024 3層の街に到着と疑惑
「ここ、どうなってるんだ?」
天井に何か照明があって、辺りを照らしている。
陽の光ほどではないが、それでも明るい。
オレ達が見とれていると、
「ホイ邪魔だよ。どちらかに避けとくれ。」
後ろから来たパーティが言う。
「すいません。」
道を譲ったオレ達も、少しして歩き出す。
先行したパーティに追いついて、
「オレ達、初めて第3層に来たんです。この明かりって、なんですか?」
リーダーらしき男がニコッと笑って、
「それはようこそ。ここは迷宮都市。不思議な物があるぞ。」
そう言って上をアゴで指す。
「あれの詳しいことは俺も知らん。
古代の魔法で動いている明かりとしか聞いていない。」
オレを見て、
「ここで泊まりか?」
「今日はこのまま帰還しようと思っています。」
そう言うと、男は頷いて、親切に帰還場所を教えてくれる。
それからしばらく一緒に歩く。
3層以下の場所でのちょっとした注意とか、色々教えてもらう。
「じゃ、俺達は、ここで泊まりだから。」
そう言って、一軒の宿屋へ入ろうとする。
「オレ、ヨシュアと言います。こっちは同じパーティ仲間。
また会ったらよろしくお願いします。」
男は改めてオレを見て
「オレはスペンサー。ここんとこ迷宮都市で冒険者をしている。
こっちは仲間だ。
こっちこそ、よろしく頼む。」
そういって握手して別れた。
言われた場所へ移動すると、そこには木の柵に囲まれた広場がある。
ヒマそうに座った爺さんがいて、噛みタバックをモグモグしている。
オレを見るとタバックをベッと吐いて、面倒臭そうに
「帰るなら、この柵の中から帰れよ。」
中に入って、イズンの魔法で帰還した。
外界に戻ると、陽の光から午前中と分かる。
「迷宮中と、時刻が全然違うよねぇ。」
リドルがビックリしている。
まずは迷宮事務所で帰還の報告をする。
併せて、6名の冒険者が遭難・死亡していたことを報告して、
倒れていた冒険者の認識票を提出する。
「状況報告書を提出してください」と言われたので、
メンバーには先に、便利屋ギルドへ行って報告してもらうことにする。
空いている席で状況報告書を書く。
メモを参照しながら、ほぼ書き込んだところで、傍らに人が来たのに気がつく。
「ちょっと、いいか。」
見ると、若い男である。
「なにか?」
オレが言うと、
「その・・なんだ、あんた、全滅した6人パーティ見つけたんだろ?」
うなづくと、
「どんな状況だった?」
オレ達が見つけた時には既に全滅していたことを告げると、
「中に2人、女がいただろ?」
うなづくと、
「一人は黒髪の縮れっ毛で、もう一人は赤っぽい髪のヤツ。」
オレはジッと男を見る。
「あのパーティの知り合い?」
男は気ぜわしげに両手を握りしめている。
「ああ、やっぱり離れちゃいけなかったんだ。」
どうも訳ありらしい。
この報告書を提出したら、オレは帰ることができる。
しかしながら、男を放おっておいて帰るには、少し引っかかるものを感ずる。
「今から事務所へ報告書を提出します。その後なら、話はできるけど。」
男はしばし迷い、うなづいて、一緒に来ることにしたようだ。
手を差し出し
「レニーだ。」
「ヨシュアです。」
握手して、席から離れる。
迷宮前の門から二人で出る。
ちょうど店の前にトールが立っていた。
「トール。」
呼んで、レニーを指差し、「明日の午後」と言って通り過ぎる。
レニーは便利屋グループ所属ではないようで、
ギルドに入ると珍しそうに、あちこち見ている。
「遅っそぉーい!」
リドルがふくれっ面で文句を言う。
「ゴメンゴメンw」
オレは謝りつつ、みんなにレニーを紹介する。
「レニーだ。今回発見した例のパーティの関係者らしい。
これ終わったら、少し話をするから。」
自分の『収納穴』からアイテムを取り出し、ギルドに後を頼むと、
アリゼに後を頼み、レニーと外に出る。
適当に近くの酒場に入る。
いつもの酒場とは違い雑多な感じで、居心地が良いわけじゃない。
まわりは、いかにもといった連中が、昼から酔っ払ってオダを上げている。
とりあえずエールを2つ、注文する。
「で、どうなってるんですか?」
オレはレニーに尋ねた。
レニーが話した内容を要約すると、タチの悪いパーティに絡まれていて、
パーティの女性2人を差し出せと言われたらしい。
断ると、何のかんのと嫌がらせをしてきて、一度本格的な戦闘になった。
それでも撃退はしたが、いつ仕返しに来るか予想もつかない状態だったらしい。
「で、オレはパーティをヤメた。
アイツら、いつ襲ってくるか、わかりゃしない。
みんなはそんなことないと言ってたが、気配がな、怪しかったんだ。」
ふーむ。
少し考える。
「ひょっとしたら10人くらいのパーティで、ガラの悪い人達?」
オレの質問に
「そうだ。そいつらだよ。」
・・少し面倒な事態になってきたかも。
一方、こちらはアリゼと残りのメンバーである。
『迷宮都市初帰還おめでとう!』パーティは、盛り上がっていなかった。
「なーんで行っちゃうかなぁw」
「あそこは『明日ね』とか言って、こっち優先じゃない?」
「せっかく『ありがとう』って言おうと思ったのにw」
「お腹減ったよぉw 」
「・・・#」
各人が何事かをブツブツ言いながら、飲み物をチビチビやっている。
オレが
「遅くなって悪い!」
と言いながら入ると、みんなから一斉に文句を言われたw
早速レニーから聞いた状況を説明する。
アリゼが
「ふーん。そうするとあの6人、故意の事故もしくは殺人の可能性ありってこと?」
オレは頷いて、
「今回、オレ達がモメてるから注意が必要だな。」
ノードは難しそうな顔をして、
「そのレニーの話っていうのは、どれくらい信用できるかよね。
ダンジョン潜ってる最中に襲うかなぁ?」
ノードは信じていないが、
ダンジョン攻略中に敵対グループに襲われるというのは、それほど珍しい話じゃない。
相手が別の対象に集中しているので、狙いやすい。
一番やられるのは暴走で、
モンスターを相手の方角に誘導して、自分は逃げてしまう。
これだと証拠は残らないし、何かあっても『事故』で済ませられる。
その後、色々な意見が出て、みんなで対策を考える。
結局その日のパーティは、今ひとつ盛り上がらないまま終わった。
今日は立て込んでいたので、結局、風呂には行けなかった。
代わりに宿に頼んでお湯を分けてもらい、オレは部屋で身体をキレイにする。
オレ1人なので、3人部屋のアリゼ達より安い部屋を選んでいる。
安普請の部屋で隙間風のある肌寒い環境の元、身体を拭いている。
少し擦ると汚れが出る。
迷宮に入って以来、まともに風呂に入っていない。
ああ、風呂に行きたかったなぁ。
髪を除いて身体を洗って、パンツを脱いで股間を洗う。
ズルッと下ろして、オレが『それ』を洗っているところで、
『コンコン』カチャ。
「ねぇ、さっきの件なんだけどさぁ。」
ノックの音と同時にアリゼが入室してくる。
「・・・」
アリゼはオレの姿をジッと見て固まる。
「・・・おい。何回注意すればわかるんだよぉぉぉ#」
オレが非常に恥ずかしい姿勢でいる時に限って、コイツは入ってくるんだw
黙って『バタン!』と戸を閉めると、アリゼは出ていった。
「レニーとか言う人の話、どう思った?」
「一応、信用はしているかな。」
オレは、戻ってきたアリゼと相談している。
悪いと思ったのか、彼女はお茶を持参してきてオレにも渡した。
「で、どうするつもり?」
オレは装備の整備をしながら聞いている。
「様子見だな。」
「それだけ!?」
「こっちから攻撃は出来ないよね。」
「脅すのは?」
「証拠がない。」
アリゼはボスッとベッドに倒れ込む。
「やられ待ちっていうのは、イヤなんだけどなぁ。」
オレはため息をついて、
「大体あの6名の死亡が故意か戦闘の結果か判らないところに、
やみくもに犯人考えても意味ないだろ。」
アリゼはガバッと起きて、
「レニーの言葉、そこまでは信用してないんだ。」
「『敵がいるから注意しろ』程度にしか聞いてない。」
・・よし。刀の手入れ完了。
鞘にしまうと、お茶に手を伸ばす。
カップを取ろうとして手が当たり、倒しそうになった。
「おっと。」
倒れる前に、アリゼが止めてくれる。
「ありがとう。」
引っ込めようとした彼女の手を、オレが掴む。
「な、なに?」
あー、やっぱり。
「手がカサカサだ。」
アリゼはヘッと笑って
「こんなの、放っとけば治る。」
オレは首を振って、自分のウエストバックを探る。
小さな錫の容器を取り出して、中の軟膏をアリゼの手に塗る。
オレが作った、びわの葉で作った保湿剤である。
アリゼは黙って塗られるままにしている。
「・・ねえ。」
「ん?」
「・・弓と装備、ありがと。」
オレはフッと笑う。
「調子はどう?」
「いいよ。」
「それは重畳。」
手を塗り終わって顔を上げると、
鼻の頭まで真っ赤になった、そばかすだらけの顔があった。
「ん。」
オレはアゴをしゃくる。
「? なに?」
「もう一方の手。」
オレは手を伸ばす。
もう一方の手も塗ろうと思って手を伸ばしたんだが、
アリゼは自分で塗ると言って、軟膏を引っ掴んで部屋へ帰ってしまった。
休みに入って、チョイと息抜いてます。
今のうちに、書き溜めないと・・・
評価、感想、よろしくお願いしますm(__)m




