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相棒が凶暴  作者: 猫山音王
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五話 授業

『新入生諸君、よくぞこの学園に入園してくれた。感謝の言葉をもって、この挨拶を終わらせていただく』


 、、、長え。何処へ行っても、この長さは共通なのだろうか。現在、皇輔は入園式に参加している。そこで、長ったらしい園長の話を延々と聞き流す作業に追われていた。途中から、あの白髪頭の馬鹿を縊り殺してやろうかという危険な衝動も湧いたが、何とか我慢して腰を痛めていた。


(いやはや、彼は何故ああも人の好奇心を海の底に沈めるような話題を持ち合わせて居るのかね)

『知らん。立場を下手に考慮して、威厳を保てるような話のネタを発見して失敗しているテンプレートなケースだ』

(退屈なことこの上ないな)

『同感』


 さて、今皇輔が腰を下ろしているのは、新入生の中で二番目に早い席に座っている。右斜め前の、右から二番目である。成績優秀者故に、寝るに寝れない。(まぁ、成績を残したのは皇輔ではないが)超絶先頭である。尚且つ、今の皇輔は学年順位第二席である。尚更、寝れない。背中から、ナイアガラ並みの汗が腰辺りに叩きつけられている。緊張感。何故こうなった。


『帰りたい』

(そういう訳にもいかないよ。これから屋敷に戻ることは殆ど無いから)

『あんな所でも、今なら恋しく思える』

(あんな所とは辛辣だなぁ)


 辛辣でなく、妥当な評価だと思う。この隣にいる緊張感。入園成績第一席、コルカッタ・リンシャレル。頭脳から戦闘力まで全てが完璧。悪魔の中でも、高侯爵家に位を置くコルカッタ家は例の十二破滅戦争において、最前線で大きな派閥として君臨してたとか。成る程、そんな名家なら美少女かつ才女がいてもおかしくないな。才能の女神が味方についている人生なんだろうな。恨めしい。


(悪魔だから、人生というのは違うでしょ)

『それにしても、悪魔の地位関係は不思議な形をとっているな』

(まぁ、私達からしたら普通なんだけど。人間にはあまりなじみがないかな)


 悪魔の階級制度は、人間と微妙に異なる点がある。細かい事は省くが、大雑把に言うとすれば各階級に高○○という中間の階級がある。各国で階級が決められているわけではなく、魔界全体で階級を決定している。その爵位を背負っているということは、相応の実力者なのである。


『そこまで昔の地球と差が無いんだな』

(基本的には、ニンゲンからこういう文化を取り入れたものばかりだから、あまり変わらないというのも頷けるんじゃないかな?)

『今の日本に階級制度がないから、なんだか変な感じだ』


 後は、時間が解決するだろう。

 其れにしても、隣の彼女は無表情だ。鉄仮面とは正にこのことだ。透明感のある肌は人間からはかけ離れたもので、幻想的な魅惑がある。毛髪は蝋燭の灯りを反射し、うすぼんやりと光っているように見える。瞳も底を感じさせない深みを秘めている。あまりの無表情さに何を考えているのか分からない。


『何て話しかけよう?』

(私に聞くなよ)

『というか、来賓のハゲ率高くないか?』

(何となく、威厳が出る奴らを集めたらああなった)

『偶然って凄いな』

(禿だから、話が下手なんだな)

『適当に選んだからだろ』


 そんなどうでもいい話は置いといて、周りが移動し始めたので、皇輔も動きだす。入学式会場が一階だったので、指定された五階の教室へ向かう。内装は石造りで、かなり落ち着きがある。天井からに吊られているシャンデリアは、仄暗く光を放っている。


『こんにちはァ』

『、、、、こんにちは』

『いやァ〜。此処はやけに暗いなァ〜』

『そうですね』

『、、、、、、同学年なんだから、敬語は止そうぜェ。俺はペカマク・トットラート』

『いえ、この方が話しやすいので。夛田皇輔です』

『コウノスケかぁ。変わった名前だなァ』

『そうなんでしょうか?確かに、似たような名前は耳にしたことはありませんが』


 突然話しかけられて、内心困惑しているが表面上は平静さを必死で保つ。此奴は誰なんだ?急にしゃべり始めた。無作法此処に極まれりだぞ全く。新緑の髪を短く整えている彼は、蒼い目をしている。かなりの高身長で、日本で見かけたら中々側に置いておきたくない雰囲気を感じる。


『それにその髪と目。真っ黒で凄えカッケェなァ』

『いえいえ、トットラート君の髪もかなり目立っていいんじゃないかな?』

『えェ?そんなにィ?照れるなァ』

『嫌味なんだが、、、、』

『ナニナニ?何の話?』

『俺は、こんな奴等と積極的に話さないとなんだよな』

(嫌そうだね)

『元々、人付き合いは余り得意じゃないんだ』

(ラーンドに教わらなかったのかい?)

『その人付き合いは、対象が目上の時だけだ。同年代の奴は練習してない』


 そんな事より、非常事態だ。どうやって会話を繋げようか?残念だが、皇輔の人付き合いにおける才能は一欠片も無い。尚且つ、そちら方面の努力もしてこなかったもので正真正銘のボッチである。


『アレ?ここドコだァ?』

(どうやら道を違えたかもしれないね)

『話に集中しすぎた。集合時間には間に合わないな。諦めてゆっくり歩こう』


 傍迷惑な存在を拾って、虱潰しに教室を回っていった。実験室、儀式室、闘技場などの様々な施設があり、正直言って多い。卒業までに、全ての教室を使い切れるか心配になる。


(おや?此処が教室かな?)

『そのよう『おっ邪魔しまーァす』行動が早いと言ったらいいのか、せっかちと言った方がいいのか』


 既に、横に長い机は他の生徒によって埋まっている。

 中はまるで監獄の様な石造となっていて、僅かに冷気を帯びている。完全に光が遮断されているせいか、生徒全員の顔までは把握出来ない。橙色の光を浴びて艶を帯びる教卓には、眼鏡を掛けた気難しそうな男性が此方を睨んで直立していた。


『貴様等、一体何処をほっつき歩いていた?』

『ん?そこ等辺』

『煽らないで』

『だってそうだろォ〜』

『先生が求めていらっしゃるのは謝罪の言葉です』

『あァ〜。悪いなァ、センセイ』

『すみませんでした』

『貴様等喧嘩を売っているのか?』


 彼はそう言うと、左手に大きな氷塊を出現させた。透き通るような表面には、自分とトットラートが湾曲して写り込んでいる。余程温度が低いのか、周囲の気温との差でミシミシと音がなっている。当たったら痛そうだ。


『死ね』


 物体が発射され当たる寸前、塊は停止した。トットラートはニコニコと笑顔でいる。まるで皇輔のすることが分かっていたかのように。


『何?、、、、、貴様等、何をした?』


 彼が出した魔法を霧散させ、皇輔は説明を始めた。


『先生の魔力をナタバラナハルの定理に沿って消し、私の魔力を滑り込ませただけですよ』

『、、、馬鹿を言うな。其れは魔力行路基本原則に反すると、三百年前に学会で発表された』

『魔力は魔法に変化した後は消すことができないというものですね。あれは魔力行路基本原則に見落としがあります。第56文目からの一行ですね。これが得意だった第八代目魔王様が残された”魔術消滅の暗号遺書”に記述があります。』

『ナァナァ〜。難しい話ばっかでつまんねェ』

『当たり前だ。八年生で学ぶ、未だ研究者が日夜検証を繰り返している内容だ。』

『大戦争の前の文献ですから、無理もないと思います。私もうちの執事に口頭で説明された程度ですから』

『ラーンド殿か。納得がいった。君、名は、、、、』

『皇輔。夛田皇輔です』

『学園長の関係者、第次席か。道理で。よく覚えておこう。コウノスケ君。さぁ、座り給え。そこの貴様もだ。第三席』


 衝撃的事実が発覚した。トットラートは入学時成績第三席らしい。先生方は目が腐り落ちているのか?こんな奴が第三席なんて世も末、いや、魔界も末だ。


『そんな馬鹿な、、、。ナタバラナハルの定理も知らない奴だぞ』

(言ったろう?学園における勉強はほとんど復習になるだろうと)


 あれ程急いで詰め込んだ意味は無かったとでも言うのか。何故やらせた。あの後、頭の中で覚えたものが単語がリピートしすぎて碌に寝れなかった。どうしてくれる。

 そうとも知らず、目の前の教師は話し始めた。


『それでは、早速だが授業を開始する。私語は厳禁、口を開いた者は即刻氷漬けにして摘まみ出すので、覚悟しておけ』


 何とも刺々しいが先の態度を見る限り、実力さえあれば文句は言われなさそうだ。かなりご高齢の老悪魔のようだ。けれどしゃんと腰は伸びていて、爽やかさと真面目さが自ずと伝わってくる。職員用の制服も、かなり派手ながら着こなしている。紫と桃色なんだが、、、。背後には巨大な黒板が、、、無い。何やら木の枝の様なものを取り出した彼は、空中に悪魔語を達筆に記していった。


『主に魔法学は防御魔法、語学は現悪魔語、魔数式学は過大魔力による魔法陣魔法への障害の証明が一年の内容だ。特に魔数式のこれに関しては、後の魔法学へ展開するので、要勉強する様に。赤点取得者は、、、分かってるな?』


 成る程、ラーンドに学んだ事の初歩の初歩だ。どれも丹念に積み重ねなければ、後々後悔することばかりだ。しかしあの教師、最初か飛ばしてきている。


『さて、序幕は語学。悪魔言語についてだ。当然のことだが、我々が今此処で使用している言語こそ、正に悪魔言語だ。人がこの言語になれるまでに数日はかかる。しかし、我々には長い歴史の末に多岐に渡って微々たるものだが、其々に特徴が現れてきた』

「重年分派語現象」

『その通りだ。第五席』

『先生ェ。何で別れたんだァ?』

『環境、習慣等様々な要因が考えられる。しかし、何をどうしようと根本は変わらん。まずは其処を徹底的に鍛錬し、各々の言語を学習していく』


 成る程、流石は老教師だけあって手慣れている。


『大元となった言語は"原初の語"と言われる。基本記号は363ある。全て暗記だ。この場で覚えろ』


 人間から見ればとてもではないが、一日で覚えられる量ではない。しかし、悪魔は吸収力や知的好奇心が人の幾倍もあるので、そこまで障害にはならない。周りも何事も無く終わらせる。


『此れは、魔法陣を構成する重要な基礎知識だ。復習して損はない。実際に使ってみるので、見逃す事なく観察しておけ』


 ラーンドは皇輔にこれを教えなかった。彼によると、『実戦の中で自ずと覚えます』だそうで、欠片も触れなかった。事実、直ぐに身についた。


『冷涼・雪原・氷柱・凍り、射殺す。氷の鏃氷の鏃(クルール・ハイト )


 目に見える魔力の流れが彼の左手に集束し、真っ白でアイスピックの様な鋭い形状を見せている。透明でないのは、彼が急速に其れを作り出したからだろう。氷が急速に冷やされると白くなるのは、かなり有名な話だ。彼は指先を隣のトットラートに向けた。すると、空気抵抗を削ぎに削いだ其れは一般的な動体視力では追いきれないスピードで発射した。


「大樹・深林・魔根・芽生え、防げ!樹木怪壁樹木怪壁(ワザルル・ガーゴン)!」


 突然、トットラートの前に飛び出したのは皇輔、、、ではなく、知らない生徒だ。紅い髪はかなり短い。目つきは男性かと見まがうほどに鋭い。勝気な印象だ。しかし、女性用制服を着ているからには女性だ。背は皇輔が低いせいか、かなり高く感じる。威圧感があり、近寄りがたい印象だ。彼女が唱えた魔法はシュルシュルと蛇が絡まり合う様に植物の蔦が壁を成し、担任の魔法を見事に防ぎきった。皇輔が反応できなかったと見たのか、彼女は嘲るように鼻で笑った。


『ふむ、第四席は植物魔法が得意か。見事。初級とは言え、私の魔法を防ぎきるとは想定外だ。第五席も、第四席が使う魔法を即座に判断して火炎魔法を繰り出そうとしたな。素晴らしい。一年にしては良く出来ている』

「ありがとうございます」

『恐縮です』


 第五席と呼ばれたのは男性の悪魔。緑の長髪を紐で一括りにしている。中肉中背の彼はもう興味を失ったのか、持っていた本に集中し始めた。

 

(今年は豊作だな。第三席の実力は未だに分からないが、、、。まぁ、追い追い目にすることになるだろう。これなら或いは、、、、、、、、)


 そう、皇輔の中の悪魔がほくそ笑んでいる間、トットラートはというと、


『、、、よく寝たァ』


 起床の余韻に浸っていた。







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