015 ゴブリン退治・2
初戦は西から始まった。
ゴブリンの火矢が木製の柵に打ち込まれる。
火が・・・着かない?
ゴブリン達はポカーンと突っ立っている。
そこに村から矢が射られ、何匹かゴブリンが死んだ。
「やはり、知恵の付いたゴブリンがいるな。」
怪訝な顔をしたリンにオレは、
「火矢を放つゴブリンなんて、初めて見たよ。」
この村の防御柵は木造だ。
火矢を放つということは、柵に刺されば火がつくことを知っているということだ。
ゴブリンから弓矢を射られた時、思いついて防御柵に水を撒いておいた。
それが功を奏したようだ。
「火矢を射ようとするゴブリンを優先して倒せ。」
そう指示して次の現場へ走る。
北側へ回ると、相変わらず静かである。
これは来ないかなと思っていたら『ゴソゴソ』と何やら音がする。
上から覗いてみると下にゴブリンがいて、柵を登ろうとしている。
持っていた槍で突き刺して倒す。
「まだ油断はできない。引き続き監視してください。」
村人に頼んで次へ行く。
東側では、すでに初戦が始まっていた。
飛び交う矢の中に身を投ずる。
村に備え付けの木製盾で矢を防ぎながら物見台まで突っ走る。
物見台へ上がると狭間から外を見る。
外には大勢のゴブリンがいる。
こちらからも弓で応戦しているが、中々当たらない。
「弓貸して。」
弓はアリゼに教わった程度で決してうまいとはいえないが、
それでも村人よりはうまい。
狩人やってるという2人と一緒に、パシパシ射る。
弓を持っているゴブリンを倒すと、攻撃が一挙にやりやすくなった。
「まだ外に出ないで、このまま弓で攻撃。残りの矢の数に注意してください。」
ターシャには、
「移動して、西と北を、状況に応じて援護して。」
と言って南側へと走る。
南門に着く頃、東南方向では本格的に戦闘となる。
あちこち見渡すがフレイの姿が見えない。
「フレイは!?」
オレが質問しながら物見台に上がると、村人が「あそこに!」
なんと、門の外に出て戦っているではないか。
「アイツ、何やってんだ!」
オレが狭間から見て叫ぶと、村人が
「『ゴブリンなんぞ、蹴散らしてやる!』って言って飛び込んでいった。」
オレの計画では、今晩はカメのように籠もって過ごし、
明朝より棲家を探索の末、駆逐するというものであった。
これだと人的損耗を少なくできて、かつ、ゴブリンの数を減らすことが出来る。
あのバカが!
オレは歯ぎしりした。
フレイは戦闘で興奮の状態にあった。
「死ねっ! 死ねっ!」
剣を振るうと、ゴブリンが次々と倒れる。
なんでこんなに弱いゴブリンなんぞを恐れて、籠もってなければならん!
俺一人で皆殺しにしてやる!
一匹のコブリンが槍で突いてきた。
盾で避けてサーベルで切り倒す。
横から来たゴブリンは、突いて殺す。
いける、いけるぞ!
フレイは得意の絶頂にあった。
オレは勇者に生まれたんだ!
英雄になって王女を娶り、王国を打ち立てるんだ!
幼い頃から夢見ていた勇者の冒険譚が、今始まったのだ!
『ブスッ』
脇腹に違和感を感ずる。
見ると、ゴブリンの貧相な槍が刺さっている。
「この野郎!」
怒って切り倒す。
振り返った途端に、今度は左腕に槍が刺さった。
バランスが崩れたところに、ゴブリンが集団で襲ってくる。
「ウワーーーッ!!」
デタラメに剣を振るう。
そのうち剣が手から離れてどこかへ行ってしまった。
醜悪な面をしたゴブリンが迫る。
ブスブスブス!
村人の槍を掴んでゴブリンの集団に突っ込んだオレは、
速射で3発、3匹のゴブリンに突きを喰らわす。
さらに2匹、次に3匹、槍で突いて倒す。
持っていた槍を1匹のゴブリンの腹に突き立てると、
近づいたゴブリンを、持っていたショートソードで倒す。
ゴブリンの槍でさらに2匹仕留めると、
落ちていた石斧を引っ掴み、近づいたコブリンの頭を叩き潰す。
恐れをなして下がるゴブリンの上に、矢が降る。
下がるコブリンを横目に、フレイを肩に担ぎ、オレは急いで門の中に逃げ込む。
門を閉めると、攻撃を続けるように頼んで宿泊所へと向かう。
宿泊所は怪我人が大勢控えていた。
村の婦人が整理して、イズンが軽い怪我人から治療を施している。
「ケガの軽い人間を優先に治して、前線に配置してくれ。」
オレがイズンに頼んだことである。
重傷者は治す手間がかかる上に魔力を大量に消耗する。
魔力は無限ではない。
戦時には戦力に復帰できる人間を優先して治すのは当然である。
フレイが傷だらけの状態で搬入されると、イズンはビックリする。
「どうしたの!?」
慌てて駆け寄ってくる。
オレはイズンを「他の人の治療に専念して」と言って止める。
フレイは重症なのだ。
本来ならば、放おっておく状態である。
オレが指示したことを、オレが破るわけにはいかない。
オレはフレイを連れて、人目につかない場所へ移動する。
《ミナーヴァ》
女神を呼び出し、交代する。
オレの左目が緑青色に輝き、ミナーヴァが現れる。
《傷病人の治療は、専門ではないのだが》
そう言いながら、診断を開始する。
フレイは気を失っている。
左手でフレイの上をなぞり、状態をスキャンする。
《裂傷多数。感染症の恐れあり。早急の治療を要する》
結果は《中ポーションで治療可能》
フレイの服を脱がせ、傷口をあらわにする。
井戸水で洗浄してきれいにする。
針と糸で傷口を縫合する。
次にオレはバックより中ポーションを取り出す。
これは大森林地帯より帰る途中の宿屋で、テストでこしらえたものだ。
スポイトを使って傷口へ少しずつ垂らす。
中ポーションによる奇跡『回復』が始まる。
汚れた武器からの感染症の症状がおさまり、血液を清浄にする。
傷口を回復させる。
しばらくすると、かなりきれいにおさまった。
この後、経口で摂取させるのだが、気を失ったままなのでイズンに頼んだ。
東側に急いで戻ると、戦いはすでにあらかた収まっていた。
「少し前に一群が突っ込んで来ましたが、二次防衛戦付近で撃退しました。」
他の三方も急ぎ視察したが本格的な衝突は無い。
恐らく奇襲をかけようとしたが、こちらが備えていたため撤退したというとこだろう。
翌日。
眠い目をこすって事後処理を行う。
門から外に出る前に、宿泊所へフレイの様子を見に行く。
フレイは奥で横になっていた。
「明け方に一回起きたので。ポーションを指示通りに与えました。
その後はずっと寝たままで。」
念の為、ミナーヴァに診察してもらうと、このままで大丈夫らしい。
ホッとして外へ出た。
「思ったより攻撃が少なくてよかった。」
リンがホッとした様子で言う。
「初冬で、狩りに使う矢の備蓄が多かったのが幸いだったよ。」
話を聞いても、オレの顔は冴えない。
「どうした?」
リンが尋ねる。
「この周辺のゴブリンが、手強くなってる。」
「は?」
イマイチわからなかったようだ。
「先日だが、ゴブリンの巣の掃討をした。
出てきた相手はゴブリン・メイジ。
ゴブリン・ファイターが複数いて、小ゴブリンも30匹を越えていた。
連中、電撃トカゲの穴を拡張して巣を作っていた。」
リンはゴブリンの上位個体を知っているようだ。
真面目な顔になる。
「新米が4名、クエストで潜っていて襲われた。
後発でギルド員が救助に向かった。
新米パーティのリーダーの剣士と魔法師は死亡。
盗賊は凌辱されてリタイア。聖職者は軽傷だった。」
自分達と似た構成だと思ったのだろう、リンはブルッと震える。
「あとで巣の検証を行った時、オレも立ち会った。
そのとき調査したんだが、連中、妙に知恵を持っているように感じてね、
もう少し深く調査したいと考えていたんだ。」
「それで、このクエストを選んだという訳だね。」
リンの言葉にオレは頷く。
「知識を持ったゴブリンが居着くことは脅威だ。
そして、シュヴァインフルトは商業都市だ。
商売の妨げになる脅威は、取り除かねばならない。」
ニヤッと笑って
「そう先輩に教えられてさ、このクエスト受けてみた。」
背伸びして、
「オレだってまだ新米さ。ここらへんが手一杯かな。」
リンに、この片付けが済んだら巣の場所を探してギルドに戻ることを話す。
リンは、なんとなくだがホッとしている。
実際の話、もらう報酬を考えると、ここまでやれば充分である。
後はギルドに調査の結果を話して対策をとってもらおうと思う。
驚いたことに、倒したゴブリンの数52匹。
逃げ帰ったゴブリンの数不明。
周辺の片付けが終わると、オレ達4人と狩人2名で巣の探索へと向かう。
村人とイズンには、引き続き村の警備と傷病者の看護を頼む。
村周辺には、多数ゴブリンの足跡が残されている。
オレと狩人はその足跡を調べ、辿る。
あちこち動いたが、2時間くらいで巣のある場所を発見する。
「・・・これはチョイと面倒になりそうだな。」
ゴブリン達は廃棄された城塞に巣を作り、多数待ち構えていたのである。




