お姫様はたいへん気に入ったようです。
遥か遠く空の最果てには、
天空の豊国“ティミル”があるといいます。
それはまさに楽園。
食物はよく育ち、水は清く、空気は澄み
そこに住まう人たちはみな長命だと。
誰もが不満も敵意も孤独もないと言います。
ですが、一人だけ、異を唱える者がいました。
王国王女、お姫様です。
お姫様は申します。
『こんな何もない空にはウンザリよ!』
高く澄んだお声は国全体に響き渡ったそうです
「お嬢様、お食事をお持ちしました。」
閉じこもったお姫様に使用人たちが毎日話しかけても、お部屋からは生返事しか返ってきません。
「いらない、お腹すいてない。」
王様とお妃様は、すぐに出てくるようになるだろうと、放っておく事にしました。
ですが、何日経ってもお姫様はお部屋から出てきません。
お姫様は、この空の国を出ようと考えていたのです。王宮の皆が寝静まった夜中に、一生懸命に資料を探した末、ある書物を見つけ出しました。
それはこの王国が作られてすぐに書かれたもので、当時の王国の全てが記載されていました。
これを読み、お姫様は思いつきました。この空から旅立つ方法を。
“方舟”を使えば出られるのでは?
方舟は嵐の中でも揺らぐことなく進める魔法の神器。
(宝物庫の奥に眠るそれを使えば、私はここを出ることができる…!)
3日後、方舟に乗って国を出る…!
食料、着替え、宝物庫から外までのルート、
そして、方舟の鍵。
3日後、王宮の扉を破り、大きな汽笛を鳴り響かせ、
眩い朝日が登った空を飛んだそれは
誰もが見とれるほど美しい、
白鯨のように真っ白な_____でした。
時遡り、地上の王国。
「エリサム・ティルアステット。貴殿は王の意向に背むき。命令を無視。更には、自らの身分もわきまえず姫君にいいよった。王族裁判の結果、被告人は有罪!王国追放の刑に処す!」
裁判長は静かに、冷徹な目で俺を見下ろす。
その後方で肘をついてこちらを睨んでいた王は、いつの間にか消えていた。
群衆が口々に何か言っている。「愚かな若僧じゃ。」「あの憎らしい目つき、何をするかわからないわ。」
「さっさと消えろ。」などなど、もはやそんなことはどうでもいいが
姫が協力してくれなければできなかっただろうな。
" 国王に逆う ”
つまりは反逆罪。晴れて俺は外に旅立てた。
死刑とかにならなかったのは運が良かった
もうあんな国には二度と戻らない。。
だがしかし、国を出て1週間。
「行くあてがない・・・。」
手持ちはそれなりにあっても俺は飛空士。それ以外の心得も資格も持ってない、飛空士の仕事なんて国の偉い人に仕えるとか、そんくらい。
既に俺の名前は広まってるし、
(寄った街の新聞に載っていた。)
「これからどうするかなぁ」
丘に停めた空泳艇を背に思考回路を巡る。
いっそ運び屋でもするか、いや、給金が安定しないし、機体がもたないかもしれないし。。
次の仕事を考えながら何気なく空を見上げると、雲の合間に光る何かが見えた。星にしてはまだ日は高い、、あれは…
雲を切り裂き、姿を現したのは«蒸気機関車»だった。
落ちてる?なんだって機関車が空に、それ以前にあの機関車が向かってる方向には村がっ
((やるしかないよ?アステット?))
頭に直接入ってくるような音の主が楽しそうに口角を上げていることが容易に想像できる…。
「やるから手加減してくれよ…?」
みすみす見逃してたら、あとのパンが不味くなる。
「精霊よ、我が言の葉聴きとどけよ」
呼吸を整え、詠唱を始める。
両手を機関車に向け、準備は完了。
イメージは完璧、あとは貧血にならないかどうか。
「天空の妖精よ、風の民よ、
望みは村の守護。代償は我が生き血。
儀式の贄より聴き入れ、飛来する災厄を退けよ!」
______辺りに鋭い風が吹き荒れ、砂を巻き上げながら機関車に渦巻いていく。
突如。機関車は方向転換しこちらに向かってくる__?(話が違う、たしかに村を守れと望んだが!何もこっちに寄こせなんて望んでない!)
俺は無意識のうちに回れ右して駆け出す。
空泳艇にはギリギリ当たらないだろう…。
ドゴォンと騒ぐ、轟音と共に地面へ機関車が不時着した。地は抉られ、車体も無残にボロボロだ。
ふと、機関車に近寄り、気づいたことがある
白いボディに青い装飾の数々、これを仕上げた職人はかなり腕がたつのだろう、車輪からとても古いものということは素人にもわかる。この微細で丁寧に付けられた装飾は一つ一つが羽を表し、それが集合体となってある角度からは大きな翼が生えているように見える。これは芸術品だな。
「…い、いったいなぁ、もぅ。このオンボロ神器!ちゃんと飛んでよぉ、むぅ。。」
(人?人が乗っていたのか…?)
動揺を隠せずにその場で硬直していた俺の視線と、機関車から出てきた少女の視線が不意に交差する。
黄金色の長い髪は日が当たって眩く輝き、驚きと困惑が入り混じった、大きな夕焼け色の瞳が俺を射す。肌は白いが唇と頬の辺りがほんのり桃色に染まっていることからまだ幼さを感じさせ、なにより整った顔立ちに健康そうな顔色から、明らかに貴族、あるいは王族の家系であると推測できる。
「…き、君は誰?どうしてそこにい、るの…?ぁ、わ、わたしは空から来た!ここはチジョウで間違いない、かね?」
(…どうしよう、言葉使いが明らかに不自然だ。身分を隠そうとしてるのか。まず空から来たという点で疑問を投げかけたいが、明らかにそこの機関車が飛んでる?のを目撃したわけだし、かなり真剣に聞いてきてるから、この娘マジなんだろうなぁ、、とりあえず)
「俺は"エリサム・ティルアステット゛飛空士だ。散歩してたら機関車が落ちてくるのが見えたから来てみたんだが、今お前が出てきてすごく困惑している。」
両手を軽く挙げて愛想笑いをする。敵意はないという意思表示だ。
「わたしの追っ手ではないのね…?」
「追っ手?なんだかわからないけど違うぞ。」
(…追われているのか)
そこまで話して緊張が解けたのか、彼女は地面に座り込み大きく息をついた、そのときだった、突如キュゥっと何かが鳴った、音の主はこの少女。顔を赤らめてお腹を抑えている。。
「…とりあえず、ご飯、食べる?」
「・・・お願い、します、、」
「何これ、パンはパサパサしてるし卵は甘すぎるし何より紅茶がぬるいわ!どうやったらこんなことができるのかしら。」
「料理に関しては全く無頓着で。」
俺は何気ない顔でたまごトーストを頬張る。
たしかに、美味しいかと聞かれれば答えづらいものがあるが。もう少しましな言い方はないのだろうか。
「これなら父の方が幾分マシよ。大して変わらないけれど。」
少女は愚痴をいいつつもよく食べ、
俺の食料はジリジリと減っていく…
「口調、戻ってるけどいいの?」
少女はパンを皿に置いて答える
「見たところあなた1人みたいだし?私の素性も知らないのだから全く問題ないわ。」
そう言い終えて、少女は紅茶を飲み干す。そこまで不味そうな顔をされると、さすがに傷つくんだが…
「そうだ、あの機関車はなんだ?そしてお前が空から来たのは本当か?」
少女は少し考える素振りをしてから、はっと思いついたようにこちらに身を寄せてきた。
「話す代わりに私の頼み、聞いてくださいな?」
「…それによる、と言っておこう。お前の頼みとは?」
真顔をつき通し少女を見る。
「そなたはわしの情報を売ったりせぬな?」
静かに見透かすような目つきに変わった少女を見て、もしかすると大変なことに巻き込まれているのではと思いつつ、好奇心は揺るがぬものらしい。
急に口調が変わったのは触れないでおこう。。
「そんな商売はしてないしする気もない。」
少女は何を思ったのか、少し笑みを含んで
「ならば良し!」と言って、
少し間を置き真剣な表情でこう言った。
「私と一緒に、旅をしてください!」
…これが、頼み?突然の誘いに困惑する、今は仕事もないし見知らぬ少女を連れて旅なんてリスクが大きい、だが予定や目的があるわけでもない。
しばらく考え込んでいると不意に少女が口を開く
「ごめんね、そんな悩ませるつもりはなかったんだ。忘れて…」
そう言って幼い顔に作られた笑顔は、心なしか寂しそうに見えた…ダメだ__
「…待て」
そのまま去ろうとする少女を、俺は無意識に引き止めていた。変な話で、それに利があるとは思えない。
でも、このまま放ってはいけないと思う。
「その頼み、引き受けよう。」
振り返った少女の瞳は、わずかに涙で濡れていた。
お読みいただきありがとうございます!
キャラクターがやっと動いてくれました。
個人的には展開が早すぎると思ったのですがどうなのでしょう…
何はともあれ第2話ありがとうございました!
まだまだ続けさせて頂きますのでよろしければお付き合いください!