1話 カイドウ爆誕‼︎
気がつくと目の前は草原だった。
生まれて初めて買ったコンビニおでんの、だし汁がたっぷり染み込んだこんにゃくのうまさに驚いていた直後の出来事だ。
とりあえずこんにゃくををもう一口、しっかり噛んで飲み込んだあと落ち着くために深呼吸、そして一言。
「ここはどこだ?」
普段は独り言なんて言わないが、理解不能なこの状況に思わず声が出た。
まずなんで草原なんかにいるんだ?
たしかおれは姉と喧嘩して家を出て行き、その後ポケットに入ってたお金でコンビニおでんを買いコンビニの前でそれを食べた、で気づいたら草原にいた。
そんなことがあったと誰かに話したら笑いながらバカにされるだろう。
しかし事実おれはいま草原にいる。
鼻で息をするたびに入ってくる新鮮な空気、草を踏みしめる足の感触、間違いなく本物、夢ではない。
訳が分からない、どうしたらいいんだよおれは!
そう考えていると後ろから何かが寄ってきた。
後ろを振り返るとこの綺麗な草原に似合わない、汚い緑色のおっさんが立っていた。
異様に長い耳、驚くほど小柄で、見るからに悪そうな顔。
いつものおれなら一目散にに逃げだしたであろう。
しかし今は緊急事態、右も左も分からない中にあらわれた一筋の光だ。
相手を刺激するのは良くない、まずは挨拶からだ。
「ハ、ハロー」
おっさんは全く反応しない。
むしろ挨拶する前より目つきが鋭くなってきている。
これは獲物を狙う目だ、何を狙ってるんだ?
まさかおれの命なんてことはないだろうな。
これだな、きっとこれが欲しいんだな。
「あの〜、こんにゃく食べます?」
こんにゃくを箸で掴んで、相手に見せてみたがまた反応なし。
もしかして言葉が通じてないのか? それともこのおっさんはこんにゃくではなく大根の方が良かったのだろうか。
きっとそうだ、まだ今なら間に合う!
おれが急いで大根を箸で掴もうとしたその瞬間おっさんは凄い勢いでこちらに迫ってきた。
「おいおい、嘘だろ」
おれはおでんを地面に放り投げ、脱兎の如くおっさんから逃げだした。
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10分ほど走り続けただろうか、しかしおっさんは足を止めようとはしない。
おれの体力も限界に近づいてきた。
おれはこのおっさんに捕まって死ぬのかもしれない。
神様どうか助けて下さい。
これからはちゃんと学校に行きます、家の家事もしっかりやります、ポイ捨てもやめます、姉貴と仲直り・・・・は死んでも嫌だがそれ以外のことなら何でもします!
おれは走りながらそう祈った、今までになにないほど本気で祈った。
そして気がつくとおれは空を飛んでいた。
神はおれに味方したのだ!
と思ったが違った、おれが崖の上から下の海めがけて落ちていた。
周りがスローモーションに見え、崖の上ではおっさんが残念そうな顔で崖の下を覗いていた。
これが死か・・・・おれはここで終わりか、姉貴さえいなければもう少しマシな人生が送れたはずだ。
来世は東京のイケメン男子にして下さい。
なんてワガママは言わない。
ブスでもいいし、北海道の端っこでも構わない、何ならスラム街でもいい、だけどせめて一人っ子に、姉貴のいない人生を。
そしておれの人生は終わりを告げた。
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目を開けると天井には美しい装飾のシャンデリアがぶら下がっていた。
ここは天国なのだろうか、崖から落ちたはずなのに痛みが全くない。
もしかして既に生まれ変わっているのか⁉︎
おれはベッドから飛び起き自分の身体を確認した。
しかし願いは叶ってはいなかった。
紛れもなく14年間ともに人生を歩んだ自分の身体だ。
しかしここはどこなんだ?本当に天国なのだろうか、そもそも草原に来た時点で既に天国にいたんだろうか。
ベッドから降りてジャンプしてみたり、自分の頬をつねってみたり、大声で叫んでみたりいろんなことを試してみた。
しかし現世にいた頃と全く同じ、なんの違和感もない。
おれはどうなってしまったんだろうか、頭がおかしくなったんだろうか。
そう考えているとガチャリと扉が開く音がした。
音のする方を見てみると、車椅子に座った可愛い女の子が部屋に入って来た。
「お身体の方は大丈夫ですか?」
女の子はとても綺麗で優しい声をしていた。
ここに来てから初めて会うまともな人間におれは泣きそうになった。
だがその喜びは一瞬にして崩れ去る。
おれは全身から血の気が引くのを感じた。
この女の子には足がついていなかった。
「た、大変です! 顔がすごく真っ青、まだ 気分が悪いのでしたらもう少し眠ってて下さい。」
おっと、悪いことをしてしまった。
この状況から察するにこの女の子は海に落ちたおれを助けてくれたのだろう。
その命の恩人を見てこんな態度を取っていては失礼だ。
でもしょうがないだろ?
この女の子は足がない代わりに紅色の鱗、そしてその先には尾ひれがついていた。
そう、この女の子の見た目は童話などに出てくる人魚にそっくりなのだ。
この子が人魚だとするとさっきの緑色のおっさんは多分ゴブリンってやつなんだろう。
そうか何となく状況わかってきた気がする。
でも間違っているかもしれない、まずは確認が先だ。
「ありがとうございます、もう大丈夫です。それと確認なんですがここは日本ですか?」
「ニホン? そこがどこかは知りませんがここはセト王国の王城ですよ。」
全く聞いたこともない国名、しかしまだ決めつけるには早い。
気になることはもう一つある、しかし露骨に聞くのもな・・・・そうだ
「よく出来たコスプレですね、その鱗や尾ひれから考えるとモチーフは人魚ですか?」
「こすぷれ? それも何かはわかりませんが私の種族は魚族ですよ。私たち魚族には海や空を泳ぐための鱗や尾ひれがついているんです。」
気がつくと草原にいたこと、さっき襲いかかってきたゴブリンみたいなおっさん、聞いたこともない国名、自分のことを魚族だと言う下半身が魚の女の子。
これで全てが繋がった。
ここはおれが前いた世界とは別の世界、
おそらく異世界というやつだ。
だとしても何のきっかけで飛ばされたんだ?
やはりおでんが原因か?それとも姉貴と喧嘩したことか⁉︎
くそ!分からないイライラしてきた!
すると女の子はおれの態度を見て気を遣ってくれたのか、おれに喋りかけてきた。
「私の名前はサラーサ・アリエル、あなたの名前は?」
「おれの名前はこ・・・・」
そう言いかけて止まった、ここは異世界だ。
そしてさっきおれは崖から落ちる途中生まれ変わることを願った。
結果的には生まれ変わってはいなかったがこの世界に以前の俺を知ってる奴はおそらくいない。
人生をやり直すために神様が俺にチャンスをくれたのだ。
姉貴さえいなければ俺の人生は違っていた。
そして姉貴の今いない人生を歩める!
だったらまずは形から、名前を変えるべきだ。
なんていう名前にしようか・・・・
「・・・・カイドウ」
自分でもよく分からないがふとその言葉が頭に浮かび、気づくと声に出していた。
「カイドウさんですか、いい名前ですね」
カイドウか、我ながらいい名前じゃないか?
ここから始まるんだがおれの新しい人生が。
異世界人カイドウここに誕生だ!
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