029★やっぱり、恵里花はやらかしました
エリカからの言葉に、特に負傷と疲労が激しい3人が気になっていたアルファート団長は、聖女の能力を思い出して頷く。
「ああ…聖女の能力って…
基本は…治癒と浄化だったな
こっちから、お願いしたい
負傷だけでも直して欲しい」
そんなアルファード団長の表情にちょっと見とれながら、恵里花は使う魔法を考える。
〔治療だから、ヒールが良いかな?
どうせ、ステータスオープン出来なかったし
ヒールマックスって言ってみようかな?
いや、アルファードさんも怪我してるだろうし
ここは、ものは試しにって感じで…………
この森に居る負傷した騎士様達全員を対象に
エリアヒールマックスって……
小さな声で言えば大丈夫なはず
…たぶん…きっと…《聖女召還》の
お約束チート能力がありますように
神様…ご加護お願いします〕
そして、恵里花は使う魔法を決めたので、にっこりと笑って頷く。
「はい、喜んで………」
頷いた後に、エリカ(=恵里花です。これからはこちらの表記にします)は微かな声で言う。
「【エリアヒールマックス】」
エリカの詠唱が終わると、温かみのある金色の光りに、アルファード、ギデオン、レギオン、マクルーファなどの負傷した騎士達の身体が包まれた。
オスカー副団長は、アルファード団長達の他に、ちょっと離れたところに倒れていた中央騎士団の甲冑を着た腕が千切れかけている騎士や、脚があらぬ方に曲がっている騎士達も見ていた。
中央騎士団の騎士達の身体も、金色の光りに包まれていくのを見たオスカー副団長は、すかさずエリカを振り返る。
いや、その光りを見た瞬間に、聖女エリカがやらかしたことに気付いたのだ。
〔あっ…これは、範囲を決めて
その範囲の中に居る者達を全て治癒する
神聖魔法の上級魔法では………
もう少し観察してみましょう
もし、範囲内の者全てを完全に治癒したなら
神聖魔法の究極魔法の使い手になりますね〕
オスカー副団長が、観察していると、倒れていたギデオンとレギオン、マクルーファ副団長も、負傷していたとは思えないほど滑らかに立ち上がる。
オスカー副団長は、どこまで治っているか確認する為に【鑑定魔法】を自分の瞳に掛ける。
すると、《魔力》も《体力》も欠けていない、朝…起きたばかりの状態に戻っていた。
〔これは、姫君の使った魔法は
決めた範囲内の者全てを完全回復する
限界突破の魔法になりますか?
…というコトは…無意識に無理をしてますね
ここは、すぐに休ませる必要があります…〕
オスカー副団長は、負傷していた3人の身体を確かめているアルファード団長をポイッと捨てて、エリカのもとに行った。
すると、エリカの瞳の輝きが薄れて、瞼が落ち始めている。
それを予想していたオスカー副団長は、崩れ落ちる前にエリカを腕に抱きこんだ。
エリカが腰に佩いていた日本刀をするりと取り上げ、直ぐ側に控えていた最側近のフェリックスに渡す。
次に、オスカー副団長は、エリカをお姫様抱っこして、アルファード団長のもとに行った。
負傷していた3名の確認を終えてほっとして、エリカにお礼をと思いその姿を探して見たアルファード団長は、オスカー副団長の姿にぎょっとする。
「オスカー…何をしている?」
その声に含まれるモノを読み取ったオスカー副団長は、腕の中でくったりしているエリカを見ながら、肩を竦めてアルファート団長に言う。
「姫君が《魔力》を使いすぎた結果
意識を失って崩れ落ちたので
受け止めて、抱き上げただけですが?
冷たく、でこぼこで、雑草も生えて……
虫が居る…ちょっと…不浄な地面に……
寝かせるのは忍びないと思いましたので
…それとも…地面に寝かせておけと……」
そんなコトを言うオスカー副団長に、アルファード団長は、言い知れないムカムカしたモノを感じながら言う。
「そんな惨いことは言わん…
私の聖女だ…返せ」
むっとした顔のアルファードの言葉に、オスカーは甘ったれで我が儘な弟を見るような慈愛の籠もった瞳を向ける。
そして、優しく微笑んで、エリカをアルファードに差し出す。
「はい、どうぞ…アルファード団長」
「うっ…判れば良いんだ…」
嬉しそうに笑って、暫しエリカの心地よい重さを楽しんでいるアルファード団長をペッと捨てて、オスカー副団長は職務に忠実という風情で、側近達に命令する。
「フェリックス、ドナルドと周辺に居る
中央騎士団の連中に声を掛けろ
姫君の治癒によって
完全回復しているはずだ
自分で自分の馬を探して自力で戻れと言え
もし、反応が鈍かったら…………
お前達が彼等を纏めて野営地に戻れ
クリストファーとジャスティーは
我が騎士団の負傷した騎士達を纏めて
野営地に戻れ
姫君の治癒により回復しているといえ
戦闘していたのは間違いの無い事実だから
休息を与える必要がある
場所は《水鏡》で魔法使いに聞け」