第7話 孤高の剣士
あけましておめでとうございます。
*嘔吐の表現があります。苦手な方はお気をつけください。
「はぁ〜・・・・・」
馬車の窓枠に肘をつき、何度目かのため息をつく。
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ある程度体力も回復し、自然に歩けるようになった頃、ある断れない招待状がやってきた。
〔レディ・シェールへ
明日の午後に王宮大庭園で茶会を開催致します。貴女が来てくれるのを楽しみにしているわ。貴女の好きなお茶とケーキを用意して待っています。
エリザベス・ミラー・ソーンツェより〕
「げっ。」
カエルを踏んだような音を出す。
王族の招待は断れば無礼に当たり、不敬罪と見なされるらしい。
そんなの知ったこっちゃあないのだが、王族からの招待状は貴族の中ではある種のステータスらしい。
おそらくひどい表情をしている私を勇気づけようとしたのか、
「お嬢様。当日は私も付いております。それに、然るべき作法は全て習得されておりますし、何の問題もありません。」
胸を張る。
「ありがとう。ミカ。心強いわ。でも、私、本当に何も覚えていないの。もし、私を知っている人に会ったとしても、「はじめまして。」とか言って怒らせちゃうだろうし・・・・」
俯く。
周囲には長い間眠っていたせいで記憶喪失になってしまった。ということになっている。
本当は《リリア》という「私」が《リルヴィア》に代わっているので、《リルヴィア》ではないのだ。
さらに言えば、《リルヴィア》の自我は目覚める気配はない。
だからこそ、常に不安との戦いだ。いずれはバレてしまうだろう。
その時、父や母を含めた人たちがどう判断するのかわからない。
それが怖くてしかたないのだ。
とりあえず、お茶会とやらまでに交友関係を調べる必要がありそう。
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「・・・・・帰りたい・・・」
呟く。
彼女の日記などを調べたが、会えば話をするくらいの、所謂知り合い程度の人しかいなかった。
「大丈夫ですよ。お嬢様。さ、参りましょう。」
ミカの手を借り、馬車を降りると、そのまま大庭園へと向かった。
嫌な予感が的中しないように祈りつつ、庭園に入ると、色とりどりの薔薇が咲き誇っていた。
「すごい・・・・・」
気後れしてしまいそうな程の場所に、同い年くらいの少女たちが集まっていた。
出されるお茶を啜り、甘いお菓子を食べ、世間話に興じる少女たち。
その奥に王妃様がいらした。
(まずは、主催者の人に挨拶するんだよね、、)
息をのみ、中に入る。
「あら?リルヴィアさまだわ!」
少女たちの輪の中心にいた、ピンク色の可愛らしいドレスを着た少女がこちらへ駆けてきた。
「・・・・えぇ。」
なんとなく、一歩後ろに下がる。
「まあ!雰囲気が変わられて、気づきませんでしたわ!」
声を上げる。
声質といい、少しばかり苦手な感じかした。
「あら。漸くお目覚めになられたのね!」
「まあ。【伝説の乙女】さまよ!」
わらわらと少女たちが集まりはじめてきた。
「っつ・・・・」
(怖い!怖い!だ、誰か助けてっ!)
身体が震えはじめる。
彼女たちがきらきらとした眼差しを向けてくる。
《どの面下げていらしてるのかしら。》
《あのままお屋敷引き篭もっていらっしゃればよかったのに。》
《ヴィル様の正妃の座はわたくしのものよ。》
どす黒い思念が聞こえてくる。
「っ・・・・・・・ご、ごきげんよう。皆さま。」
震える手足をなんとして、元来た道を引き返そうと走り出した。
「!お嬢様っ!」
途中、ミカの声が聞こえた気がしたが、この場から逃げなくてはという気持ちでいっぱいだ。
「っ・・・!うぐっ!」
こみ上げてくる吐き気にその場に疼くまり、吐き出す。
「うゔっ!かはっ!」
胃酸が逆流したのか、喉が酷く痛み、涙が止めどなく流れていく。
少女らの思念が濁流となって押し込んでくるようで、処理しきれなくなっていく。
「お嬢様ー!!」
ミカの声が遠くから聞こえるも、そのまま意識が遠のいていく。
◇
ーリリア。リリア。
優しい王子様の声が聞こえてくる。
「っ・・・・・でんか・・・?」
ひどい頭痛と喉の痛みに目を覚ます。
「ヴィルと呼んでほしいんだけどなぁ。」
少し残念そうな表情の王子様。
そんな表情も麗しい。
イケメン補正がはんぱない。
「・・・・・・」
「ここは医務室だよ。倒れたんだよ?覚えてる?」
「っ・・・ごめんなさい・・・・私、また迷惑を・・・」
「謝るのはこっちだ。まだ早いというのに、母上が強引に招待状を送るからこういうことに・・・・」
辛そうな表情に変わる。
「・・・わたし、挨拶もしていない・・・・」
起き上がる。
「君はそうやって細かい事を気にする。相変わらず視線に恐怖を抱いているし・・・・もう孤高の剣士である必要ないんだよ・・・?」
心配そうに見つめられ、頭を優しく撫でらる。
「殿下・・・・・」
「ん?」
「殿下は優しいです・・・・・優しすぎます・・・・」
彼の手は陽だまりのように暖かく優しい。
「っ・・・・そんな可愛い事を言うと襲っちゃうよ?リル。」
「やっ。嫌ですっ!今は絶対にだめっ。」
近づく唇に手で押さえる。
ちゅっ。と音がする。
口を塞ぐ手にキスをされる。
か、彼は危険だ。キス魔だし、色々距離が近過ぎる。
「かわいい・・・・・」
そのまま手を引かれ、抱き締められる。
「ごほん!」
ピンクな光景にわざとらしい咳が交じる。
「ヴィリニオ王太子殿下。娘との面会時間は過ぎております。 すみやかお引き取りください。」
「!お、お父様っ・・・・」
わたしを隠すように間に立つお父様。
その白衣から薬品の匂いが香った。
ほっとする。
「ちっ。また来るよ。リル。」
舌打ちして出て行った。
「・・・・・・・・」
「リルヴィア。まだどこにも嫁がなくていいからね?」
王子様が座っていたイスに座り、頭を優しく撫でるお父様はどちらかと言うと懇願に近い目をしていた。
けれど、私はさっき王子様が言った「孤高の剣士」というのが気になっていた。
それがお互いの心の鎖だと知らず。
「・・・・ゆっくり休みなさい。もっと早くお義父様の言う通りに里で療養させればよかった・・・・」
「・・・・・お父様・・・・ありがとうございます・・・・・」
「・・・・・・おやすみ。ステラ・・・愛しい我が娘・・・・」
優しい手の温もりに、意識を手放した。
ありがとうございます。
それにしても、シリアスな展開好きだな。。。