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剣豪の息子、旅に出る  作者: 三久
第1章 剣豪の息子、冒険者となる
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001 出会い



ガタガタガタ・・

通り過ぎる荷馬車の音と、廃棄物を運ぶ臭いで目が覚める。

商業都市シュヴァインフルトの朝は早い。

夜が明けて通りが見えるようになると門が開き、馬車の出入りが始まる。


「・・クワア~ァ。」

オレは大きなあくびを1つして、ベットから降りた。

ここは『竜の尻尾』亭の305号室。

1ヶ月ばかり定宿にしている部屋である。


身繕いをして階段を下ると食堂へ出る。

「ヨシュア、おっはよー!」

元気な声が響いた。

「アリゼ、おはよう。」

ニコッと笑って挨拶をする。


ヨシュアとアリゼは便利屋(handyman)グループに属する下士官である。

士官といってもヨシュアは3等曹長、アリゼは士長である。

稼ぎは少ないので、アリゼはバイトで宿屋の給仕をしている。


「今朝はヨシュアの好物だよ。」

そういって2つモーニングを持ってくる。

1つをヨシュアにおいて、反対側の席に座って2人で食事の祈りを捧げる。

「日々の糧に感謝して。」


「今朝のバイトは終わったの?」

オレが尋ねると、アリゼは頬をプクッと膨らませる。

「今日は新人の入隊式! 忘れたの?」

そうだった。

今日は隔週である、グループ入隊式である。


グループには

便利屋(handyman)・聖職者(clergyman)・医療(Medical)・戦士(Warrier)等、

幾つかあって、専門別に協会(グループ)を設立している。

この他、職種によって、冒険者・商人・鍛冶等、様々な組合(ギルド)が設立されている。

今回2人は当番で、新人の入場整理をする番である。


「どんなヤツが入ってくるかな。」

オレが言うと、

「どんなヤツでも、死なないように育てなきゃ。」

アリゼに諭された。



便利屋グループの本部へ行くと、受付前は大勢のヒトがたむろしている。

2人は受付で腕章を借りて、すぐに整理を始めた。



整理を始めて1時間、大体9時頃に仕事は終わった。

「私は今から仕事。あなたは?」

アリゼの質問に、

「今日は、仕事は入れてない。さて、何するかな。」

ノンキな人ねという態度を隠そうともせずに、

「洗濯物と部屋を片付けた方がいいと思う。臭うわよ、あなたの部屋。」

そう言って出ていった。



部屋に帰って掃除と洗濯をすると、すぐに昼前となる。


『牛飼い亭』という馴染みの店で昼食をとっていると、

同じ便利屋グループのマイクが寄ってきた。

「よう。」

手を上げて挨拶する。

「よう。」

マイクは同じように挨拶すると、向かいの椅子に座りながら一緒に昼食である。


「今日は休みか?」

「いや。入隊式の当番。」


ははーんという顔をするマイク。

「そういや、薬草採集のリクエストが溜まってたゼ。オマエ、得意だろ?」

オレはニタッと笑って

「ありがとう。早速行ってみる。」



今度は便利屋グループの別の入口、ギルドの入り口から建物に入る。


「あら、ヨシュア。今日は遅いスタートね。」

馴染みの受付のお姉さんから挨拶がある。

「新兵の当番。」

これだけで、ははーんと納得してくれる。

オレはそのまま掲示板に向かう。


チョイとややこしいから説明すると、便利屋(handyman)・聖職者(clergyman)・医療(Medical)・戦士(Warrier)とかはグループの名称で、この下部組織に『ギルド』がある。

ギルドには、冒険者、狩猟、戦闘員とかのギルドがあるんだが、グループ名が、そのままギルド名になっているのもあって、便利屋、医療なんかが代表的である。

ややこしいかもしれない。


掲示板には、種別にA4くらいの用紙が貼ってある。

『薬草採集』という場所から内容を見て、番号をメモする。

受付へ戻って番号を言って、詳しいカードをもらう。

カードって言ったのは、タロットみたいな感じのカードだからだ。

それに手をあてると、頭の中にリクエストの詳しい内容が出てくる訳だ。

便利だろう?


フムフムという感じで5枚のカードを見る。

2枚外す。

これは時期が過ぎていて、

採ってきたとしても依頼主の要望には答えられないだろう。


「これでいきます。」

再び受付へ持ってゆくと、お姉さんがフッという感じで笑ってオレを見る。


「何か?」

尋ねると、

「5つ選んだのはさすがと思ったけど、この2枚を外すっていうのがね。」

ギルドの受付は、基本的に来たリクエストは理不尽なものでない限り受け付ける。

相当、阿漕(あこぎ)なリクエストであってもだ。

依頼を達成できないと、違約金か報酬の減額である。

モメ事が起きない依頼を選ぶのがプロというものだ。

それを見極められないお人好しは、損ばかりすることになる。




北門から外に出る。

門衛が顔見知りだったから、ちょっとしたおやつをあげると、すごく喜んだ。

「忙しくて、昼飯まだなんだ。」


小川を越えて、雑木林に入る。

うーん、と背を伸ばす。

やはり街中より空気が良い。



秋の午後は、なんとなく寂しい。

日が落ちるのも早い。

ヨシュアはコツコツと薬草の採集をしている。

『中級鑑定』スキル持ちなので、

このレベルの薬草ならば、ほぼ間違えなく採集できる。


そろそろ採集で稼ぐのも終わりかな。

秋から春にかけても薬草はある。

しかしながら取れる量が少なくなる。

稼ぐ金額も少なくなる。


気がつくと夕暮れである。

シュヴァインフルト近郊、城壁北側雑木林あたりならば、めったに強い敵は出ない。

それでも用心に越したことはない。

そろそろ帰るか。

そう思った時、眼の片隅に不自然なモノを見かけた。

落ち葉が不自然に盛り上がっている。


鑑定スキルを効かせながら用心して近づく。

・・ワナは無い。

拾った棒でツンツンしてみる。

「ん・・・ンっ。」

声がした。

落ち葉をかき分けてみると、人が現れる。


・・・困ったw

最初に思った。


現れたのは女性であった。

女性・・いや、少女以上女性未満と言ったらいいのか、

とにかく女性である。

女性の治療なんてしたことないぞ。


左肩から胸にかけて斬られたようだ。

自分で応急治療したらしく、傷口に大きな布を雑に巻いてある。

中を見ると、傷口を押さえた布に血が滲んでおり、まだ出血が止まっていない。

熱も出ているし、顔色からしてこのままだとマズい。


「おい、起きているか?」

尋ねたが返事はない。

「事前告知だ。今から服を脱がして治療をする。

オレは医療グループじゃないから治療スキルはもっていない。

よって我流の治療となる。失敗しても文句言うなよ。」


痛がるので気力(きりき)を効かせて、傷口に軽い麻酔をかける。

押さえてある布を外して、上半身の服を脱がす。

血でボロきれになっていた下着を外す。


ポロンと可愛い乳房があらわれた。

患部はまだ塞がっておらず、血が滲み出している。

乳房を見ると恥ずかしくなってしまい、治療どころではなくなるので、

意識しないようにして治療を開始する。



患部を持っていた水筒の水で少しずつ洗う。

痛がるので気力(きりき)の麻酔を少し強くする。

・・よし。


次に彼女の口を開けて、小枝を歯に噛ませる。

「今から患部を縫う。痛いかもしれないが我慢しろ。」

気力(きりき)を調節して、左腕の感覚を無くす。

動くと縫合できないので、動かないように膝で押さえて針を刺す。


女性の柔肌に傷をつけるのも申し訳ないが、状況が状況である。

チクチクと針を進める。

麻酔が効いているのか、相手は静かである。

気を失ったのかもしれない。


しばらくして縫合は完了した。

患部を布で保護して、手持ちの服を着せて完了である。

「ふう。」

気がつくと、しとどに汗をかいていた。


ウォーーン

遠くから山犬の鳴き声がする。

このままだと喰われちまう。

やれやれと思いながら枝を斬り、即席の担架を作る。

患者をのせて、ズルズルと引きずって雑木林を後にした。




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