表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣豪の息子、旅に出る  作者: 三久
第1章 剣豪の息子、冒険者となる
15/81

014 ゴブリン退治



ゴブリン退治というのは、ちょっと田舎の都市のギルドでは、いつも出されている。

商業都市シュヴァインフルトでは大都市だけあって、

各ギルドの掲示板で、周辺の市町村で出されているオーダーが見れる。



便利屋ギルトに入ると、受付のお姉さんが手招きをした。

「ちょっと待っててね。」

順番待ちの冒険者に断ると、最前列へ行く。


「盗賊のペイジさん、肋骨骨折で1ヶ月です。打撲の他異常なしとのこと。」

「ありがとう。」

オレはそう言って、受付を離れた。


待っていたターシャの元に戻って・・あら、誰かと話しているな。



ターシャは少し困っていた。


「ねえ君。一緒にクエストやらないか。」

若い冒険者から声をかけられた。

後ろには2人の冒険者がいる。

装備から、恐らく盗賊と魔法師である。


「もう一人いればパーティを組める。どうかな。」


見回すと、ヨシュアが少し離れたところにいた。

誰かと話している。

「ごめんなさい。他の人と組んでいるもので。」

そう言ってヨシュアに駆け寄る。



オレは突然、「ありがとうございました」という声を聞いた。

振り向けば、どこかで会った顔がある。

・・確かゴブリンの巣穴から助けた娘だ。

「ああ。もう治ったのかな?」


聞けばパーティで最後に襲われ、こん棒で殴られて昏倒。

身ぐるみ剥がされて、もうダメという瞬間にオレ達が突入したらしい。

オレが引っ掴んで避難したので、スリ傷と打撲以外の傷は無し。

医師からポーションをかけられて、すぐに治ったとのことだ。


「まだ大きなタンコブがあります。」

帽子をとって見せてくれる。

確かに大きいや。



「今日は何の用?」

オレが尋ねると、

「新しいクエストを受けに来ました。

ただ、前回みたいにはなりたくないと思うと迷っちゃって。」


「受付で言えば、経験者とパーティ組めるはずだけど?」

そう言うと、

「前回のパーティ、受付で斡旋(あっせん)受けたものなんです。」

ああ、そうだったのかw

オレは渋い顔をする。

斡旋を受けたパーティがあれなら、迷うわけだ。



そんな話をしていると、突然ターシャが飛び込んでくる。

「パーティの勧誘うけちゃった。」

見ると、チッwとした顔をした、若い男がいる。


「えっ、クエスト受けるんですか!?」

彼女が驚く。

「え? ええ。」

ターシャが言うと、

「ワタシもパーティへ入れてください!」


「オレ達、ゴブリン退治に行くんだけど。」

言いにくそうにオレは言う。

彼女は一瞬、ウッという顔をしたが、

「かまいません。よろしくおねがいします。」

頭を下げた。


ターシャに事情を話すと

「いいですよ。」

パーティを組むことになった。



「それじゃ、えーと・・・」

・・名前聞いてないやw


「イズンです。サーガ教の聖職者(clergyman)です。」


サーガ教。月神を崇める宗教だな。

「サーガの聖職者は、何ができるの?」

オレの質問に、

「他の聖職者と同様に聖魔法が使えます。中級まで。

後は回復魔法が、中級の始めの方まで使えます。

それとは別に宗教特典で、パーティ単位の継続回復ができます。

継続時間の制約はありますが。」


イズンも加わり、パーティは3人まで増えた。

さて、と。




オレは人数が減ったギルドのフロアを横切って、

未だにウロウロしている若い男のところへ行く。

丁寧に、「もしよろしければ、パーティを組んでいただけませんか」と頼む。

若い男はオレをジロジロと見る。

今日のオレは、見習いの時使用したショボい装備を身に着けている。



「あ? お前だれだ?」

男の質問に、

「私はヨシュア。剣士です。」

後ろに担いだ細身のロングソードを指差す。

いかにも安そうなロングソードを見て、男は大仰(おおぎょう)に、

「お前、俺より歳が若いだろ? そんな長い剣、振り回せるのか?」



オレは辺りを見回して、誰もいないことを確かめる。

シュッ! と鞘を走らせて剣を抜く。

両手に片手に持ち替えて、剣の舞を始める。

緩急をつけて、舞うように剣を使う。


それは遥かに遠い伝説の国、『チーナ』の剣舞。

何故か祖父が知っていて、オレに教えてくれたものだ。

「明鏡止水の境地で演ずるべし。」

剣先に気を(まと)い、

伝説の(ドラゴン)に挑む鳳凰(フェニックス)のように、ひたすら舞う。


剣舞が終わると、割れるような拍手が起こった。

しまった。みんな見てたんだw

やっちまった感満載でオレは一礼すると、元の場所に戻った。



ポカーンと見ていた男は、パーティの二人から矢のようにせっつかれている。

渋々といった感じで、男はオレに近づいた。

「フン。まあいいや。パーティにいれてやるよ。」

こうして3人+3人で、6人のパーティが出来た。




リーダーはフレイと言う剣士である。

サーベルによく似た剣を使い、小型の盾で身を防ぐ。


「本当なら、重装甲歩兵が良かったんだけどな。」

そう言って、軽装備のオレを見る。

・・おい、フレイ。

重装甲歩兵なんて、よっぽどじゃないとパーティに参加してもらえないよw


盗賊はリン。16歳の女の子だ。

いかにも身軽そうで

「鍵開けやワナ解除なら、結構出来るよ。」


魔法師はノード。

「土と水の魔法が得意です。」

ターシャとのコンビネーションを考えないとね。



お互いの挨拶が完了したあと、最初に始めるクエストで、まずモメた。


オレ達がゴブリン退治をするつもりだと言ってクエストカードを見せると、

「エ~! ゴブリン退治なんてカッコ悪い!」

フレイが文句を言う。

話を聞くと、どうもオーガの退治をしたいらしい。


冗談ではない。

初心者にオーガの退治なんて、出来っこない。

「これだけのメンバーがいれば、出来るって!」

夢見るフレイ君は譲らない。


「でも、ゴブリンなら簡単じゃない?」

リンが言う。

「私、よく追い払ったよ。ゴブリン。」

リンは今までの経験からコブリンを語る。


それからしばらくクエストの選択が続く。


フレイが最後まで主張していたオーガなんて、倒せる訳無いので、

結局はオレの意見が通り、ゴブリン退治に出掛けることになった。




ゴブリンを退治する村まで、同じ方向へ向かう荷馬車に同乗させてもらう。


フレイは荷馬車の上で、まだブチブチ言っている。

「俺達の実力なら、デビュー戦はオーガくらいで丁度良いと思うけどなぁ。」

リンは昼寝。ノートは魔法書を読んでいる。


オレは馬車の側面に座って監視である。

反対側はターシャ。

荷台の後ろにはイズンがいて、それぞれ三方を見張る。


道中は異常なし。

ただ、目的の村に近づくと、気になる点があった。




夕方、村に到着。

村長に挨拶して、宿泊場所を提供される。


フレイ他、残りの5人は、装備を持って宿泊施設へ向かおうとしている。

日は傾き、時間的猶予はあまり無い。

オレは適当に荷物を置くと

「村の周辺を調査するよ。」


他の5人はキョトンとする。

「ゴブリンは夜行性で、屋外活動時間帯が夕方から翌朝までだ。

何か仕掛ける場合、必ず夜中に動く。

当然、偵察もだ。

今のうちに周辺を調査して、状況を把握しないとマズい。」


フレイが

「今晩なんて、来ないって。」

「来ないという証拠は?」

「? だって俺達がいるじゃん。」


オレは頭を抱える。

「ゴブリンは俺達のことは知らない。誰も知らない奴のことなんか恐れない。」

「襲ってきたら戦えばいいじゃん。これだけのメンバーがいたらすぐだろ、退治。」



村へ来る途中、

フレイがクエストカードの内容を、どれだけ把握してるかテストした。

フレイのヤツ、リーダーのくせに適当にしか内容を読んでいない。

頭の中には入ってるはずなので、内容を理解してない。


さてどうしようかと悩んでいると、ターシャが

「フレイさん、リーダーなんだから、そんないい加減では困ります。」

イズンも

「クエストカードに『ゴブリンの匹数不明』って書いてあったじゃないですか。

もし百匹とかいたら、どうするんですか?」


話に詰まったフレイは、仕方ないなという感じをあらわにして、

「ハイハイ。じゃ、調査に行きますか。」

メンバー全員で村周辺の調査を行う。



村の外周を回ると、ゴブリンの足跡を複数見つける。

オレは村の地図を紙にスケッチをして、現状を記録する。


ぐるっと一周回って村の南門に戻る。

・・これは緊急事態だな。


「村長に村人を集めてもらう必要がある。」

オレが言うと、フレイはビックリする。

「え、なんで?」


地図を見ながら、北東の方角を指差す。

「こっちの方角に、ゴブリンの棲家がある。

足跡の具合から見ると昨晩、下調べに来ている。

ということは、今晩、襲撃があるかもしれない。」


オレは村を見回して、

「早急に歩哨を立てて、警備を強化しないといけない。」

地図をしまって、

「オレが村長を呼んでくるから、フレイ、説明してくれ。」


途端にフレイは文句を言い出す。

「え、なんで? 俺達、ゴブリン退治に来ただけじゃないか。

村の防衛なんて、村人で勝手にやればいいんだ。」


オレは眉を上げる。

「もし今晩襲われたとすると、恐らく人質が発生する。

そうすると、余分な救出作戦を行わないといけない。

救出は時間勝負になる。

今防げば退治だけだから、遥かに容易といえる。」


面倒であるが、オレは丁寧に答える。

それでもブチブチ言ってるので、村長を呼びに、さっさと歩き出す。



村長を連れて帰ってくると、フレイがいない。


「宿泊所へ帰っちゃった。」

リンが言う。

オレは一瞬怒れたが、きつく言い過ぎたかなとも思った。


「すまん、ターシャ。宿泊所へ行って、なだめてきてくれるか?

時間が無いから、オレから村長へ説明する。

リンはこっち、ノードはあっちへ行って、見張りをしてくれ。

イズンは宿泊所へ行って、救護所の設置を頼む。」

それぞれに用事を頼み、村長へ現状を報告した。



俺達が泊まる場所が集会場であった。

村の女性と子供が集まり始めて、騒々しい。


フレイは何かを質問されると、ターシャに答えを聞いて命令している。


ターシャを、あらかじめ仕込んでおいて良かった。

ゴブリン退治をするに当たっての方策は教えてある。

質問されても、対応できるはずだ。


ノードに頼んで、土魔法で土塁を作り始める。

思いついた色々なことを、村長に頼んでやってもらう。


あれやこれや準備に時間を費やし、準備は整った。




夜半を過ぎた頃、

「ゴブリンだぁー!」

ガンガンガンガン!

西門見張りの大声と桶を叩く音が響き渡る。


シュシュシュッ!

ゴブリンから、矢の攻撃がある。

見張りは素早く見張り台の影に隠れた。


バスバスバスッ!!

ゴブリンの矢が見張り台に突き刺さる。


「来たぞおー!」

大声と共に、戦闘態勢は整った。




オレは村の南門の狭間から外を見ている。

横にはターシャがいる。


「ねえ、ターシャ。クエストカード見たとき、どう思った?」

ターシャも狭間から外を見ながら

「ゴブリン退治にしては、報酬が良いなと感じました。」

オレはニヤッと笑う。

「これがその答えだ。」



ゴブリン退治は、誤謬(ごびゅう)に満ちている。


ゴブリンは力が弱く、原始的な武器で戦い、少人数のグループが多いと言われる。

『弱いゴブリンは、すぐに退治できる』が、一般的な認識である。


ゴブリン退治で一番イヤなのは、危険な割に報酬が少ないことだ。


「だって弱いゴブリンを、ただ退治するだけの仕事なんだから。」

という認識なので、クエスト主が報酬をケチる。


クエストを達成したからといって、ボーナスは出ない。

アシが出たって「しっかり準備しないから悪い」と言われて、涙をのむだけだ。


例えば今回、村単位で防衛線を敷いたが、

これは『コブリンの集団に対する防衛』

つまり、別途のクエストである。

これを無償で行ったから、授業料だけでアシが出ている。


今回、さらに退治するための戦闘が加わるから、完全に赤字である。



以上から、ゴブリン退治で報酬が多い場合は『何か』ある。

事前調査してなかったり、総数が不明だったり、

ファイター、メイジのような上位個体(ホブゴブリン)がいたり。


村人も、それを承知でクエストをオーダーしてくる。

「ゴブリンか」と言って、

軽い気持ちでクエストを受ける、カモの冒険者をを探しているのだ。


善人ばかりが困ってクエストをオーダーしている訳ではない。

何とか安く上げ、良い目を見ようという腹黒いオーナーも多いのだ。


『ゴブリン関係は、油断が出来ない。』

経験を積んだ中堅の冒険者が持つ、ゴブリン・オーダーに対するイメージである。




オレは『暗視』スキルを発動して、周辺を監視する。

双眼鏡を取り出して遠方を見る。


「攻撃のメインは、こっちじゃなさそうだ。

フレイをこちらに充てるから、しばらく守っててくれ。

ターシャはフレイが来たら東側へ移動。」

ターシャに守り方は説明してある。

オレが『できるな?』という顔をすると頷いた。



中央広場に行くと、フレイとリンが不安そうな顔で立っている。


「おい、リン。担当区域にいないとダメじゃないか!」

思わず大きな声が出る。

「だって、あの光る目。すごい数だよ!」

リンが震える声で言った。

リンの担当は、西門である。

フレイを南門へ向かわせると、オレはリンと西側へ向かう。



西門の狭間から見ると、多くの光る目が見える。

「1、2、3・・・30匹以上いるな。」

オレは目視で確認して、横にいるリンを見る。

リンは夜目にも血の気が引いているのがわかる。

「こんないっぱいのゴブリンがいるなんて、思ってもみなかった!」


オレはリンの背中をポンポンと叩く。

「まだ大丈夫。あの様子だと、しばらくは襲ってこない。」

一緒に監視している村の兵士役と弓役にも、攻撃するタイミングを教える。

「ここで監視していてくれ。前に言った場所までゴブリンが来たら、戦闘開始だ。」



北側はノードが監視している。

走ってきたオレは、息を乱しながら

「状況は?」


ノードはリンより落ち着いていた。

「変化なし。こちらは崖なので、来ないのでは?」


オレは息を整えながら、

「そうなれば嬉しいけど。

オレだったら、こっちから少数忍び込ませて不意をつくからね。」

ノードはビックリして、

「ゴブリンですよ!?」

オレはニヤッと笑いながら、

「ついこの前、悪知恵の働くゴブリンと戦ったばかりなのさ。」


油断しないように、特に足元に注意するよう指示して、東門へと向かう。



東門には、ターシャがすでに来ていた。

「どうでした?」

緊張した顔で尋ねる。

オレは狭間から外を見て、

森との境界線にゴブリンがウロウロしているのを認める。


地図を取り出し、状況を把握する。

「西と東にゴブリンの集団がいる。多いのは西。

でも西はフェイントで、東が本命とみている。」


「理由は?」

「この村の地図みてごらん。西側が斜面になってて畑だろ。

今の時期、借り入れは済んでいるから、隠れて接近できる場所が少ない。

一方東側は、ここまで森が接近しているから、隠れて接近できる。」

地図の北を差して

「こっちは崖。こっち側から少数侵入させて、ムラを撹乱。

東側の防壁を壊すか乗り越えて侵入って感じかな。」


地図を東と南、西と北に区切って

「というわけでターシャ。ここが一番激戦になるとオレは踏んでいる。

戦いが始まったら東と南はオレが担当する。西と北は、君が担当してくれ。」


ターシャを見ると、少し震えているようだ。

「怖い?」

素直に彼女は頷く。

「机上で訓練は何度もしています。でも、実戦でとなると・・」


オレはターシャの肩を叩く。

「失敗なんていつもあるから、気にしない。」

そして笑いながら答える。

「オレは予想を立てて、みんなを配置した。

でも、全然間違ってるかも知れない。

その場合、いかに早く対応できるかが鍵になる。リカバリーできれば問題無し。」


言ってる最中に、森がゴソゴソと動く。

「いよいよお出ましだ。さあ、配置に付け。 いくぞ!」


いよいよゴブリンとの夜戦が始まる。



評価・感想お待ちしてます。

よろしくおねがいします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ