第2話 煌びやかな舞踏会
「・・・・はぁ・・・・」
ハーブの匂いがする湯船に身体を伸ばし、ゆっくり息を吐く。
ー少し前、王子と一緒に戻った(?)王都でのことを思い出す。
「!殿下!よくご無事で。」
城門へ辿り着くと、彼と同じ色の軍服を着た男性たちが出迎えていた。
「!そのお方は?」
スキンヘッドのマッチョが一歩前に出た。
(なんか怖い人が来たよ・・・・しかも、なんか睨まれてるし・・・・)
「ああ。リルだよ。魔王の塔に閉じ込められていた。てか、お前下がれ。僕のリルが怖がっているから。」
(!?なんか不憫だよ。そんな言い方。)
「え、あ、はい・・・・」
俯き、後ろに下がる。
その表情がなんか寂しそうに見えた。
「先に陛下に伝えてくれ。伝説の乙女が帰ったと。」
「はいっ!」
敬礼し、先に馬を走らせていった。
「・・・・・伝説の乙女?」
「君のことだよ。リル。君は世界を救ったんだ。」
(!?まじすか。)
「・・・・・君は何も覚えていないんだね・・・」
「・・・ごめんなさい。」
自分でも説明出来ないことを他人に話すのはかなり難しい。
何故か知らぬ内に異世界トリップをしていて、塔で目を覚まし、本物の王子様に連れ出され、今に至るのだから。
ー
「はぁ・・・・」
本日2度目のため息が漏れる。
「失礼致します。正妃様。お湯のお加減はいかがですか?」
青い色の制服を着た若い女性たちが入ってきた。
「あ、はい。いい湯です。」
(この世界にゆっくり浸かれるお風呂があってよかった。)
「左様でございますか。では、御髪のお手入れをさせて頂きますね。」
百合に似た匂いがする液体を手に付け、わしゃわしゃと髪を洗いはじめる。
それが凄く心地よく、いつのまにか身体の力は抜けていった。
まるでエステのフルコースの施術を受けたかのように全身を磨かれる。
「正妃様。」
「!」
(いつの間にか寝てた!!)
立ち上がる。
寝ている間に施術は終わっていて、しかも別室に移っていた。
そんなにぐっすり寝てしまったのか。
「!?」
(おおぅ。)
鏡に映る姿に見惚れる。
深い青色のドレスに身を包んだ美女がいた。
白銀に輝く美しく長い髪は結い上げられ、ドレスと同じ色のコサージュで留められている。
「素敵ですわ。正妃様。」
うっとりする侍女さんたち。
(うん。私もうっとりしちゃうわ。侍女さんたち、いい仕事をするわ。)
「王太子様もお喜びになるでしょう。」
黄色い声を飛ばす侍女さんたち。
ーコンコン。
ドアをノックする音がし、侍女さんのひとりがドアを開ける。
「!・・・リル。まるで雪の精霊のようだ。誰の瞳にも写したくない。」
抱き締められる。
思わず身体を強張らせていると、熱烈な口づけをされた。
「っ・・・」
濃厚な口づけに頭がぼうっとしてしまう。
たぶん侍女さんたちの嬉々とした叫び声が無ければ、失神していたかもしれない。
「このまま舞踏会など出席せずに部屋に篭ってしまおうか。」
熱がこもった視線に俯く。
(誰か助けて・・・・・)
「ごほん。王太子様。正妃様。お時間でございます。いちゃつくのも大概になさいませんと、王妃様に報告させて頂きますよ。」
まさにグットタイミングで侍女長さんの空咳に阻まれた。
「それは困るよ。母上のアレはたくさんだ。」
肩を竦める。
「?」
「リルは気にしなくていいよ。さ、行こう。」
がっしりと腰に手を回され、部屋を出る。
「リル。何も心配しなくていいからね。僕がリードするから。」
微笑み、頰にキスをすると、煌びやかな装飾が施された扉の前で立ち止まった。
「ヴィリニオ王太子殿下のおなーりー!!リルヴィア王太子妃殿下のおなーりー!!」
侍従さんの高らかな口上と共に扉が開く。
「!」
これでもかっていうほどに輝くシャンデリア。まるでヴェルサイユ宮殿の鏡の間のような輝きだ。
着飾った人々がこちらを見ている。
手が震えて来た。
「大丈夫。リル。君は美しい。」
耳元で囁く。
「!!」
バリトンボイスに顔を赤らめる。
さっきから思っていたが、王子様がイケメン過ぎるのに声までイケメンだなんて、腰が砕けてしまいそうだ。
金色の手摺に掴まり、ゆっくりと階段を降りる。
人々の熱烈な視線に俯きたくなる。
気を失うのが早いか、階段を降りきるのが早いか。
(そうだ!こういう時は、全員かぼちゃと思えばいいんだ。かぼちゃ。皆かぼちゃ。)
心の中で言い聞かせる。
「ヴィリニオ。よく無事で戻って来た。」
嬉しそうな笑みを浮かべ、こちらに近づいてくる真っ赤な衣装に、豪華な装飾の王冠をつけたがっしりとした体格の男性。
「リルヴィア。無事に目覚めてくれたのね。」
男性に圧倒されていると、金色のドレスに豪華なティアラを付けた女性に抱き着かれる。
「っ・・・・」
「貴女が目を覚ましたという報せを受けていましたが、実際にこうして抱き締めていると嬉しくて涙がこみ上げてきそうですわ。」
そういうや否や涙を溢す。
「・・・・・・」
「皆の者!これで我が国は安寧の時を迎えた!魔の手はじきに去るであろう!」
高らかに口上される。
「さあ。今宵の宴を楽しもう!」
手を叩くと、ゆったりとした音楽が流れる。
国王陛下と王妃様は満面の笑みで手を取り合い、音楽に合わせて踊り始めた。
それを合図にか人々も踊り始めた。
「リルヴィア。私と踊っていただけますか?」
手を差し出す。
「・・・・はい。」
頷き、その手を取る。
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