い間お邪魔して、申し訳ありません。」
一礼してオレは立ち上がる。
「いやいや。中々興味深い話を聞けたよ。」
トールも立ち上がって、
「君は面白い・・いや、年に似合わぬ慧眼の持ち主だと思われる。」
・・?
フッフッと笑って、
「いや、独り言。これからも質問があったら、ドンドン来てくれるといい。
私も出来る限り、質問に答えよう。」
すっかり寝てしまっているリドルをおぶって、宿へ帰る。
背中のぬくもりが心地よい。
途中でイズンと歩くターシャに出会う。
「あら、子守り?」
「地図屋に行ったら、途中で寝ちゃって。」
背中のリドルを見て、イズンが笑う。
「『寝る子は育つ』って言うしね。」
・・リドルが機械人形だって解ったら、どんな顔するかな。
二人と一緒にゆっくりと歩く。
「『例の件』、どうします?」
ターシャが真面目な顔で尋ねる。
恐らく襲撃の件だろう。
「アリゼと相談して、様子見ということで決まった。
もし6人が襲撃されて殺されたとしても、証拠がない。」
「我々も襲われるかもしれませんよ?」
オレはニヤッとして
「もし襲撃されたとしたら、攻撃するさ。
オレ達に必要なことは『注意と警戒』。
モンスターに襲われない用心をすると思っておけばいい。」
宿へ帰って一段落すると、オレはニタッとする。
・・・お風呂行こ♪
シュウェリーンで『風呂屋』というと、ロウズが多い。
迷宮都市があって風光明媚で交通の要所とくれば、
歓楽街が発達しているのも当然だろう。
実際ここは、その手の設備には事欠かない。
苦労して探索して、稼いだ金を気持ちよく消化させてしまうわけだ。
最初、宿で「風呂屋どこ?」と聞いたら、勧められたのはロウズだった。
ニタニタ顔してたから、すぐ分かった。
ハマムの方と言ったら怪訝な顔されたっけ。
街の住民が多く歩いている裏通りを、一人でポテポテ歩く。
途中、小腹を膨らませるために食堂へ寄って、地元のチャウダーを食べる。
ここのは湖の魚が入って、少し独特な味わいである。
言われた場所に風呂屋はあった。
「らっしゃい。」
50ターレル払って入場する。
浴室へ入る前に、ゆっくりとアカスリで身体の汚れをとる。
丹念に洗うと、
「よし。」
蒸気の満ちている浴室へ入る。
オレが風呂屋を好きなのは、きれいにしたいというばかりではない。
街の人が多く集まっていて、色々な情報を聞けるからだ。
・・ウラの情報を知りたいなら、ロウズがいいけどね。
しっかり温まって、風呂屋を後にする。
宿に帰ると、地図とニラメッコで第3層から5層の装備を考える。
3層から5層は、『ハングタウン』を抜けると本格的に迷宮へと入る。
迷宮は建物内を探索する方法で、建物の中と外を探索し、
2層より歯ごたえのあるモンスターが出てくる。
うーん。弓は欲しいけど、短弓かなぁ。
魔法攻撃もいいけど、種類を選ばないとこっちが死ぬしなぁ。
ああでもないこうでもないと考える。
『コンコン』
「はい?」
「ノードだけど。」
「どうぞ。」
部屋に入った彼女は、あちこちキョロキョロと見回す。
「殺風景な部屋ね。」
フッとオレは笑って
「寝られれば充分。」
机の上に地図が広げられているのを見て、
「次の層?」
「そう。今、どう攻略しようかと考えてました。」
「どれどれ。」
オレは座り心地が良いのでベッドを勧め、自分は固い木の椅子に座る。
ノードは3層から5層の地図を見て、同じようにウームと悩む。
「これは結構面倒くさいよね。
弓を短弓にすると距離が足りないし、
でも、建物内に入ると短弓じゃないと取り回しに困るし。
じゃ魔法使うかと言えば、類焼すると怖いから炎系は使えないし、
電撃だと、湿気てた場合は、こっちが感電するし。」
少し遠い中距離と短距離の混合で出来ている層は、作戦が悩ましい。
二人で、ああでもないこうでもないと考える。
彼女のお腹が、ク~ッと鳴った。
「あらw」
オレは
「これは失礼。夕飯忘れてた。一緒にどう?」
他の連中も誘おうと思ったけど、行ったら部屋にいなかった。
ここは街に食堂がいっぱいあるので外で食べる人も大勢いるけど、
オレ達は面倒なので、宿にある食堂で夕食を取る。
オレはノードがイケるクチなのを知っているから、少し上等なワインを頼む。
いっしょに夕食を取っていると、
「貴方って、戦士なのに大人しいよね。」
「そうかな。」
彼女はうなづいて
「私が昔、ギルドで初めてパーティ組んだ時、ビックリしたもん。
荒っぽいっていうか雑っていうか、戦士のリーダーに作戦聞いたら
『後衛は、俺の言う通りにヤってればいいんだよ!』
なんて怒鳴られてさ。
攻撃すれば
『合図してないだろ!』
攻撃控えてれば
『何で攻撃しないんだ!』
もう、どうすればいいのか解かんなくて、
途方に暮れるやら怒れるやら、冒険者なんてヤメようって思ったもん。」
オレは声に出さないで笑う。
「魔法使い、特に女性の魔法使いは、
そこらへんの間っていうか距離を見るのがウマいから、
前衛のソイツは、いつもの調子が出なくてイラついたんじゃないかな。」
「でも、私、初めてって言ったんだよ?」
ノードは今でも怒っているらしい。
ワインを飲んでオレを見て、
「そういうのがしばらく続いて、
もうホントにヤメようかなと思ってたら、貴方に当たった。」
グイとワインを飲んで、
「貴方は会った最初から、撃つ距離とかタイミングとか先に知らせてくれた。
私の経験を考えて、行動する指示を出していた。
同じ戦士でも、こんなに違うんだと思ってしまいましたよ。」
またグイと飲む。
「今だってそうだよ。迷宮の地図を見ながら作戦考えてるでしょ。
私が一緒に考えても、『邪魔だ!』とか言って追い出したりしないし。」
人の意見を聞かないで作戦を立てれば、反感を買うからな。
再び手酌でガバッとワインをグラスに入れて、グイと飲む。
「作戦もあらかじめ教えてもらってあるから、やり易いし。
前衛の人って、突っ込みすぎるでしょ?
それをしないで突っ込むとすぐに引いて、魔法攻撃出来るようにしてくれる。
それも呪文のタイミングと魔力の残量、はかってるって分かるんだよねぇ。」
『戦いは手を抜いて効率的に』がオレの流儀だよ。
彼女はすでに、ろれつが回らなくなってきている。
「貴方が戦っている姿見てると、すごいなーって思うし。
どんな敵が来ても必ず倒すし、戦う姿がキレイなんだよ。
落ち着いてるっていうか、無理してないっていうか。
もう、このパーティっきゃない! って思ったもん。」
・・・ノード。
君は随分、ツラいパーティが続いたんだなw
気がつくと、彼女は一人で相当飲んでいた。
ヤバいと思ったオレは、
「お勘定して!」
ワインのボトルを離さないノードを連れて、ヨタる彼女を部屋へ連れ帰った。
部屋で「まだ飲む」とグズる彼女を寝かしつけると、再び地図を見ながら考える。
各層へ下るルートは複数ある。
どのルートでつなぐと安全に探索が続けられるか考えていると、
『コンコン』
「はい。」
「ノードいる?」
ああ。リンか。
中に入れると、ベッドで寝ているノードを見て
「あぁ。 」
ため息を着く。
「どんだけ飲んだの?」
オレはアゴでしゃくって、ベッド横、サイドテーブルのワインボトルを見せる。
「あぁw」
「言ってくれれば、適当なところで部屋へ持ってくよ。」
リンは机の上の地図を見て、
「次の層?」
「ああ。」
「見ていい?」
「どうぞ。」
リンは地図を見回して、
「全部回る気?」
「いいや。
ハングタウンからどのルートで抜けるのがウマいか、考えてた。」
彼女はオレの傍らに来て、地図のルートを幾つか指でなぞって確かめる。
「このルート、どう?」
彼女が示したルートは、宝箱は多いが開ける手間が増える、
ある意味、盗賊には難度の高いルートである。
「君が疲れるよ?」
オレが言うと、リンはフフッと笑って
「宝物探して入るんだから、疲れて当たり前でしょ。
リドルもいるし、分担してやればいいと思う。」
うーんと言って検討しているオレを見て
「やっぱり不思議だな、ヨシュアって。
パーティメンバーを、こき使うって考えないの?」
オレはニッと笑って
「必要ならばそうするさ。でも今は『確実に、1つずつ』だろ?」
リンはオレの後ろに回って、キュッとオレを抱きしめる。
「やっぱり、いいなぁ。」
オレは、リンの予想外に豊かな胸の感触に
「リンって、ホントは幾つなの?」
「ホントのって?」
「とても同じ歳だとは思えない。」
彼女は言ってる意味が分かったんだろう、耳元で
「いーやらしいんだ♡」
オレの頬にチュッ♡とキスをして離れた。
戸口で
「今開けるから、ノード連れてきて。」
オレはノードをおぶって連れて行ったのだった。




