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剣豪の息子、旅に出る  作者: 三久
第1章 剣豪の息子、冒険者となる
21/81

020  地図屋



翌日からは、ラビリンスに潜るための訓練と整備に入る。

通常のクエストの、ゴブリンの巣に入る想定で訓練を行う。


便利屋グループでは『想定訓練』は、基礎学習の1つとなっている。

『当意即妙にして、臨機応変な対応』ができればベストだが、

練習しないで出来るわけない。

「盗賊斥候、前方注意。次発以下、側方注意。後発は後方注意。」

攻撃が1回終了すると同時に全周警戒を行う。


半日もやると、移動で動かず、なまっていた身体が暖まる。



午後は自由時間である。

「今日は付き合ってよね。」

アリゼに言われて買い物に付き合う。

「ワタシも行く」と、リドルが付いてくる。


リドルを肩に乗せて歩く。

アリゼは機嫌良さげに品物を見て回っている。


アリゼはプレゼントをして以来、大人しい。

ポンポン言ってくるヤツが、妙に静かである。

まあどうせ、ラビリンスに潜りだしたら元に戻るだろうが・・気味が悪いw



「そう言えばヨシュア。明日からラビリンスに入るでいいの?」

アリゼの質問にオレはうなづき、

「まず入ってみないことには、何をどう用意すればいいのか分からない。」

彼女はオレをジト目でみて、

「アンタ、忘れ物あるでしょ。」

「・・・あ、地図買ってないw」

まったく、と呆れられた。

迷宮通りに行く。



迷宮通りは、シュウェリーンでも広い道路の1つだ。

両側に店が立ち並び、ごった返している。

「オニイさん、良い武器が安いよ!」

「携帯食料ならウチ! 長期保存できるものばかりだ!」

呼び子の声を聞きながら、迷宮入り口へと至る。


迷宮入り口には頑丈な(ゲート)があって、常にゲートは閉まっている。

入り口で通行許可証を見せ、銅貨を投げる。

門番はニタッとして、門を開けてくれた。

「今から入るのか?」

怪訝な顔をされる。

「いや、下見。」

ははんという顔をされて、横にある小さな門から中に入る。


門からは一本道が、ゆるいカーブを描いて伸びている。

「広いねー。」

リドルが感心する。

オレも門のすぐ近くに迷宮の入口があると思っていた。

「朝晩は、ごった返すからな。」

門番が説明してくれる。

「このカーブを曲がった先に、入り口がある。

カーブの内側、林の中に広場があって、そこにマーカーを挿すんだ。」

ありがとうと言って、入り口へ向かう。



入り口は、岩で出来た崖にあった。

「洞窟?」

「らしいな。」

そこにも立派な防護壁があって、門があり、閉まっている。

「厳重だな。」

門を横目で見て、広場へと向かう。



広場には同じく高い防御壁があり、しっかりした門がある。

門番に銅貨を渡し、中にはいる。


広場は思った以上に広く、幾つかの大きさで区画整理されている。

周辺には通路が走り、区画された土地の中央にマーカーが立っている。

「ここも立派だねぇ。」

リドルが感心したように言う。

門番が

「帰還する時、モンスターを連れ帰る場合がある。

外に逃げ出さないようにしてあるのさ。」

謎解きをしてくれる。

「あ、そうか。じゃ、迷宮入り口と街境の門も同じことだね。」

リドルが言うと、門番は頷いた。




突然、広場に悲鳴がこだまする。

振り返ると6人パーティが帰還して、うち1人にデーモンが食いついている。

「ギヤーーッ!!」

食いちぎられた肩から鮮血がほとばしる。

門番は慌てて門を閉めた。


「オイ! オレ達がまだだぞ!」

オレの声を無視して3つの扉を閉めるとガチャンと鍵をかけ、警報を鳴らす。

オレはリドルを降ろすと、

「私、武器持ってない!」

と騒ぐアリゼに白虎を投げて、自分は蒼龍を抜く。


デーモンは獲物の肩を食いちぎるとあたりを見回す。


残りの5人は、大急ぎで逃げ出している。


近くのマーカーが光り、別のパーティが帰還してきた。

実体化すると、ポカンとデーモンを見ている。



「リドル、オトリになれ! アリゼ、バックアップ!」

オレはデーモンに突っ走る。

リドルはいち早く動き、デーモンにナイフを飛ばす。


ナイフが刺さると、デーモンは燃えるような眼でこちらをみた。

震えるような咆哮を上げると、オレ達に突っ込んでくる。


通称デーモンは迷宮第9層にいるモンスターである。

大きさ・種類にもよるが、通常中級、レベル23前後の冒険者が2人で倒す。


オレは蒼龍に気力(きりき)を込めると

「フンッ!」

一振りする。

蒼い半月の光がデーモンへ飛び、デーモンの左腕が斬り飛んだ。

どす黒い血をほとばしらせて、デーモンは再び咆哮する。 


オレは自分の左腕に気力を込め、デーモンに手を伸ばす。

蒼い縄のようなものがデーモンへと伸び、デーモンを拘束する。


オレはゆっくりデーモンへ近づき、剣を上段へと上げる。

「フンッ!!」

切り下げると、ソイツは2つに割れて倒れた。

残心して辺りを見る。

よし。残敵無し。



パーティの仲間が急いで戻ってきて、肩を喰われた仲間の介抱をしている。

仲間が「感謝する」と言ってオレの肩を叩いた。


帰還直後に襲われそうになったパーティのリーダーらしき奴がやってきて

「感謝する。実体化直後は動けんからな。」


オレと剣を見て

武士(もののふ)か?」

オレは苦笑しながら

「冒険者さ。」

そいつは笑って

気力(きりき)使いは久しぶりに見た。その歳で見事なもんだ。」

オレは素直に「ありがとう」と言って、その場を立ち去る。




とんだアクシデントが発生してヤレヤレだが、

門を出て『地図のトール』へ向かう。


「4・5。ここだよ。」

リドルが指で示す。


『地図のトール』はボロい・・失礼、古風な佇まいの店である。

キイ・・・中に入ると、古い羊皮紙の匂いが漂っている。

辺りはギッシリと棚に詰まった本の山。


「いらっしゃい。」

奥からヒョロリと細長い人物が現れる。

その人の耳は尖っていた。

ポケッと見ていたオレの様子を見て、

「エルフは珍しいかね?」


ハッとオレは戻り、

「失礼しました。」

深く一礼する。


エルフが珍しかったからではない

直感でエルフの上位種、ハイエルフであることが感じられたのだ。

ハイエルフはエルフの上位種で、エルフを統率する立場にあると聞く。

そのためか、めったに外へ出てこない。



その人は細身の身体を濃い茶色のロングコートに包んでいる。

コートの色が白もしくは黒だったら、神父と思っただろう。


「今日は何をお求めかな?」


オレは

「携帯食料屋のドワーフのオヤジさんから紹介を受けました。

ヨシュアと申します。

明日よりラビリンスに潜ります。

初めてなので何層まで購入すればいいか、アドバイスをいただけると幸いです。」

丁寧な口調で話す。


彼はニッコリして、手を差し出す。

「トールだ。」



握手をすると、彼は優雅とも言って良い動作で棚を探り、何枚かの地図を取り出す。

「初めてということならば、5層まででいいと思う。

ただ・・・君の佇まいから察するに、10層辺りまで、すぐに到達しそうではあるね。」


さらに追加して、何枚か取り出す。

「10階層までの地図だ。説明は要るかね?」


オレは第1階層の地図を見る。

「・・・説明をお願いします。」


トールは静かに語り始める。

「ここにある迷宮は、まさしく都市である。

上から1階層、2階層と呼んでいるが、実際は1階層は都市の最上階にあたる。

迷宮都市を探求する者は、最上階から地上階、そして地下階へと進むわけだ。

まずそのことを覚えておきたまえ。


次にだが、迷宮と名のつく通り、ここはルートが分かりづらい。

その上、トラップが多数ある。

その中を進んでアイテムを習得してゆく。

ここまでで質問は?」

「ありません。」


「よし。では話を続けよう。

定置トラップの位置は、地図に赤い記号で示されている。

私の地図では記号の形により、どんなトラップか、分かるようになっている。」

トラップの場所と種類を示したあと、別の羊皮紙に書かれた内容を見せる。

「10階層までは、ほぼ調べ尽くされているから、地図を見ていれば大体は大丈夫だ。

11階層より下は、未発見のトラップが徐々に増えてくる。」


彼は視線を地図からオレ達へと移す。

「ここまで憶えておけば、10階層までとりあえずは行ける。」

ニッコリと笑った。


「幾らですか?」

オレが値段を尋ねると、

「1層から5層までは1枚1500ターレル。

6層から10層までは1枚2000ターレル。」


市場価格より随分高い。

しかしオレは地図を見て、トールの地図を使おうと決めていた。


シュヴァインフルトにいる時、便利屋ギルドで迷宮の地図を見せてもらった。

第1層のみで、1枚1000ターレルを500ターレルで良いと持ちかけられたヤツだ。

それは白黒で描かれ、紙質が悪く擦り切れ、分かりづらく、ワナの位置は書いてない。

オレは丁寧にいらないと断ったが、結構ゴリゴリ押し売りしてきたなぁ。



代金を払い、5階層までの地図を入手する。

トールは再びニッコリ笑い、

「お客になったのだから、お茶くらいは出さないとね。」と言って、

薄いお茶を出してくれた。


トールは長いパイプを取り出して、タバックを燻らせ始める。



地図に関する質問をしばらくしていると、トールが

「さて、迷宮で出現するアイテムだが、どんな種類があるか言ってはくれまいか。」


オレは

「まず、出現するモンスターから取り出される素材と魔石。

次に、トラップを仕掛けられた宝箱から出るアイテム。」

トールは頷くと

「その通り。」


片手を挙げて、

「ではここで質問だ。

ラビリンスに出没するモンスターと、ランダムに発生するアイテム。

どうやって発生するのかな?」


オレはちょっとビックリする。

「勝手に湧いてくるんじゃないのですか?」

トールはフッフッと笑いながら、

「どこから勝手に湧いてくるのかな?」

・・・迷宮?

確かに指摘されて、おかしな点に気がつく。


「誰かが持ってきて入れなければ、宝箱から出したらアイテムはなくなる。

どこかから発生しなければ、モンスターもいなくなる。」

トールが

「その通り。」


「私がここに留まり地図を売って暮らしているのは、この謎を解くためだ。

『誰が何のために迷宮を作り、

宝箱にアイテムを入れて、モンスターを発生させているか』

・・・実に興味深い。」

パイプを燻らせながら、フッフッと笑っている。

この人、やっぱりハイエルフだと思う。

普通のエルフだと、こんな雰囲気、出せやしない。



店から出る際、トールが

「ああ、ヨシュア君といったね。」

「はい。」

「一つ頼みたいことがある。」

「はい?」


「ラビリンスに入ったら私が言ったこと、

『なぜアイテムとモンスターは発生するか』

を頭の片隅に憶えておいて、潜ってはくれまいか。

そして気がついたことがあれば、私に知らせて欲しい。

納得できる回答ならば、お金も払うし、

・・そうだな、11層からの地図の値段をマケてやろう。」


オレは少し考え、手を差し出した。

「では契約は成立ということで。」


握手して別れた。



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