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相棒が凶暴  作者: 猫山音王
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六話 部屋

『良いですね』

『そーだなァ』


 どうも、夛田皇輔だ。今、学園の寮にいる。指定された部屋は夕日が差し、何とも言えない穏やかさを感じる。まるで母親のようだ。あんなのではなく。


『どうします?何方の布団にしますか?』

『俺窓側ァ』

『では私は壁側にします。荷物をある程度片付けたら、直ぐに男寮一年全員で先輩方にご挨拶です』

『わーかってらァ』

『さっさと終わらせますよ』


 持ってきた鞄を開くと日用品から何から全部入っており、手紙が入っていた。どうやらガタリからの手紙らしい。


『拝啓、皇輔へ。君の中は飽きた。屋敷に帰る。能力はある程度譲渡しておくから、後は頑張って、、、か』


 とうとう、相棒の責務を放棄しやがったぞ彼奴。第一、能力はどんな物なのか聞いてないんだが。どうしてくれる。明日ここら一帯が、更地になってたら処理しきれないぞ。手紙を丸めて、加熱処理しておく。


『片付けたぜェ』

『では行きましょうか。恐らく皆さんはもう集まっているでしょう』


 扉を押して部屋の外に出ると、違和感を覚えた。微睡むような、張り付かれる様な空気が廊下を充満している。そして、やけに暗い。一寸先は闇というのはこうも不安なものなのか。悪魔に姿形を変えても、恐怖心というのは消えない。むしろ、本能により忠実になった分、人間の頃よりもそれは顕著に現れた。


『何だァ?この気持ち悪りィ魔法。こりャァ、何人か同時に魔方陣を開いてやがらァ』

『分かりますか。隣の部屋は、、、駄目ですね。ゴーレムと罠が敷かれています。おそらく、他の部屋もそうでしょう』

『だろうなァ。おかしな魔力がウジャウジャ居るなァ。どうするゥ?俺の魔法じゃァ、この建物ごと吹き飛ぶぜェ』

『それは困ります。建物自体は実際の寮ですから、無くなれば暫く野宿です』

『出られねェよりはマシだろォ?』


 確かに、複数の魔法陣は解除し難い。一気に全員の魔法陣を構成する式、つまり魔法回路というものを破壊することが求められるからだ。トットラートの得意魔法は狭い場所では使いづらいらしい。となると、対応出来るのは皇輔しかいない。


『試しに能力を使ってみるか?』


 未だ得体の知れない能力だし、出来れば実験してからが良かったが、だが、使う他ない。早くも同学年の者に手の内を明かすのは癪だが、致し方ない。

 ガタリは七罪の悪魔と名乗った。七罪とはなんだ?ガタリのことだし、心配でしかない。皇輔は今までの記憶を蘇らせ、脳を最大限に使って構築していった。


(七罪、、、七つの大罪とは何だったか。傲慢・憤怒・嫉妬・暴食・怠惰・色欲・強欲の七つだ。キリスト教における持つべきでない欲。つまり、七種類の能力を発揮できると推測して良いだろう。その内、今最もこの場に会う能力は、、、、、、分からん。第一、実験もしてないのに分かるわけがない。ええい、適当にこれだ!)


『能力、怠惰発動』


 言葉は自然と口に紡がれ、皇輔の意識は暗闇と共に眠りについた。


 ――――――――――――――――――――――――



『、、、、、、、、、』

『どうしたァ?腹でも下したかぁ?』


 皇輔が急に黙ると、トットラートはより警戒を強めた。軽口を叩いたのは、相手の強さが分からず、戦力が半分に減ることがこの状況下で痛手となるからだ。そして運が悪いことに、巡回しているゴーレムの一体がミシリミシリと床を軋ませながら、刻一刻と近づいてきている。


『使うかァ?んでもなァ、、、、、、、、ってオイオイ』

『Oooooooooooooooooooooooooooooooooooo!』


 侵入者を発見した石像は、窓硝子が割れるかと思う程の音量で雄叫びを上げ、その戦士たる剛腕を振り上げている。人の創りし、人の紛い物。其れは軈て創造主に牙を剥き、処理しきれなくなったガラクタ。制御を失った彼等は、たとえ悪魔であろうとも操れはしない。一部を除いては。


「Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!」

【煩い。黙っていろ】

『あァ?!なんだこりゃァ?ボロボロんなって崩れてきやがるぜェ』


 いきなり、目の前の敵が滅びていく様をトットラートは唖然として見ていた。強靭なる土塊は、その見た目に反して儚く崩壊する。やがて砂塵となった其れは、山を成して沈黙した。

 そして、後には圧迫するかのような魔力を惜しむことなく噴出させる皇輔が佇んでいた。

 悪魔の実力を見分ける方法は幾つか有る。角の長さ、種族、家柄、そして魔力。自然体での魔力の勢いが、量が、支配力が、その悪魔の格を、力を、実力を決定する。正に今の皇輔の魔力は、魔王そのものであった。


(わからねェ。わからねぇぞ?何故あんな奴が学生で収まってんだァ?もう、学園の管轄の範疇にねぇぞォ?下手すりゃァ国が動くぜェ)

【あァぁァぁァ、、、。未だこの依代に慣れてないからかなぁ。なんか魔力が出しづらいや】

『コウノスケ、、、、?いや、声が違ェ。悪魔ですらねェ。何者だァ?』

【つーかさぁ、僕を最初に呼び出すとかあり得なくない?怠すぎ。折角奴から離れて寝れると思ったのにさぁ】

『俺の話を聞いちゃいねェなァ。第一、その前にこっから出ないとじゃねェかァ?』

【ん?うーん。そうだな。こんな息の詰まる所じゃ、ろくに昼寝もできない!】


 そう言うと、皇輔の形をした何者かが拍手と同時に魔法陣を五機、展開する。色彩は紺色で、其れはトットラートが見たことがないものだった。不規則に廻り、五つの歯車は互いに噛み合って動き出した。


『んーーーーそこ!』


 ガシャリと音が鳴り、紙の切れ端がクルクルと落ちた。隠蔽系の魔法に、質の悪い悪戯魔法を重ね掛けされていた様だ。気持ち悪い魔力の原因は其れだろう。

 何より、このだだっ広い寮の中で的確に魔法の触媒を見つけ出し、撃ち抜くのは至難の技である。つまり、確実にトットラートの目の前の何かは普通の者ではない。


【だるぅーーーー。んじゃ、後は任せた】


 昇り上げていた魔力が嘘の様に萎むと、いつもの皇輔に戻った。一体全体何だったのか。彼の中にはいったい何が潜んでいるのか。そのどちらも、トットラートには知る術がない。取り敢えず、彼は保留することに決めた。


『、、、、終わりましたかね。では、行きましょうか!こんなふざけた真似をした者に制裁を下さなくては!』


『、、、、なんか元気だなァ。それより、コウノスケ。お前何やったァ!さっきのは何だァ?!』


『さぁ?私にも分かりませんよ!気付いたら終わってたんです!ほらっ!さっさと動く!』


『あァ?待てよォ!未だ出られるか分からねェだろうがよォ』


『出られます!既に魔法、罠、敵影は見られませんので!』


『つーか落ち着けェ。急にやる気にみちはじめやがってェ』


 ふと、トットラートは髪を数本抜き、床にばら撒いた。髪の毛を媒体に、先行魔力を送る算段だ。先程のコウノスケ程ではないが、なかなかに感度は高い。かなりの確率で罠を割り出せる。だが、使える悪魔は少なく、大体は本能的な勘で解決する者が多く、使用頻度の低い魔法だ。其れを使えるということが、トットラートの器用さと几帳面さを表している。全く、見た目に反していると、皇輔は思った。


『終わりましたか?』


『あァ。それどころか、外に悪魔の反応が結構あるぜェ。こりゃあ、先に出てきたヤツどもかァ?』


『まぁ、脱出に適した魔法を持つ者もいるのでしょうよ。下手に居なくても、其れはそれで私たちが偶然秀でていただけです』


『あ、そういえば落ち着いたかァ』


『えぇ、失礼しました。久方ぶりの戦闘に興奮してしまいました』


 下手に真実は伝えられない。当然のように嘘をつく。


『戦闘っつうか、殲滅だったけどなァ?ほら、そこが出口だろォ』


 トットラートが指差す先には、解放されている赤茶色の大扉が道を空けていた。魔界特有の外からの僅かな光が外側から手を広げている。皇輔とトットラートは、然程これと言ってなく平然と入口を潜った。


『おぉ、一番乗りはやはり君達か。二席と三席。賭けは私の勝ちだな』


『チッ、今日は一発逆転の機会だと思ったんだけどな。他の愚図どもは未だ中か』


『今年は粒揃いですしねー。外しても仕方ないのでは?』


『お陰様で全部スッちまったよ。しゃーねぇ、またあいつらから巻き上げるかぁ』


『ほんとその趣味どうにかした方が良いよ。君に片想いしてる女性達から、金銭巻き上げんの。汚らわしい』


 皇輔達には目もくれず談笑?談笑なのか?仲が良いかどうか微妙な線で会話している。ひたすらに無視である。賭博してるし。ろくな者ではない。胸筋がかなり盛り上がっているのはやけに笑顔だし、口が悪くてこの中で賭博してたもう片っぽは恨めしそうに寮を見上げていて、最後のやつに関しては『汚らわしい』を連発していて煩い。


『やぁ、僕は君の先輩に当たるのかな。ゴトマスアー・ヤナラバキだ。宜しく。二席、三席くん』


『あぁー、俺はソスバルトカ・メイト。ところで、金貸してくんね?さっき賭けでスっちゃってさぁ』


『止めろ外道。未だ入学したての新入生を歓迎会をもって打ち解けさそうと言ったのは君だ。ソスバルトカ・メイト。第一、後輩に金を要求するとは何事か!また指導されるぞ?』


『はいはい。分ぁかってるって。指導はこの俺でもゴメンだ。あんなとこ、他じゃ見たことねぇぜ。新入生諸君を気をつけるこったな。下手したら死ぬし』


『そうだな。私も入った生徒と話をしたが、虚な目でぶつぶつと何か呟いていて、会話にならなかったぞ。おや?そろそろ集まったか』


 物騒な話題が飛び、いつの間にやら集合していた他生徒に動揺が走る。そりゃそうだ。先輩から、「この部活の合宿地獄だったわ〜」と後輩が聞かされているのとほぼ同じ感覚である。まぁ、私には関係ないだろうが。部活入ってなかったし、そんな感覚知らない。


『ご苦労、諸君!先輩一同の歓迎会は如何だったかな?楽しんでもらえたようだな!これで分かったと思うが、我々は君達とはかなり実力差がある。逆らえば、、、、頭の良い君達ならワカルネ?』


 先輩集団の中でも主将格であろう悪魔が前に出て、後輩を脅しにかけた。全く、舐められたものである。皇輔の背後から、(何様だ。年上如きが)という視線に圧せられる。鬱陶しい。しかし、一部を除いて未だ反抗できそうにない存在がいるのも確かだ。先程目立った三者を含めて。そんなこんなで、例の主将格は煩くも高らかに宣言した。


『因って、これより先輩と後輩の楽しい楽しい歓迎会二次会、恒例の手合わせ大会を開催しよう!』


 因ってとは何だっただろうか。皇輔の知り得る因ってとは、かけ離れてないだろうか。いや、かけ離れているに違いない。原因?なにそれ?高速道路を激走する暴走車か何かか?影も形も見えやしなかった。しかし、かと言って止めるわけにもいかない。先輩側は乗り気だし、後輩側も大多数が(先輩?殺す)と、躍起になっている。


『あァん?何でんな事しなきゃなんねェんだよ。殺すゾ』


『逃げんのか?』


『くっだらねえ挑発振りまいて粋がんなよ、アマチュアがァ。んなゴミにもなりゃしねェ実力で胸張れんならァ、俺ら後輩組が全員テメェら先輩ごとき一人ずつ捻んのなんて僅か一秒でも遅いぐれェなんだヨ』


 いやー、言うね。舌なんか出しちゃって。しかも満足げな表情までしてるよ。とても楽しそう。俺もやろうっと。


『失礼致しました。我々一同、心より謝罪させて頂きます』


 皇輔は静かに頭を下げた。後ろから罵倒の言葉が投擲される。小石も飛んできた。御辞儀の姿勢を緩める事なく避けるが。無論、本気で謝る気など微塵もない。先ずは社交辞令から始める。其れがラーンド師匠からの教えである。もう、師匠呼びである。


『ほう!三席君は先輩への敬いの心を持っている。素晴らしい心構えだね!』


『ですが、先輩方もお人が悪い』


『『『『『『『ん?』』』』』』』


『あんな稚拙な魔法では、余興になり得ませんよ。派手に警戒していた我々後輩が滑稽な鼠の様ではないですか』


『ほう?私達の用意した迷宮魔法が鼠捕り程度だったと?』


『はっはっはー。迷宮とは?御冗談を。あの様な愚鈍な魔法では、答えの分かっている阿弥陀籤にも劣りますよ』


 背後からの罵声は沈黙を通って、嬌声へと転化した。謝罪した時は『死ね!』『偽装二席が!』『怖じけんな雑魚!』が、あっという間に『いいぞ!』『言え言え!流石二席!』『抱いてえ!』に変わった。最後おかしい。


『さぁ、先輩方!本気で来てくださいね?さっきの子供騙しとは比較にならない、もんのすごーい魔法が見られるんだろーなー。楽しみだなぁー!』


 先輩vs後輩、二次会の火蓋は切って落とされた。というか、散々切り刻まれた。


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