127★現在のドラゴニアンはハーフトランスもできないようです
ランスロットやデュランと聖女候補の少女達が、室内に入るとエリカとアルファードの話し声が微かに聞こえてくる。
それは、エリカが、魔法について質問しているものだった。
エリカとしては、空を飛ぶ魔法があるなら、聖女候補全員で覚えて、塩水湖までひょいっと飛んで行きたいと思っていたのだ。
騎士達や聖女候補達と一緒に訓練をするのが面倒臭いという、エリカのボッチ(1人でばかりいたので、誰かと一緒に何かをするという行為が実は苦手だったりする)ならではの理由があったから。
でも、もうボッチでいるのもイヤという、ジレンマの中にいる為に、それを解消する方法を一生懸命に探しているのだ。
「アル、こっちの魔法って
空を飛んだりするのってある?」
だから、瞳を期待でうるうるさせながら、にこにこしているエリカにくらくらしていたアルファードは切なそうに答える。
エリカの言った魔法は、アルファードにとっても出来るなら有って欲しい魔法だったから…………。
「う~ん、空を飛ぶ魔法は無いなぁ……」
その会話に、オスカーが補足説明を入れる。
「姫君、現在の我等は血が薄まって
変身できなくなっていますが
ドラゴニアンなのです
元は、自由に空を飛んでいたので
その魔法を必要としていなかったから
空を飛ぶ為の魔法は、存在しないのだと
思いますよ」
オスカーの説明に、エリカは首を傾げてしまう。
マクルーファのケモ耳やおしっぽから、猫科獣人。
オスカーのとがった耳という目に見える特徴でエロフ、もとい、ハイエルフ。
その種族的特長が表面に現われていないアルファードを見て、エリカは小首を傾げる。
獣人ヤエルフと違って、ドラゴニアンという種族のイメージが薄いのだ。
いや、ラノベの知識から、ある程度は理解は出来るのだが……。
その姿が鮮明に思い浮かばなかったので、エリカは誰ともなく呟く。
「必要なかったの…って…えっとぉ…
ドラゴニアンって?」
困惑しているエリカに、苦笑しながらアルファードが端的に説明する。
「飛竜と人の間に生まれた種族だ」
飛竜という言葉に、エリカはやっとドラゴニアンの姿がなんとか脳裏に浮かんだ……ただし、おぼろげに…………。
〔そうかぁ~……飛竜と人の混血児……
ドラゴニアンかぁ~……
なんか、改めてそう言われても……
ああそうなのかぁ~って思うんだよねぇ
アルを含めて、そういう姿の人がまわりに
全然居ないから、実感無かったなぁ……〕
そう思ってから、ラノベなどの挿絵で描かれていたドラゴニアンの姿を記憶の中から探し出す。
そして、ハーフトランス状態で、背中から翼を出して人型で飛び回る姿を思い描く。
勿論、アルファードをベースに頭の中で変換して…………。
エリカは、その挿絵の姿を見た(読んだ)とき、お姫様抱っこで空を飛んでもらったら楽しいだろうなぁ~と思っていたことを思い出した。
だから、アルファードがハーフトランスしたら、空のお散歩を強請ってみたいと思って期待を込めて言う。
「アルって、もしかして翼が出るの?
それに、頭に角とか……お尻尾は?」
エリカのわくわくしてますという表情に、アルファードは哀しそうな顔で首を振って言う。
〔嗚呼、エリカが期待しているなぁ……
ハーフトランスして、エリカを腕に抱いて
空を飛べたらどんなに楽しいたろうなぁ
でも、残念なことに、俺に変身能力は無い
フルトランスして、エリカを宝石のように
手に囲って空を飛んだり、背中に乗せて
空を飛んだりすることも出来ない……
ああ、俺に寵愛の聖女を娶った
皇帝アレクサンダーの能力が有ったら
よかったのに…………〕
「もう、そういう姿に変身できる
ドラゴニアンはいないんだ
寵愛の聖女様を愛した皇帝と
その皇子達が、最後で……
今は、誰も変化できないんだ」
アルファードの言葉に、エリカはちょっと残念という顔をする。
が、アルファードの憂いを帯びた顔を見て、眼福と喜んでしまう。
〔う~ん、憂い顔の美少年もイイわぁ~
変身できないのは惜しいと思うけど
退化しちゃったんならしょうがないよね〕
その後、じっとアルファードを見詰めていたセイで、エリカはあることに気が付いてしまう。
〔うん? あれ? 今朝起きた時は、髪に
金色のメッシュなんて入って無かったのに
今は、左右対称に金色の髪が生えている
コレって、あのラノベと一緒じゃないの?
もしかして、アルの角は金色なのかな?
ってことは、アルはもっと成長すれば
いずれ飛竜に変身できるってことかな?
そうだったら嬉しいなぁ~
憧れの飛竜騎士みたいになれるかも…
うふふ…わくわくしちゃう〕
内心でオタクごころ満載で色々と妄想していたエリカだったが、表情は可愛らしく首を傾げて言う。
「そうかなぁ~…だって、アルの髪って
こことここが、金色になってるよ」
エリカの指摘に、オスカー達もアルファードをじっと見詰めるのだった。