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第6話 バイオリンの奏でる音色

ー♪


昼下がりの四阿あずまやにバイオリンの優しく豊かな音色が響く。


---------------------


あの丘で王子様と会った日から数日後。

ベッドからやっと出ることを許されて、広大な部屋の散策を始めた。

それまであまり動かなかったせいで思うように足は動いてくれなかった。

まるで産まれたばかりの子鹿のようで、みっともないったらありゃしない。


ま、さすが、伯爵令嬢。広々とした寝室と衣装部屋に浴室という続きの部屋を持っている。

転んでも怪我はしなかった。

それよりも、着ているドレスや装飾品は上質なものを身につけているため、引き攣ってドレスをダメにしてしまうほうが怖かった。


「!お嬢様っ!!怪我をされたら危ないですっ!!」


大慌てでミカという過保護な目付役メイドがきた。


「大丈夫。これくらい平気。」


彼女の手を借りて、立ち上がる。


いかんせん、足がブルブルする。


「・・・・?」


ふと暖かい風が足元を過ぎる。


それまで辛かったのが嘘のようだ。


ミカを見やるが不思議そうな顔をしていた。


『ぼくがやったのー。』


ひとり(?)の精霊がこちらを見てにっこりする。


「君が?ありがとうございます。」


『あくまでもほじょだからねー。』


そういう精霊がくるくると舞い、ポーズを決める。


「ぶはっ!そ、それでも助かります。」


その可愛さに吹き出し笑ってしまう。


(あ。やばっ。)


「・・・・」


目付けミカの方を見やると、変わらず不思議そうな顔をしていた。


「あっ・・・・・」


すっかり忘れていたが、ミカやお父様には精霊かれらの姿が見えないのだ。

見えるのは私とハイエルフのお母様だけだ。

それにきっとご令嬢は吹き出し笑なんてしないはずだ。


気まずさに視線を逸らすと壁一面の本棚が目に入った。

本棚には様々なジャンルの本が収まっていて、騎士団に属していたからか、〔女にもできる!元女性騎士の身体作り方法〕とか、〔男に負けるな!男社会で生き抜く女性たち〕といった自己啓発本もあった。


(どこの世界も女性は大変なんだなぁ・・・・。)


本を戻す。


部屋の視線をかえると、刃が潰れた剣とケースが立て掛けてあったのを見つけた。

どれも埃は被っておらず、ちゃんと手入れしてあった。

さすが騎士団所属だっただけはある。過酷な鍛錬の跡がある。

その隣のケースを開ける。


「これって・・・・」


『バイオリンだよ。』


いつの間か肩に乗ってる白いふくろうのリーシュ。

何を隠そう、彼は聖獣だ。

彼とは幼い頃にエルフの里で契約したらしい。

聖獣といっても、普通のふくろうには変わり無く、こうやって音もなく肩に乗るのだ。

いちいち肝が冷えてならない。


「え。」


『すぐに飽きてしまったけど。リルヴィアは弾ける?』


「・・・・」


弾けなくはない。だが、弾いていたのは十年以上前なのだ。

弾ける気はしない。


『ね。弾けるなら弾いてみて!あ。そうだ!あっちに行こう!』


部屋の中を飛び出す。


「ちょっと待ってっ。」


彼の後を追う。


『早く!こっち!』


ドレスの袖を引っ張っていく。


そうして着いた先は、色とりどりの花々が咲く大庭園の四阿あずまやだった。

赤や桃色の蔓薔薇が柱に絡まるようにして咲く、なんとも美しい場所だ。


『ここなら皆んなに届くから。』


肩からベンチの背もたれに飛び乗る。


「みんな?」


『いいから。』


彼に促され、テーブルにケースを置き、開けると茜色のバイオリンが眠っていた。

けれど埃は被っておらず、軽くチューニングをしても乱れはなかった。


---------------------


〜♪


優しい音色が奏でられる。


久しぶりだが、まずは弾いてみようと構える。


「・・・・・・」


目を閉じ、深呼吸する。


なんとなくだが、弾ける気がして、弓を引く。


〜♪


嫌な音はせず、そのまま弾き続ける。


やはり最初に弾くのは、シューベルトのアヴェ・マリアだ。

クラシック音楽で一番好きな曲で、最初に覚えた曲でもあった。


優しく、どこか切ない音色に小さな精霊たちが四阿に集まり始めた。


『♪』


音に合わせゆらゆらと身体を揺らす精霊たち。

それが面白く、今度はベートーベンのスプリング・ソナタを弾いてみる。


ゆらゆらと揺れる精霊たちが手を取り合い、音に合わせて踊り始めた。


なんて楽しいのだろう。

かつて弾いていた時は楽しいことは楽しいが、心弾むほどではなかった。

だから仕事を理由にして辞めてしまったのだけど。


ーパチパチ!!


満面の笑みで拍手をするミカ。


「お嬢様!素敵です!!こんなにもわくわくどきどきしてしまうのは初めてです!!なんだか、疲れとかも吹っ飛んじゃう感じがします!それに、お庭の花たちがいつもより元気に咲いてますよ!」


大興奮でまくし立てる。


「?」


『最上級の癒しの魔法だろうね。たぶん、こんなこと初めてだから、わかんないけど。』


毛繕いをしながら言うリーシュ。


「っ・・・・」


「あっ。お嬢様。忘れるところでしたわっ。お薬の時間でございますので、お部屋に戻りましょう。」


「えっ・・・・飲まなきゃだめ?」


「えぇ。次の問診の日まではしっかり飲まなくては。それに午後からは奥様との昼食会もございますし。先のご予定も詰まってしますよ!さっ!」


手を引かれ、庭を後にする。




そんな様子を一部始終見られていたなんてことを知らずにただ、呑気に大変なことになりそうだなぁ。と思っていたのだ。






お読みいただきありがとうございます。


これで、年末最後の更新になるのかな・・・・・。


それでは良いお年をお迎え下さい!

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