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世界の果てへ  作者: 上代
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出会い


「おはようございます」


いつもと変わらない時間に声が聞こえた。


ゆっくりと目を開ける、最初に目に入るのはいつも決まって時計だった。


「午前7:00、朝でございます。」


少し視線を動かす、真っ白な部屋、何もない無機質な部屋、自室。


体を起こし声のする方をみる、そこにある時計には7:01と表示されていた。


「おはようございます。」


もう一度声が聞こえた、いつもと変わらない声が時計から発せられていた。


「午前7:01、朝でございます。」





日常というもに変化なんてものはなかった。


毎日同じ時間に起き、同じものを食べ、同じことを行い、同じように眠る。


変化があるとすれば毎日読む本の内容だけだろう。


それだけが唯一の変化だった。


「本日の朝食でございます。」


食堂へ行くと、まるで出来たてのように湯気の上がる料理が机の上に乗っていた。


朝だから思考が鈍っているからなのか、それとも何も変わらないからなのか、考えなくても体は動き椅子へと座っていた。


銀色に光るスプーンを取り、目の前の食事へそれを伸ばした。


口に含んだところで味に変化なんてなかった、いつもと同じ味、同じ温度、同じ食感。


少し食べ進めているといつもと同じタイミングで声が響いた。


「本日の内容です。ご確認ください。」


いつものようにテーブルの脇には一枚の紙が乗っていた。


そこには今日一日の内容が綴ってあるが、内容に変化なんてものは殆どなかった。


いつもと変わらない起床時間、食事時間、入浴時間、就寝時間、分刻みで書かれている時間も毎日同じ数字が書かれていた。


唯一違うことは勉強時間に読む本のタイトルだけだった。


だが、そこすらも内容が長い本出会った場合はタイトルの終わりの数字が違うだけで変わりなんてなかった。


内容を確認し、朝食の残りを食べる。


何も変わらない、変化なんてものは存在しない毎日。


今までも、これからも変わらない日常。


通り過ぎるように続いていく日々。


何も変わらなかった昨日。


変わりのない今日。


明日も、きっと。


変化なんてものはこの世に存在しない。


同じ服をきて、いつもと同じ時間、同じ場所へ向かうため扉から出た。


何も変わらない、気温さえも天候さえも光の強さも風の強さも室温も景色も音も色も何もかも。


この日常に変化なんてものは存在しない。


しないはずだった。



唐突にその音は響いた。


唐突に響く轟音、わずかに強く体に当たる風、嗅いだことのない匂い。


初めてだった、こんなに日常が変化したことは。


ふと、音がした方を見る。


ほとんど真上だった、真っ白な空の一部から煙が出ていた。


白の中の多種多様な灰色で動きのない空で唯一蠢く煙、落下してくる空の欠片。


それは紛れもない変化だった、何もない日常が少し変化した。


生まれて初めて驚いた、こんなにも目を開いたのは初めてではないだろうか、こんなにも呆然としたのは後にも先にもこれが最後だろう。


そう思った。


次の変化はあまりにも突拍子もないものだった。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぁぁぁぁ」


最初は視界の変化だった、何か色の付いた小さいものがそこにはあった。


「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ」


次は音の変化だった、今までに聞いたこともない高い声が徐々に大きくなってきているものから発せられていた。


「あああああああああああああああああ、誰かああああああああああ!」


最後は思考だった、初めてまともに考えることができなくなった。


それは人だった、人が空にいたのだ。


人は空から伸びる紐を掴み、叫んでいた。


「誰か、誰かいませんか!、ごめんなさい、勝手に入って勝手に壊したの謝ります、だから助けてください、落ちる、落ちて死んじゃうから!、誰かぁあああ!」


どうすればいいのか全くわからなかった、思考は今起きている変化についていけず、ただその光景を見ていた。


「誰もいないの、ホント落ちるから、死んじゃうから誰あ!」


光景の変化は一瞬だった、叫んでいた人が落ちてきたのだ。


思考は働いていなかった、何が起きているのか理解さえできたいなかったかもしれない。


だから、その言葉が何故出てきたのか理解できなかった。


「危ない!」


無意識に手を伸ばした、もう少しで自分の少し前方に落ちてくるであろう人に向けて。


初めて自分の意志で行動した。







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