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蒲公英色のハツコイ。  作者: 春風 里蘭
9/12

蒲公英色のハツコイ。 episode8

「あーらーん…っ!」

 橙珠と雪樹に後ろから呼び止められた。空藍はちょうど職員室から帰る所で、初夏の雲ひとつない広い空を眺めながら廊下を歩いていた。

「…っびっくりしたぁ!もうっ!脅かすなよ…っ!」

「へへ…っ。お前がぼぉーとしてっからだろ。それにさぁ、中間テストも終わったし、遊ばね?」

 橙珠が子どもみたいにはしゃいだ。

「…ふふ。その話してたんだよ。今日空いてる?」

 雪樹は大人っぽく微笑みながら空藍の予定を聞いた。

 この二人は本当に対照的だと空藍は思った。雪樹は事実、年齢を言うとみんな驚く。そしてあまりの可愛さに女の子に間違えられる。

「…っと、今日?急じゃね?ってか部活あるから無理かな。悪い…。」

 二人の真ん中で答える空藍に二人はぽかんとしていた。

(…え?何?俺なんか変なこと言った!?)

「…何?」

「…あのさ、せっかくやる気になってるとこ悪いんだけど、今日、職員会議で部活ないはずだよ…?」

「…っえ?」

 驚愕の事実に空藍は思わず声が漏れた。

「…っやっぱ忘れてたのか。お前、せっかく部活ないのに全然嬉しそうじゃねぇんだもん。」

 未だに呆けている空藍に、橙珠は呆れ返って溜息をつき、雪樹はふふっと笑った。

(…部活、あってもいいんだけどな。それに、まだ先輩の返事聞いてない…。)

 福が聞いておくと言った日からもう一週間も経っていた。空藍は我慢ができず何度も蒼生に直接聞こうとしたが、福の好意を無駄にするべきではないと考えて辛抱した。

「…で?もういいから、予定空いてる?」

 空藍はよく、人の話をきいてないような素振りをする。橙珠はその様子を見てわざと大きな声で空藍に尋ねた。

「…っあ、遊ぶんだよな。えーと、今日は何にもなかったよ。うん、遊べる…っ!」

 橙珠にキレられるのは時間の問題と察した空藍は、慌てて答えた。

「…っしゃあっ!じゃ、決まりな〜。」

「やったぁ。僕、三人で遊ぶの楽しみだったんだよね。」

 空藍の返事を聞いて二人は、ぱぁっと明るくなり、小躍りした。

(…そんな喜ぶか?でも、まぁ高校入ってからろくに遊んでなかったし、三人で遊ぶのも初めてだよな…、いつまでも浮かない顔してるのも良くないよな…っよしっ!気分転換にもなるし、思いっきり俺も楽しもう…っ!)

 この三人は単純なのだろう、感情が表に出やすく色々なことに影響されやすい。まぁそういう正直なところが三人の良いところなのだが…。


 空藍と雪樹は、橙珠が生徒会室から帰ってくるのを校門前で待っていた。しばらくすると、息を切らして走って来る橙珠の姿が見えた。

「…っはぁ、はぁ、悪いっ!待たせた…っ。」

「全然。それより大丈夫だった?」

「うんうん。急に呼ばれてたよね。」

「…あー大丈夫だよ。大したことねぇから…。」

(…なんか、ちょっと…。)

 空藍は普段はハキハキと喋る橙珠の曖昧な返事に違和感を感じたが、既に嬉しそうな顔ではしゃぐ橙珠に聞き返すことは出来なかった。

「っしゃあっ!遊びに行こうぜ…っ!」

「えーと、羽鳥駅ら辺?ゲームセンターとかあるし。」

「うん、いいね…っ!」「そうだなっ、じゃっ決まりな。」

 雪樹の提案に二人とも賛成した。軽い足取りで学校から出る三人の後ろ姿は、高校生らしい爽やかさとあどけなさとが入り混じり、陽の光にも負けない輝きを放っていた。


「…っと!あーもう…っなんで獲れないんだよっ!」

 空藍は、大きなうさぎのぬいぐるみをクレーンゲームで獲ろうとしていた。

 横では雪樹が、どんどんお菓子やキーホルダーやら色々なものを獲って、嬉しそうな顔をしながら、何やら三つの袋に獲得したものを分けていた。

 その様子を見て空藍は、雪樹に助けを求めた。

「ねぇ、ゆぅーきぃー手伝ってー。あともう少しなんだけどなぁ…。」

「…ふふっ。いいよ。」

「ありがとう…っ!」

 子どもっぽく騒ぐ空藍を見て雪樹は、少し笑いながらクレーンゲームのガラスに手をついた。

「ん、任せてっ!」

 そう言いながら雪樹はボタンに手をかけた。その指さばきは見事なもので、空藍は驚嘆の声を漏らしながら見ていた。

 うさぎの首元が引っかかり、重さで下に落ちた。雪樹はなんと1回で獲ってしまったのだ。

 雪樹がする前に空藍が騒いでたからというのもあるが、この鮮やかな動きを周りにいた人達が集まり、皆んな口々に驚きの声を漏らし、感心していた。そこに橙珠が加わり更にギャラリーが増え、いつのまにか雪樹の周りに人がごった返していた。

 さすがに店にも迷惑だと悟った雪樹は、二人の手を引っ張って外に出た。

 何も言わずに手を引っ張られた空藍達は、驚く間も無く連れ出され、呆然としていた。

「…えっ?ちょっ、なに、」

 雪樹は二人の態度に驚いていた。

「…お前なぁっ!びっくりするだろうが…っ!」

 橙珠はややあって、雪樹に怒鳴った。空藍は相変わらず呆気にとられている。

「ご、ごめん。凄いでしょー!えへへ。」

 全然反省していない様子の雪樹に、橙珠は溜息をついた。

「もう、いいよ。はいはい、すごいすごい。」

「ちょっと、適当に返事しないでよ〜。」

「なに言ってんだよ…。お前がいきなり引っ張り出したんだろうが…っ!文句ねぇだろ?」

 ヘラヘラしている雪樹に、怒り口調で橙珠は言い放った。

 雪樹が言い返そうとした時、今までぼぅーとしていた空藍が二人の間に入った。

「ちょっ、二人ともやめろよ…っ!こんなことで喧嘩になんなっ!」

 空藍はたまに的確なことを言うことがある。二人は言い合っていた口を閉じて、お互い謝った。

「…っあ、そうだ!今から僕ん家来ない?」

 雪樹が何かを思い出したかのように言った。

「お前ん家か、行く行く!俺行ったことねぇわ。」

 橙珠がキャッキャと騒いだ。

「俺もあんま行ったことない。いいねっ!何する?」

 空藍も同じように舞い上がり、雪樹の肩に腕を回した。

「こいつん家ほんとデケェから。」

「マジで!?早く行きてぇ〜!」

「ちょっと空藍っ!ハードル上げないでよ。大したことないのに…。」

「はぁ?デケェじゃん。高層マンションの最上階だろ?」

「お前っ、一人暮らしなのにそんなとこ住んでんの!?」

 橙珠は驚いて後退りした。雪樹は二人に騒がれて、恥ずかしそうに顔を隠した。その様子は友人でさえドキドキするほど可愛らしく、女の子に間違えられるのは仕方ないと二人は感じた。

「お前ってさぁ、なんか護身術的なのやってんの?」

 橙珠は気になって雪樹に尋ねた。

「なんで?そんななしてないけど?」

 雪樹が不思議そうに答える。それを見てさらに不思議そうな顔で橙珠が尋ねた。

「…だってさぁ、お前って狙われそうっていうか、ぜってぇ狙われんじゃん?なんでかなぁって思って。」

「…たしかに。俺も気になる。」

 空藍も同感して雪樹を見た。

「…案外僕みたいな好みの人って少ないと思うけど…?ほんと、何にもしてないし。」

 雪樹は困ったように否定した。まるで、何か隠しているような―。空藍はそんな風に感じた。


 いろいろと話しているうちに、高層ビルの通りを抜け、高層マンションが立ち並ぶ通りに出てきた。

「ここだよ…っ!」

 雪樹が指をさした先には、60階はあるだろうマンションが腰を据えていた。マンションのエントランスには統一感のある家具が置かれ、いかにもセレブがいそうな雰囲気をかもし出していた。

 橙珠はぐるりと首を回してあたりを見渡していた。

(デケェ…想像してたのよりもっと凄い。)

「…ふぉぁ〜。」

 橙珠は意味をなさない吐息のような声が漏らして、一驚を喫していた。

「早くっ!こっち!」

 雪樹に促されて二人はエレベーターに乗った。

 一軒家に住んでいる空藍と橙珠には、最上階まで一気に昇っていくのが雲の上へ行きまるで羽ばたいているような心地だった。

 部屋に辿り着くと、雪樹は「どうぞ。」と部屋に案内した。


「で、何するの?」

 空藍は改めて同じ質問をした。

「ふふ。実はねー、今日は空藍の悩み相談会をするつもりなんだ。」

(は…?何言ってんの?)

 空藍は意味が全く理解できず、困惑した。

「…ッ俺はこんな回りくどい事反対だったんだけどな、コイツがその方がいいってしつけぇからさ…悪い、お前の様子が最近おかしかったからよ…。」

 申し訳なさそうに橙珠が言った。

「…えーと、つまり橙珠もそのつもりでずっといたってこと?俺ってそんなに悩んでる風だった?」

「あーそうだよっ!黙ってて悪かったけどちゃんと相談しろよ…。なんていうかお前…ファイルじゃん…なんかあったら俺らに…っえ!?」

「…っぐすん、っお、俺ぇ、俺っ、もうよくわかんないんだ…っっ。どしたら、どうしたらいいのかわかんない…っ!」

「お、おい。大丈夫か!?…ッやっぱなんかあんじゃねぇか。どうした?泣くほどのことか?」

 橙珠は涙がポロポロ出ている空藍に驚き、慌てて声を掛けた。

「空藍…。よしよし、何があったの?僕たちがちゃんと聞くから話して?」

 雪樹はまるで幼子を慰めるようにして、優しく空藍の肩をさすった。

 空藍は二人の優しさを心に纏いながら、雪樹に促されるままに鍵を外した口を開き始めた。














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