蒲公英色のハツコイ。 episode4
「以上、来週からよろしくお願いします。」
「はぁ〜やっと終わった。」「帰ろ〜。」
「話、なげえんだよなぁ。」「結構忙しいみたい。」
教室では、愚痴やため息が聞こえてきた。空藍は体育委員になったのだが、今日は最初の集まりで、予定より30分も長くかかった。
(部活、遅れるなぁ。みんな委員会だから大丈夫かな。)空藍は別段焦りを感じずにグラウンドへ向かった。
(げっ!ペア練習始まってるよ。うわぁ、先輩怒ってるかなぁ。)さっきまでの余裕はどこに行ったのか、全力疾走する空藍の姿はあからさまだった。
案の定、蒼生の態度はかなり悪く、怒っていた。
「はぁ…はぁ、遅れてすみません!はぁ…はぁ、先輩。」息を切らして空藍は頭を下げた。
「遅ぇよ!ったく、遅れんなら言えよ。」蒼生は空藍の頭を小突いた。
甘い考えをしていた自分を反省したのかもしれない。空藍には対して痛くもなんともない拳骨が痛く感じた。
「おらっ!早く始めんぞ!」
いきなり手を引っ張られた空藍は、「うわぁ!?」と素っ頓狂な声を出した。
「んな驚くなよ、面白ぇ。」蒼生は楽しげに笑った。
(よかった…やっと笑った。先輩の笑った顔ってなんかいいな。)(は!?何考えてんだ俺。いいってどう言う…)頭に浮かんだ思っても見なかった考えに動揺した。(いやいや、集中集中!)空藍は自分の頬を軽く叩いて気合を入れた。
「お疲れ様でーす!」「おう!ご苦労さん。」
「さようなら。」「また明日な。」
グラウンドのあちこちであいさつが交わされている。
空藍はいつものように蒼生と校門まで一緒に歩いていた。
「お前さぁ、今日の遅れたのって委員会だけか?」
今日の相手は誰だろうと考えていた空藍は、不覚にもまた驚いてしまった。
「えっと、何がですか?」
「だから遅れたのって委員会だけじゃないだろって言ってんの。」
心当たりのない空藍は首を傾げた。(どう言う意味なんだろう?委員会以外に何があるって言うんだ?)
「えっと、あの、委員会だけですけど?」
「あっそ、まぁ言いたくねぇならそれでもいいけど。」蒼生は拗ねた子供のような口ぶりだった。
「どういう意味です?ちゃんと言ってください!」
蒼生の態度に納得のいかない空藍は、思わず蒼生の手を掴んでいた。
(うわっ凄い手。大きい…。)
蒼生の手は空藍よりひと回りも大きく、そのがっしりとした手は所々に傷やマメの跡があった。その姿は空藍の鼓動を速くさせた。
(何でドキドキしてんだよ俺、別に先輩のこと好きってわけじゃ・・・)(いやいや俺、今何て考えた?あーもうなんかめんどくさい!先輩といると調子狂う。)
ちゃんと言ってと言ったものの、意味のわからない胸のドキドキに振り回されて、どうでもよくなっていた。
「だから、誰かに抱かれたかって聞いてんだよ!」
「何でそうなるんですか?」
「あーもう自覚ねぇのかよ!お前がかわいいからだよ!」
蒼生は少し苛ついているようだ。
「何ですか?また俺が鳩だからっていうやつですか?生憎、俺は先輩と違って節操なしじゃないんで。」
「用が済んだんなら俺帰ります。先輩、お疲れ様でした。」
空藍は1回も目を合わせずにお辞儀をして、早歩きでその場から立ち去った。後ろから蒼生が何かを言っていたが、怒っている空藍にはそれが聞こえないようだった。
(何なんだよ!バカにしやがって!大体なんで先輩が俺のことにいちいち首突っ込むんだよ。どうせどうでもいいくせに、俺のことなんか…。)気づけば空藍の頭と足は暴走していた。
家に着くなり空藍は自分のベットに転げ落ちて枕に顔を埋めた。
(別に俺だって好きで童貞してるわけじゃないし、俺だってフェイルじゃなかったら…。)もちろん、蒼生が空藍の身の上を知って言ったわけじゃないだろう。しかし人一倍悔しがりな空藍は、勝負する前から負けたようで腹が立った。しかし一番腹が立ったのは自分自身だった。
(気にしないって決めたのに…みんなと変わらないって…。)
身の上を恨む自分に空藍は腹を立てた。そして拳を握りしめ、枕の上で力いっぱい涙を流した。
「先輩にはやっぱりわかんないんだよ。」
いつのまにか空藍は、泣き疲れた子どものように静かに眠ったまま朝を迎えようとしていた。






