七話 豹変
どうも。お久しぶりです。なかなか忙しく、投稿できていませんが、ご了承ください。
砂埃が舞う中、闘技場を作るように悪魔達は座り込んでいる。学年が上の悪魔は生意気な後輩を叩き潰すように、下の悪魔はのさばっている先輩をはたき落とすように、双方の視線は火花を散らしていた。
『さぁっ!早速始めようか?順番は決めたかい?もう後戻りは出来ないが』
『けっ、よォく回る口じゃあねェかァ。ぶっ飛ばしてやるぜェ』
『やってみたまえ!』
元気だ。すごく元気だ。煽った俺が言えた義理じゃないが、何やってんだ彼奴ら。よくよく考えたら、俺らを閉じ込めた魔術、あくまでも俺たちを生かしたまま試すギリギリのラインなんだよな。先輩方にとっては、あんなのままごとの内にも入らないだろう。
『えー?闘技申請があったのはここで間違いありませんかー?』
『あぁ、フォマーレイくん。確かにここだよ』
『はーいー。ではでは、速攻で仕事を終わらせたいのでもう始めちゃいますよー』
そう告げると、彼は肩がけの鞄から旗を取り出して振り下ろした。旗はバスガイドの物並の小ささだが、かなりの奇抜さだ。鞄に目と牙の生えた口がくっついていれば、誰でも変だと思うだろう。
持っている旗を振り下ろした瞬間、地面が胎動してまるでローマのコロッセオのような競技場が浮き出てきた。
悪魔は決闘を重んじる。何故ならば、決闘のみが彼らが命を賭け合う場であるからだ。普段から命の奪い合いを禁止されていても彼らの本能は正直である。決闘に入れば血みどろの戦闘を求めるのが普通。欲深い悪魔ともなればそれを抑えるのは困難を極める。
『決闘の規則は至極簡単!どちらかが戦闘不能になるか、降参するかだ!』
『アマちゃんだなァ。死ぬ迄やろォぜェ?』
『若い芽を摘むことはしないさ!軽ーく揉むだけさ!』
もういいや。なるようになれ。
『ではでは!各チームから先鋒をお願いします!』
『二年。マカラージヌ・ドプェリ。頼む』
脳筋そうだな。見た目は。しっかり番長感は出てる。しかし、それと裏腹に紳士的な性格が余計に危険な雰囲気だ。
『ぼ、僕やだよ?!』
『いいから行け!』
『うっ!』
『お、、お名前は?』
『いいいい一年っ、サンラトリ・マヤ、、、です』
対して、こちら側陣営の先鋒は偉く頼りない男、、、なのか?かなり中性的というか、どちらかというと女性寄りな顔立ちの男子生徒だ。うん。失礼ながら勝てるのか不安だが、罵倒した者を唖然とさせる実力であって欲しい。なにせ、俺は見た目で判断する輩は反吐が出るほど嫌いだ。何分背が低いのでね。俺は。嫌な思い出がいっぱいだ。
『決闘を開始します!』
『よろしく、君』
『はい、、、お、お手柔らかにお願いします』
『決闘開始!』
先行はドプェリ。大きく跳躍し、鈍い音を立ててボコッと地面を砕く。瓦礫の中からマヤは転がり、体勢を立て直す。
『中々の身のこなしだなァ。細くって今にも折れちまいそうな体なのによォ』
『確実に実践を積んでますね。素人ではあの体勢から間合いは取れない』
種族は青糸族。先祖代々小柄なのが特徴。親近感を感じる。生まれてくるのは魔法特化で近接戦闘には向かない種であるが、、、。
『え、えぇーい!』
『ガッ!』
マヤの小さな拳が風を切って正中線を捉えた。メキメキとゆっくり骨が軋んだ音が否応無しに耳に入る。
『アイツ、、、面白ェ魔法体系してんなァ』
『肩から指先にかけて魔法陣を付与していますね。非常に綿密で珍しい形です。恐らく、異常個体の悪魔でしょう』
異常個体の悪魔とは、それぞれの種族の特性に反し、その異常さが常軌を逸する者を指す言葉である。今回で言えば、魔法を得意とし近接戦闘に長けないはずの青糸族では緻密な魔法体系は組めないということである。
『やぁぁああああ!』
『グォォオオオオオアアア!』
繰り返される殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打。バキリ、バリバリ、ガッ!という削れるような音と叫び声の応酬。あれほど紳士そうだったドプェリも、鬼の形相で殴りかかっている。彼も彼で肉体のみで張り合っているので凄いのだが、かなり押されている。見た目のギャップもあり、周りの視線はマヤに釘付けとなっている。
『見た目だけでは分からないことも多いわけですね』
『、、、、、、』
先程無理やり彼を矢面に立たせた悪魔たちも、思わず俯き黙ってしまった。まぁ、あれだけのものを見せつけられれば馬鹿でも自分の愚さに気づく。
『グヌゥ、、、中々やるな。しかし、私にはまだ魔法がある。どうやら君は異常個体のようだね?魔法なしでは限界のようだ。見せよう。私の十八番を』
『ガァァァァァァアアァアアァアァァア!』という雄叫びの後、ドプェリの角とかみが伸びる。あからさまに身体が強化されているのが分かる。しかし、同時に先程の組み合い以上に理性が失われているのも分かる。
『Glllllllllllllllllrrrrrrrrrrrrrrrrlrlrlrlrlrlrlrlrlrlrlrllrrlrlrlrlrlrlrlrlrlrlrlrlrlrlrlraaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!』
『ありゃァ、もう魔獣の類じゃァねェかァ?』
『そのとーりダァ、コーハイクン』
『、、、、、、なんでェ、先輩が新入生側に居るんすかァ?』
『決まってんだロォ?暇つぶしダヨ。』
俺たちをを出し抜くほどの気配の断絶、、、、決して侮れるとは言えないものだ。音も無く、間も無く、空気の動きすら無かった。
(隠密行動に優れた種族なのか、はたまた魔法なのか、、、、)
『おっ、始まったナァ。ドップーの筋肉ゴリ押しラッシュ』
狂乱化したドプェリは、威力と速度を上げて殴り続ける。腕力に頼った攻撃の割に加速度的にスピードが上がり、さしもの異常個体である彼も捌き切れない。徐々に傷が増える。
『悪魔は頭脳派と肉体派に大きく分類されルゥ。何故なラァ、強くなるのに必要な要素が真逆だからだァ。肉体派なラァ、とことん実戦ン。頭脳派はァ、実戦は後回しダァ。ドップーの肉体派としての戦力ハァ、俺らん中でモォ、抜きん出てるのサァ。普段カラァ、敬語使っテェ、喋んねートォ、理性を保てられねーくれーにナァ』
『だけどよォ、あのちみっ子も結構立ち向かえてんじゃねェ?』
『時間の問題ダァ。異常個体ハァ、一貫して得意な魔力における魔力の恩恵を受けやすいガァ、消費が激しいのが欠点ダァ』
『時間の問題かどうかは、、、どうでしょうね?』
『?、、、兎に角ゥ、問題はドップーをどう止めるかだナァ。あんなひ弱そうなコーハイ、すぐにボコボコダァ』
それは大きな間違いだ。それだけでは弱いと断定できない。異常個体は、ただ一体の例外もなく、、、、、、、、、上級魔族の席に並んでいるのだから。
『お、おいっ!そろそろ止めた方がいいんじゃねーか?!』
『さすがに死ぬぞ?!』
『でもっ!手が出せないわぁー!』
『そろそろ潮時かァ?どうするよ』
『iiiiiiaaaaaaaaaauuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuu!』
『ぐぅぅうううううううう!』
彼の魔力が消えた途端、事態は豹変した。ギュルルルルルルルルルという壊れたモーター音に似た音が鳴り、不自然にもピタリと止まった。
『トットラート君。下がりますよ。ここだと些か危険です』
『あァ、、、、、、?』
『おーィ、こりゃあどういる訳ダァ?あのコーハイ、意識ねェみてーだゼェ?』
次第にペキペキと彼の表面に亀裂が伸びる。異常個体の特徴、応対反応が開始した。応対反応とは、彼のような異常個体に稀にみられる暴走状態。前例が少ない為、試料が少なく何が起こるかわからない。暴走したままか、自身の制御下に収めるのか。
『ihaeraega.ihaeraega.sisi kaharana.kamu.!#/&3、、、召喚、ミカロイド』
『やべえ!あれ見ろ!』
『なんだあの馬鹿でけえの!』
『下手なトロールよりあるぞ!』
『いやーん、大ピンチぃ』
魔法陣が現れたと思いきや、すぐにひび割れて砕けた。そして、新たに真珠色の魔法陣から、巨大な姿をした東洋風の竜が現れた。こちらも魔法陣と同じ真珠色だ。
『HOーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーN』
『ゔっ』『なっ』『がっ』『いやんっ』
竜の咆哮で、後輩、先輩問わずに膝から崩れ落ちてゆく。一定の魔力量を持つものしか耐えることのできない衝撃波。残っているのは実力者のみ。後輩組はサントリ・マヤを含め五名、先輩組はマカラジーヌ・ドプェリを含め四名しかいない。
『Huーーーーーーーーーーーーーーーーー!』
『あ、頭に響くっ』
『ちょっと困りましたね』
『呑気に言ってる場合かね?』
『先生。いつの間にいらっしゃったんです?』
『そんなことよりも、なんだ?あれは』
『、、、、、さあ?』
竜は呆けている皇輔達に目もくれず、一心不乱に暴走している。
『不味くないか?あれ』
「不味いでしょうね。下手したら校舎や生徒に被害が及びかねません』
『止めるか』
『止められる代物なのでしょうか』
『いざとなったら殺さねばならん。協力を頼めるか』
『分かりました』
ドプェリは今尚暴走状態にいる。紳士の面影はほとんどなく、ゴリゴリのボディービルダーみたいだ。一方、マヤもマヤでなかなかの格好だ。本体は白く輝き続けているし、その周りでは竜がクルクルと回っている。両者とも睨み合い、膠着状態だ。
『he.#5$*・3659』
『Heーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!』
先に仕掛けたのはマヤ。また竜が動き出す。放ったのは翠色の焔。着弾した瞬間、ドプェリの身体が僅かに溶けた。酸の焔。何処の文書だったか、遥か太古の魔界に存在したと噂される焔。今となっては目にすることのできない悪魔への脅威。
『その身を焦がし、一片も残さず。ああ、恐ろしきかな龍王』
『なんだァ?なんか知ってんのかァ?』
『今は待避を』
『その通りだ。君は一年生を率いて下がり給え。二年は各自散開するよう言ってある』
『先輩も含めですよ』
『何を言うか。私も二年を率いている面子がある。下がらんよ』
『純白の乙女、悲しみの王女、今一度林檎を手に。白雪姫』
『、、、、、zzzzzzzzzzzzz』
『トットラート君、先輩を頼めますね?』
『眠りの魔術かァ。死ぬなよォ』
意識が薄れる。ガタリから受け継いだ能力の覚醒。皇輔の中にいる何者かが出てこようとする。抵抗しようとするも意識がブラックアウトした。
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『、、、どうした?』
『下がれ下郎』
『何、、、、、?』
『余は今、猛烈に憤怒している。』
そこに立つは、赤い鬣のような髪を靡かせる堂々たる悪魔。かつて怠惰な王を殺め、怒りで自らを傷つけた自然の王。
『今一度、ここに立て。憤怒の自然供よ』